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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年2月号

列島縦断ネットワーキング【兵庫】

障害のある人の社会的自立への支援

川本美紀

たるみみなみ障害者地域生活支援センターとは?

社会福祉法人すいせいは、精神障害者の小規模作業所から始まり平成15年4月に法人として設立され、障害者の施策の変化とともに、精神障害者のための社会復帰施設として通所授産や地域生活支援センター等の事業を実施してきました。

平成18年度の障害者自立支援法の施行に伴い、神戸市では各区に相談支援事業所として「障害者地域生活支援センター」を社会福祉法人等に委託することになりました。垂水区においては、当法人がこれを受託することとなり、平成18年10月から「たるみみなみ障害者地域生活支援センター」として事業をスタートさせました。

神戸市相談支援事業「障害者地域生活支援センター」は、児童も含め障害のある人の生活を支援するためのさまざまな視点からのコーディネーターとしての役割を求められています。

現在当支援センターでは、電話・来所・訪問等による相談から必要と思われる情報を提供しながら、地域で安心して生活できる体制づくりに努めています。

支援センターでの就労支援

もともと精神障害者の地域生活支援センターとして活動していた経緯もあり、精神障害者の相談が多かったのですが、平成19年度に入り、他の障害のある人(児童も含む)からの相談も増加してきました。

その中でも相談の中心となるのは、「就労」に関する問題です。何度か就職したが長続きしなかった、職場での他者とのコミュニケーションや人間関係のとり方が困難、体調管理がうまくできない、地域に障害のある人を受け入れて雇用してくれる企業がなく、どうすれば就労できるかというものです。

最近は、ジョブコーチや施設外支援等の導入から就労しているケースが多くなってきていますが、就労後の定着度の確認・職場における人間関係づくりと自分のポジションの捉え方、また体調を崩した場合の自己判断(早期治療や休息を率先する勇気)等に対し、障害のある人や就労先である企業の理解が難しく、就労期間が短期間で終了してしまうといった状況に陥りがちです。特に、求人募集時には障害のある人へ企業が求めるニーズや雇用を継続するための課題が明確でないため、雇用されてからさまざまな問題が起こることが多く、事前に訓練機関である施設(事業所)にそれらの情報が提供できれば、残念な結果を生まずに職場定着へと繋いでいくことができるのではないかと考えています。

また、養護学校や特別支援学校から施設(事業所)での訓練へと進んだ場合、すべての障害のある人が社会に適応していくための技術や能力を等しく習得しているわけではないため、個々に応じた支援をしていく必要があります。

雇用する企業が求める人材についても、送り出す施設(事業所)側と受け入れる側とではその考え方のギャップがあるように思います。そのギャップをコーディネートするのも、私たち支援センターの役割ではないかと思います。

就業・生活支援センターのような公的機関に関わってもらっている人ばかりでないため、就労後のトラブルやストレス等から在宅となり、やる気を喪失してしまい、場合によっては二次障害を来すことも少なくありません。

そのようなケースを作らないためにも、企業・施設(事業所)・養護学校及び特別支援学校とのマッチングを慎重に、適切に行い、個々のニーズや障害特性を理解した上でポイントを絞った支援を行うことが必要であると考えます。

また、支援センターでは、病院から退院する障害者や在宅で長期間生活していた障害者については、生活のリズムを作り、体調の悪い時に自ら調整できるマンパワーを高める支援を行っています。

まず、過去の生活歴や病歴、将来の生活や就労についてどのようなニーズを持っているか等を十分に把握し、自己理解(認識)ができるようアドバイスを行います。そうすることで、少しずつ自分で生活や体調のコントロールができるようになり、次のステップを冷静に考えられるようになります。

このような点から、当支援センターでは就労を考える障害のある人には生活のリズム作りを第一に勧めています。

地域に特例子会社を……

昨年、Y特例子会社との関わりで、地域に特例子会社の分室を設置していただき、その分室で精神障害者の人のトライアル雇用や就労に繋げることができました。

業務内容としては、インターネットのホームページWebサイトのアイテム制作です。1日6時間という目標を置き、個々の状況に応じて訓練時間を調整しながら、精神障害者の就労の課題となっている、「職場での心身の安定をタイムリーに支援する」という点に重点を置き、支援してきました。

現在3人の方がこの特例子会社へ就労することができ、体調や職場における対人関係の確認等、職場定着のための支援を継続している状況です。

それは、支援センターだけの力ではなく、紹介してくださったハローワーク、職業訓練校、状況報告を心がけてくださった企業、また体調管理をしてくださった病院や家族、事業所の職員等さまざまな関係者による支援があってこそだと思います。

垂水区には今まで特例子会社がなかったのですが、今回特例子会社が設置されるということには次のようなメリットがあります。まず、近隣に精神障害のある人の働く場があるという安心感、これは本人の感情の安定にも繋がり、気持ちに余裕ができるため、着実な支援が可能となります。次に特例子会社で先輩や友達が働いている姿を真近に見れることから、自分自身を重ね合わせることが容易であり、自身の目標に具体性を持たせやすいという点です。これらの要素によって、対象者のモチベーションを高めることができています。

今後の展開について

今年度支援対象であった精神障害の方が就労後に企業の広報誌に新人として紹介され、初めての給料をもらった時には、家族や支援機関に対する職場の上司からの配慮があったと聞きました。

そのような話に遭遇すると、障害のある人の社会的自立や地域の理解に少しずつ繋がりができたのではないかとうれしく感じます。

このように順調に進んでいくことのできるケースは少ないかもしれませんが、「障害があるから、就職できない」と周囲があきらめてしまったりあきらめさせたりするのではなく、どうしたら就労へと結びつくのかを考え、個々のペースで前進できるよう環境づくりや支援ネットワーク(図)づくりを今後も推進していきたいと考えています。

図 支援ネットワーク
図 支援ネットワーク拡大図・テキスト

(かわもとみき 社会福祉法人すいせい たるみみなみ障害者地域生活支援センター)