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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年5月号

障害者自立支援法の見直しに向けて
─日本知的障害者福祉協会の要望

三谷嘉明

本稿は日本知的障害者福祉協会(以下、協会)の一専門委員の立場から、協会の意見を反映させながらも、個人的な意見であることをあらかじめお断りしたい。

障害者自立支援法(以下、支援法)は財政破綻、障害者福祉制度を介護保険制度への統合を意図して急遽、立案され成立した。支援法は成立過程自体、さらに障害者福祉の歴史、福祉現場の実情、利用者(その親)・関係諸団体・行政官の意見等、の調整不足から福祉現場に混乱をもたらしている。

協会は平成18年6.6緊急集会を主催し、同年11月下旬から12月上旬にかけて、「支援法対策特別委員会」を設置し、1.知的障害のある人の福祉の目的、2.利用者の負担と所得保障、3.支援法の枠組みと事業体系の見直し、4.相談支援、5.入所施設の見直し(グループホーム・ケアホームも含む)、6.人材確保と予算の確保、7.当面の障害児施設関係の基本的な方向性、8.障害程度区分の見直し、のグループに分かれて検討を行い、それは理事会及び全国地方会長・事務局長会議を経て、協会としての要望書にまとめられた。

1 協会の「支援法の抜本的な見直し等を求める重点要望事項」の概要

協会は平成19年11月28日、自由民主党障害者福祉委員会長宛に、「支援法の抜本的な見直し等を求める重点要望事項」と題する要望書を提出したが、その概要は以下の通りである。

支援法は知的障害という障害特性を軽視した障害程度区分、自己選択・自己決定を阻害するサービス利用の仕組み、支援サービスに係る低い給付費単価、利用者負担の増加など、制度上さまざまな問題が生じており、これまで築き上げてきた知的障害福祉を後退させ、知的障害のある人たちの生活を脅かしかねないものとなっている。ここに、事業者が質の高いサービスを継続して提供し、知的障害のある人たちに本人の希望によるサービスを選択できるよう、次のとおり要望する。

1.障害程度区分の抜本的な見直し

知的障害者の障害特性が反映できるよう、三障害別とすること。区分については、現行の程度区分の6区分から改正程度区分の3区分とすること。協会がAAIDD(アメリカ知的発達障害学会)のSIS(知的障害者支援尺度)を参考に作成した評価表を活用すること。

介護給付と訓練等給付を統合し一本化するとともに、サービスに係る基本部分については固定費とし、併せて支援度に応じて加算を行う給付体系とすること。なお、重複障害者や行動障害者等については、別途加算を行うこと。

2.利用者の希望によるサービスの選択と事業体系等の見直し

障害程度区分によるサービスの利用制限を撤廃すること。利用期間の制限を撤廃すること。日中活動に係るサービス体系については、生活介護、自立訓練、就労移行支援、就労継続支援B型を統合し、一体的なサービス提供体制とすること。

地域生活支援事業の日中一時支援を個別給付の対象事業とすること。施設入所支援と日中活動の各事業(生活介護、自立訓練、就労移行支援、就労継続支援B型)を統合すること。グループホーム、ケアホーム、福祉ホームを統合すること。自立訓練宿泊型をグループホームの一類型とすること。居宅介護に行動援護と移動支援を含めること。障害児については、支援法によるサービス体系には組み込まず、児童福祉法の中で行うこと。支給決定については、当面は都道府県で行うこと。

3.人材確保と資格制度を確立するための報酬単価の大幅な増額

給付費の算定にあたっては常勤とすること。質の高い専門的な支援が提供できるよう支援員の要件に資格制度を設けること。

4.質の高いサービスを提供するために月額制に戻すこと

サービスに係る給付費の支払単位は月額制とすること。

5.利用者負担のさらなる負担軽減

利用者に対する食費ならびにそれに係る人件費、光熱水費の実費負担について全額国庫負担とすること。利用者負担対策については、平成21年度以降も継続すること。

2 「協会の抜本的な見直し案」について

さらに平成19年12月3日、「与党障害者自立支援に関するプロジェクトチーム」委員長宛に「協会の抜本的な見直し案」を提出したが、その概要は以下の通りである。

1.介護保険と障害者福祉の完全分離

介護制度と障害者福祉の制度上の統合は行わないこと。

2.日額を月額に

日額と月額の分離は利用者の選択権を完全に奪い、利用抑制を招いている。固定的事務経費としては別枠とし、食事に係る人件費及び光熱水費の全額公費負担とすること。

3.障害程度区分と報酬額の分離

支援度区分と報酬額とは分離し、報酬単価は事業体系や支援度区分とは関係させないこと。人件費、事業所運営費については、その必要な人材の確保を規準にして事業ごとに算定し、報酬単価を決める。報酬は利用者本人につける。

障害程度区分は改正障害程度区分で3区分とし、障害別の支援度区分を作成すること。障害程度区分に代わって支援度尺度(SIS)を提案する。

4.最小限度の利用者負担

最低限度までの負担の軽減を図る。個人の所得を単位とし、手許金の大幅な引き上げをすること。

5.事業体系の見直し

すべての事業制限を撤廃し、利用者が最適な事業を利用できる選択性にし、施設入所支援は日中活動と一体化する。

6.人材の確保

職員が研修できる制度の確立を図る。俸給表の作成と予算づけをすること。研修のできる人員配置にすること。

7.事業運営についての政省令の見直し

事務の簡素化、利用者サービスの柔軟性を確保のため、政省令の改正を図ること。

8.知的障害児の支援法からの分離

児童は障害児である前に児童であることに鑑み、支援法から分離し、児童福祉法の中で対応すること。

以上の8項目が挙げられている。

3 与党自立支援に関するプロジェクトチームの「支援法の抜本的見直し(報告書)」について

協会の二つの要望とその間の度重なる要望に真摯に応える形で、平成19年12月7日、与党障害者自立支援に関するプロジェクトチームの「障害者自立支援法の抜本的見直し(報告書)」がマスコミを通して大々的に国民に公表された。報告書の内容は、協会が平成19年度より要望を重ねてきた事柄がほぼ全面的に受け入れられている。その内容についてはすでに熟知されているので、項目を挙げるにとどめる。

1 はじめに

2 抜本的見直しの視点

3 見直しの方向性

  1. 利用者負担の在り方
  2. 事業者の経営基盤の強化
  3. 障害者の範囲
  4. 障害程度区分認定の見直し
  5. サービス体系の在り方
  6. 相談支援の充実
  7. 地域生活支援事業
  8. 就労の支援
  9. 所得保障の在り方

で構成されている。

最後に、支援法に対する私の考えを述べて終わりとする。

1.支援法の発想の転換:(多様な自立観、発達的視点、個人と環境との相互作用としての個人の捉え方、ノーマライゼーションの原理の本質に基づく政策遂行、施設と地域を対立概念として捉えない)、2.三障害の一元化は障害者福祉の潮流に逆行:(障害をもつ人の実存的理解、障害文化の多様性の尊重)、3.障害程度区分は全面的な改正:(真の自立への最適な個別支援)、4.障害者福祉の原則全額国庫負担:(すべての人々の共生、安心して生きられる社会の構築)

等への全国民の英知の結集をする。

(みたによしあき めぐみ生涯発達支援研究所主任研究員)