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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年5月号

わがまちの障害福祉計画 東京都杉並区

杉並区長 山田宏氏に聞く
天命天分を生かす─施策を貫く信念

聞き手:三澤了
(DPI日本会議議長、本誌編集同人)


東京都杉並区基礎データ

◆面積:34.02平方キロメートル
◆人口:536,657人(平成20年4月1日現在)
◆障害者の状況: (平成20年4月1日現在)
身体障害者手帳所持者 12,419人
(知的障害者)療育手帳所持者 1,843人
精神障害者保健福祉手帳所持者 1,524人
◆杉並区の概況:
東京23区の西端に位置し、おおむね方形で23区中8番目の広さを持つ。比較的自然に恵まれた住宅都市と大学や高校の多い文教地区の性格を持ちながら成長。江戸時代の初め青梅街道に沿って植えられた杉並木が地名の起こりとされ、大宮八幡宮近辺は東京の中心(へそ)にあたる。「みどり豊かな福祉と文化のまち」をめざし平成4年コミュニケーションマークを制定。
◆問い合わせ:
杉並区保健福祉部障害者施策課
〒166―8570 杉並区阿佐谷南1―15―1
TEL 03―3312―2111(代) FAX 03―3312―8808

▼年度末のお忙しいところ、お時間を割いて頂いてありがとうございます。杉並区の障害者施策等についてお伺い致します。まず、杉並区というところは一口で言うとどんな所なのでしょうか。静かな住宅地という印象があるのですが。

住宅地域ということで、「住まう」ということをキーワードにして、「安心・安全」に住むことのできるまちづくりを心がけています。杉並というところは古くから福祉施策が充実した地域であると考えています。知的障害者のための各種の施設や、身体障害者施設も他の地域より数が多いのではないでしょうか。

▼2006年12月に制定された障害者権利条約では、障害者の社会へのインクルージョンが謳われています。杉並区において障害者施策の基本としておられること、最も大切にしておられることは何でしょうか。

政治家として私の原点は、すべての人にはその人固有の資質や能力があり、それを生かし切るという天命、天分があるものと考えています。一人ひとりがその天命や天分を生かすにあたって、家族や社会にはそれを手助けする義務がある。この世に無駄な人や無駄なものは無い。何人もこの社会から排除しないという考えで25年以上にわたり政治に携わってきました。この社会から何人も排除しないというのは、理想として言うのではなく、ごく当たり前のことだと考えています。

▼何人も排除しないというのは私も共感するものです。地域行政を運営する責任者として、障害者自立支援法をどのように評価されているかお聞かせください。

障害者の自立支援ということは、総合的な観点から考えなければならないのに、福祉施策の狭い範囲にしか踏み込んでおらず、障害者施策が単なる福祉の一分野になってしまっているように見受けられます。障害があろうとなかろうと社会の中での役割があるのに、その位置づけを明らかにし、その役割を生かすという視点が無い。本来は、社会全体の質を高めていく大事な施策として位置づけなければならないのではないだろうかと思います。

▼自立支援法においては、市町村の責任で行う地域生活支援事業の下に、相談支援事業や移動支援等が組み込まれています。これらの事業の実施状況をお聞かせください。

障害のある方が地域で自立した生活をしていくためには、住宅、教育、就労や社会参加などさまざまな事業が不可欠です。また、障害のある方は、それぞれ状況やニーズも異なっています。区では相談支援を重要な事業の一つとして位置付け、現在、地域生活支援事業における相談支援の事業所が3か所あります。今後、地域配置などの観点から、平成22年度末までに4か所を増やし合計7か所とする予定です。

また、相談支援体制の連携強化や関係機関とのネットワークを構築するために、杉並区地域自立支援協議会を平成19年7月に設置しました。

▼現在は、重い障害をもち多くの支援を必要とする人が地域で暮らすことを強く望むようになりました。また、国の障害者施策の基本も「施設から地域へ、誰もが共に暮らせる地域社会へ」となっております。重い障害をもつ人の生活を支えるには、多くのサービスや配慮が必要となるケースもありますが、どのように対応されていますか。

先ほども述べましたが、すべての人が生きていく、存在する意義はあるというのが基本です。重度の障害のある人も、それぞれにこの社会における役割がある。その視点を大切にして必要な支援をすることが重要だと考えます。ただ、福祉だけに力を入れられない現実があり、経済発展と連動した施策でないと意味がないと思います。つまり、経済が悪くなれば支援できない、というのではいけないんで、バランスが大事だと考えています。また税金で保護するという考え方だけでもだめで、その人が社会に役立つことをみんなで助け、そのことを喜び合う。そういう社会の連鎖を広げていくことが必要だと考えています。必要なものにはお金を使いますが、安易にお金を使うという施策はいびつな社会を生み出してしまうのではないでしょうか。

重度障害者に対する具体的な施策として、杉並では24時間安心サポート事業を行っています。障害者の介護者が、急な病気や緊急事態によって介護できなくなった場合に、24時間対応可能な短期入所やホームヘルプサービスの提供によって、障害のある方の地域生活の安心・安全を確保します。また、居宅サービスについては、杉並でも24時間の介護態勢が整っています。支給量については、本人の意向を尊重して決定しています。しかし、介護分野になかなか人が集まらないといった状況があり、求人やボランティアの積極的な募集を広報等で呼びかけています。

▼施設から地域へという動きの中で、特に知的障害や精神障害をもつ人の地域移行に関しては、きめ細やかな施策や配慮が必要になると考えますが、こうした地域移行の取り組みについてお聞かせください。

杉並区では、全国的にも例が少ない入所者全員を対象とする地域生活移行型の入所施設があります。平成18年4月に開設した「すだちの里すぎなみ」は、おおむね入所期間を3年間とする地域生活移行型の知的障害者入所施設です。施設では、入所者の地域生活移行に向けた必要な訓練や支援などを行います。昨年度は7人がここからグループホームなどに移行しました。すだちの里すぎなみや都外入所施設からの地域生活移行をすすめるため、グループホームの整備をすすめ平成23年度末で48か所とする計画を立てています。

また施設からの地域生活移行に対応するため、区内にグループホームやケアホームを確保するための家賃助成や必要な助言を実施しています。今後は地域の受け皿を多様な形でつくっていきたいと考えています。

▼地域で暮らす障害者の意見を直接区政に反映させることを目的として、「障害者区議会」というものを実施されているとお聞きしました。この取り組みならびに住民参加型で実際に施行された事業や具体化に向けて検討されている事業等があればお聞かせください。

平成14年から開催している障害者区議会は、毎年12月に障害者週間の一環として、特定のテーマを設定し区議会議場において、区内在住の障害のある方の代表、区長、すべての部署の部長、区議会議長が出席して実施しています。障害者区議会に寄せられた意見は、可能な限り区政運営に反映します。障害者区議会で懸案となった意見は、翌年取組や改善状況を回答するようにしています。これまで障害者区議会で上がった主な意見は、24時間の相談窓口の設置、特例子会社の誘致、ピアカウンセラーの養成講座、公会堂のバリアフリー化などで、いずれも実施されています。また、高齢者や障害者にやさしい施設として、街中の商店街にステッカーを配布する計画があり、現在、そのデザインを考案中です(注・4月25日現在デザインが決定)。

▼自立支援法では、障害者の就労・働くということを重要なテーマと謳っています。就労移行事業や就労支援事業などで、区としての独自施策ならびに特別に力を入れている取り組みについてお聞かせください。

通所施設で働く障害者の工賃や給料のアップを図るため、区内の施設や作業所と手を結び、「すぎなみ仕事ねっと」を設立しました。参加施設は17団体で、企業からの共同受注、魅力ある自主製品の開発、経験者の協力による技量アップ、経営コンサルタントの導入などに取り組み、数量の多い仕事や納期が短い仕事など、一つの施設では請けきれない仕事でも「すぎなみ仕事ねっと」参加施設で相互に協力して受注しています。

どんな人にとっても、この地域に住んで、働いて生活する、社会参加するということは、基本中の基本だと考えます。自分の個性を生かして働くことは社会的な責任を果たすことでしょう。そのため杉並区では、就労機会を拡大するため、特例子会社(現在3店舗)を誘致し支援しています。また相談や定着支援など就労に関する仕組みを企業や関係機関と協働・協調して築いていくことが重要です。

▼最後に、区長の障害のある人との関わりについてお聞かせください。

こころのバリアフリーいわゆる社会を啓発していくには、体験型のイベントに参加して行くことが役に立つと思います。全国2番目の規模で毎年行われる高円寺の「阿波踊り」には、私も毎回参加して障害のある方と一緒に踊っています。楽しいですよ。障害者団体が主催する「ふれあい運動会」などで感動を経験することもよいことだと思いますよ。こういう経験を子どものうちにすることが大事です。人のために役立つ感動が得られるでしょう。いつかそうしたことが社会に役立つことにつながるものと信じています。


〈インタビューを終えて〉

「すべての人に、社会で生きていく役割がある。この社会から何人も排除しない。」こうした言葉で、区長ご自身の哲学を、熱く語っていただきました。この哲学に裏付けられた、多様な施策の展開を期待します。