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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年2月号

偏見と差別、一般社会は流れている

広田和子

私は3月で62歳になります。少女の頃、身内が精神病院に数回入院した時にお見舞いに行きました。その時、入院した晃兄さんは最後に退院後、何年か通院しました。

その後、晃兄さんは夜間ドライバーとして30数年間働いていました。そこで私は、“精神病院とは人が疲れたり、行き詰まった時に利用するところ”という価値観を少女の頃からずっと持っていました。

その晃兄さんが精神の病だということは思ってもみませんでした。それは、私の中に偏見があったわけではなくて、精神の病というものが存在していることを知らなかったからです。

精神の病、精神病、あるいは心の病の存在を知ったのは、私自身が、精神病院への通院を始めて後のことです。

私の精神病院への初診は1983年4月1日、37歳の時です。5月下旬から主治医の勧めを受けて、院内のデイケアにも通所しましたが、とても楽しい日々でした。ところがある日、デイケアの帰り道に「楽しかった」と話したところ、仲間から「病院の門を一歩出たら病院の話はしないで。もし、話をするなら一緒に帰らない」と言われました。「何で?」と聞くと、「○○病院に通院していることがバレると差別されるから」と言われました。その時に私は精神病院の患者の心境を知って驚きました。

83年秋、デイケアの仲間が自殺したことが神奈川新聞に載りましたが、スタッフは何も語ってくれませんでした。この体質はおかしいと思いました。

しかし、この体質は、単に医療関係者にとどまらず、精神障害福祉関係者の体質であることを後年、思い知らされました。

こうした体質の中に居ると、いつしか患者は、自らの中に“内なる偏見”を積み重ねてしまいます。私も積み重ねの一員です。

私は88年には医療ミスの注射を打たれてしまい、副作用で4月21日から緊急入院を余儀なくされましたが、そこは鍵と鉄格子のある閉鎖病棟でした。

約1か月の入院で薬の調整で8時間ぐらい横になれるようになり退院しました。精神医療サバイバー(生還者)になったわけです。

7月から区内の作業所へ通所しましたが、その時初めて、精神科の患者が、精神障害者と呼ばれていることを知りました。通所する中で、ある意味で精神障害者を差別しているのは身近な家族や関係者だと感じました。

1年間通所後、89年7月から93年3月まで3つの民間会社でパート勤めをしました。精神障害者とカミングアウトして入社しましたが、何の差別も偏見もありませんでした。

一方89年8月、私はイベントで精神医療関係者と出会いましたが、ここでも何も差別や偏見もなく、今でもその時出会った人々との交流が続いています。

89年9月、私は患者会に入会しました。パートタイマーとの両立でしたが、93年3月25日交通事故に遭い、1年間治療して会社には戻らずサバイバーとして活動に専念しました。

患者会の事務局は県立精神保健センターの中にあり、センター職員との関係が近づいたことにより、私の言動が「妄想」とか「躁(そう)状態」という偏見を持たれました。それは、センターの職員の1人が、かつて私の通所先のデイケアから転勤してきて、周りの人に「広田さんは妄想よ。躁よ」と話していたからです。

4年前から私はフィットネスクラブに通い、精神科の患者だと普通に話することもありますが、何の差別も偏見もありません。むしろ私の活動を新聞などで知った人が、サウナの中なので声援してくれます。

昨年10月、私はMRIで脳梗塞が1つ発見されたことで、相談所を探しましたが見つからず、病気の分かる事典を買いました。その事典の中に“こころの病気”というページが16ページもあり、こころの病気を心因性、内因性、外因性と分けています。

こころの病気の治療については、こころの病気は自覚される場合もありますが、外見や言動の変化で周囲に気づかれることもあります。病気というほどでない場合は友人や同僚が相談にのったり、家族が話を聞くことで解決しますが、そうでない場合は、特に本人が病気であることを自覚しない時には、少しも解決に向かわないことになります。そうなると職場や家庭の中でどうにかすることは困難ですので、専門家である精神科の医師に相談に行くのがよいでしょう。よく分からない場合は保健所で尋ねると教えてくれます。最終的には本人が診察を受けて医師が症状を理解した上で、通院かあるいは入院が決まりますと、書いてあります。

そして神経症、不安神経症、恐怖症、強迫神経症、心身症、妄想反応、躁うつ病、うつ病、統合失調症、人格障害、摂食障害、不眠症、過眠症、睡眠時無呼吸症候群など、オーソドックスな病気から、最近注目されてきた病気まで分かりやすく書かれています。

こうした時の流れを私は精神障害者を取り巻く業界の中ではキャッチできませんでした。私の知る業界は「精神は遅れている」という大合唱で、比較の対象は身体、知的障害者です。もしMRIで脳梗塞が見つからなければ、私も社会の流れに気づかなかったと思います。

考えてみれば、精神障害者とは、精神の病で医療機関を利用している患者なのですから、他の病気の方々のことも知るべきだと思います。

平成17年度の統計でも精神障害者は303万人を超え、今日も増加の一途をたどっています。今や、精神の病は流行の最先端です。

社会に訴える前に、患者、家族、関係者の内なる偏見や固定観念を払拭する時がきたと思っています。

(ひろたかずこ 精神医療サバイバー、保健福祉コンシューマー)