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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年5月号

列島縦断ネットワーキング【兵庫】

福祉コンビニから就労支援を

今井裕二

福祉コンビニ「セブンイレブン明石市役所店」を紹介します

障害者を雇用しているコンビニは、兵庫県明石市役所の2階ロビーの一角に昨年11月8日に「セブンイレブン明石市役所店」としてオープンしました。

営業時間は、市役所が開庁している月曜日から金曜日までの午前8時から午後6時までとなっています。ここで働いているスタッフは店長の高橋さん以下8人で、そのうち4人が障害者です。内訳は、身体障害者1名、知的障害者1名、精神障害者が2人。男性3人、女性1名ですが、4月下旬からは、この3月、高校を卒業された女性1名も加わり、5人の障害者が働く職場となっています。

皆さんの勤務時間は、おおむね正午から午後5時と午後1時から午後5時の2通りで、毎日4時間または5時間の就労です。賃金は1時間720円と一般のバイトの方と同額で、1か月の収入は、およそ7万円程度になっているとのことです。

このコンビニは、広さが約78平方メートルで、市役所内にあることから、取り扱っている商品は、お弁当、おにぎり、パン、カップ麺など職員の昼食メニューが中心ですが、お菓子、お茶、ジュース、雑誌や文具などのほか、市営バスのチケット、粗大ゴミのチケット、印紙、切手を扱っています。

また、市内の障害者施設や作業所の授産品も取り扱っています。

これまでの経過

明石市が障害者を雇用するコンビニの誘致を行うこととなったのは、平成18年度に障害者の就労支援を大きな柱に位置づけられた「障害者自立支援法」の施行がきっかけでした。それまで、行政の取り組みとしての就労支援は、主に特別支援学校の卒業後の進路としての施設や作業所の整備など福祉的就労の支援が中心で、一般企業への就労支援は、特別支援学校の進路担当者とハローワークにお任せの状態でした。

一方、市議会においては、障害者自立支援法が施行されるとサービス利用にかかる1割負担の問題が大きく取り上げられました。特に授産施設に通う障害者からは、「授産施設に通って1割負担をすると工賃なんか吹っ飛んでしまう。一般人が会社に行くのにお金を払って働きに行くようなものだ」という利用料が工賃を上回る状況が問題となり、支援策が求められました。そのときの議会答弁の中で、北口寛人市長から『障害者の就労支援を民間だけに任せてばかりでは進んでいかない。いまこそ明石市(行政)が先頭に立って取り組んでいく姿勢を見せていかないと就労支援は進まない。そうした観点で新しい支援策を検討していく』といった発言が契機となりました。

その議会後に庁内の若手職員による検討プロジェクトが発足してアイデアを出し合った中で、就労支援の方法として「障害者が働くコンビニ(売店)の設置」と「障害者の作業所を市役所の中につくる」の二つの施策が採用され取り組むことになったものです。

取組の経過

この取り組みの窓口は、平成18年12月、障害者の就労支援が第1目的ということで障害福祉課が担当することになりました。さっそくインターネットなどで調べた結果、大分市役所内にコンビニがあることが分かりました。

翌19年3月に視察し、計画から実際、公募して運営をしてもらう流れを聞いてきましたが、実現へのハードルの高さに不安ばかりが募りました。その後、新年度の新規施策の記者発表でこのことが取り上げられたことから、4月になるとさっそくコンビニ業界のD社、P社、J社の3社から問い合わせがあり、そこから取り組みを始めました。

問い合わせのあったコンビニ事業者を呼んで、どういう条件であれば進出ができるのかを聞きながら課題を整理していきました。ひとつは、採算面から進出してもらえるのか。限られたスペースと営業時間、定期的な顧客の数から採算がとれる見込みが立つのか。そうした中で障害者が雇用できるのか。

もう一つが、どんな障害の人であればコンビニで働けるのかということで、接客が中心であり、物品の販売ということから計算がある程度できなくてはならないなどの条件が考えられました。

不安が大きくなる中で、就労支援専門機関であるハローワーク明石や兵庫障害者職業センターにどんな障害者が就労可能なのかを相談しました。その結果、知的障害者や精神障害者でも中軽度の方であれば可能であり、募集をすれば申し込みはかなり期待できるとの答えをもらい、一安心。また、短時間であっても障害者雇用の助成は受けることができること、状況によってはジョブコーチをつけることができるという発見もあり、事業者にとっても大きなメリットが生じ、進出へのインセンティブが働く可能性が大きいことも分かりました。

それらの整理をする中で、コンビニ誘致の見通しが立ち、大手のコンビニチェーンに積極的にアピールしながら、市役所の開庁時間の営業を基本とし、障害者を常勤換算で1名以上を雇用すること、場所の賃貸料は1年は無償とし、営業利益がプラスとなった時点で払うことなどを条件として、8月公募に至ることができました。

その結果、最初の3社に加え、最大手のS社も参加して4社によるコンペが行われ、セブン・イレブン・ジャパンが進出することが決定しました。

現在の状況

開店して5か月が経ちましたが、4人の障害者の皆さんはすっかりスタッフとして慣れて、いつも明るく大きな声で、「いらっしゃいませ」とはりきって接客されています。市役所の中で一番目立つ2階のロビーにあり、役所の雰囲気もずいぶん明るくモダンに変わりました。売上も着実に増え、ほっとしているところです。店長の高橋さんも、「みんなよく働いてくれているので取り組んでよかったと思っています」と語ってくれました。また、セブン・イレブン・ジャパンの兵庫地区担当からも、「担当区域内のどの店舗よりここの接客態度はよく、その情報を聞いた各店舗のオーナーからも障害者雇用の様子を聞きたいとの声をたくさん聞いている」との報告も受けているそうです。

市としては、当初の常勤1名以上をはるかに超える障害者の方の雇用の場となったことに非常に満足しています。また、市内の作業所や施設が作っているクッキーやせんべい、しおりなどの小物も取り扱い、常設の販売場所ができて関係者に喜ばれています。

期待すること

このコンビニでの障害者の就労は、知的障害者や精神障害者でも中軽度の方であればコンビニで十分仕事ができることを実証しました。その結果、セブン・イレブンでは、他の店舗において障害者の雇用が実現され始めました。

こうした動きが全国にある4万店のコンビニで各1名の短時間雇用の場が広がってくれれば、非常に大きな就労の場になると思います。国においても、今年から短時間就労でも障害者雇用にカウントするようになりましたが、フランチャイズ店舗での雇用も本部の雇用率に算定されることになれば、もっともっとこうした動きが広がってくるのではないかと期待しています。

(いまいゆうじ 明石市福祉部参事兼障害福祉課長)