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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年6月号

同志社大学における障がい学生の受け入れおよび支援の現状と課題

長澤慶幸

同志社大学は、2000年に「障がい学生支援制度」をスタートさせた。私が現在の部署に配属されたのは2005年5月であるが、その間、日本学生支援機構や日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNetJapan)などの高等教育支援組織が本格的に支援に取り組みはじめるなど、この2~3年の間に障がい学生をめぐる支援状況が大きく変貌していく過程を目の当たりにしてきた。今回は、私の業務経験から一般的な大学の課題ではないかと思われることや、同志社大学の取組の成果について紹介する。

最近の動向

中教審答申(2005年12月)では「高等教育機関における障がい学生の修学支援の必要性」を提言、教育基本法改正(2006年12月)でも「国及び地方公共団体は、障害のある者が、その障害の状態に応じ、十分な教育を受けられるよう教育上必要な支援を講じる」と定めるなど障がい学生の教育について支援を講じるように求められている。

一方、障害のある生徒の進学率は約20%(日本学生支援機構調査)という低い状況にあるのが現状である。しかし、大学のユニバーサル化とあいまって、障がい学生の大学進学率が伸びつつある。障がい学生が健常学生と同一の条件で履修できる環境を整えていくことが、各大学の課題になってきている。

「障がい学生支援制度」が立ち上がるまで

同志社大学は1949年に日本の大学入学試験において、初めて点字受験の対応を開始した。1982年には、学長の諮問機関である「障害者問題委員会」を設置し、これを契機に今出川キャンパス内にスロープや自動昇降機を設置した。1986年、京田辺キャンパスの設計にあたりバリアフリー化を意識し、図書館内には点字室や対面朗読室を設置した。これらの取組が組織として「障がい学生支援制度」をスタートさせる素地になったと考えている。

2000年3月「障害者問題委員会」の答申を契機として、5月に全学的な組織として「障がい学生支援制度」がスタートした。ところが制度が始まり運用面でさまざまな問題に直面したため、1年後、「障害者問題委員会」から再度学長宛に答申が出され、2001年10月より講義補助から講義保障へと一段と踏み込んだサポートが始まった。この際、一部の支援ではあるが、サポートスタッフの活動を有償化した。

2002年には「障害者問題委員会」の名称を大学の姿勢を表す名称にするため、「ノーマライゼーション委員会」に変更した。また学業面は学部および教務部、施設面は施設部、生活面は学生部という縦割りをなくし、総合的な相談窓口を学生部(現在の学生支援センター)に一本化した。

2008年4月にはノーマライゼーションに対する学内の一定の認識定着を受けて、「ノーマライゼーション委員会」を発展的に解消し、「学生主任連絡会議」を設置している。

「障がい学生支援制度」の理念

障がい学生支援は、学業の支援がメインとなるため、教務部の担当であると考えるのが自然である。しかし同志社大学では学生支援センターが担当している。なぜなら、障がい学生だけでなく支援する学生サポートスタッフの成長にも着目しているからである。学生サポートスタッフが、障がい学生と触れ合うことによって、逆に学びを得ることもあり、その成果を再び大学内外のコミュニティに還元させてほしいとも考えている。

障がい学生と学生サポートスタッフのコミュニティは、特別なグループであると他の学生に思われがちである。従って一般学生と温度差が出ないように、障がい学生の支援について多くの学生に浸透させることが大切であると考えている。だれもが気軽に手を差しのべられる状況にすることが理想的な状況であり、たとえば、肢体不自由学生が教室から移動する際、同じ授業の受講者が移動を手伝う、自転車を点字ブロックの上に止めないことなどを全学生に意識してほしいと考えている。

障がい学生支援を特別なものでないと意識させるための手段のひとつとして「ランチタイム手話勉強会」を行っている。京田辺キャンパスの学生支援センターではカウンターを事務室の半分の位置に下げ、事務室内にラウンジスペースを設けている。そのラウンジスペースに障がい学生支援担当のコーディネーターが出向き、昼食を食べながら気軽に手話を勉強するというものである。このフロアには、国際センターや奨学金、クラブ・サークルの窓口もあり、手続きのために事務室に訪れた学生がランチタイム手話を目にして、障がい学生支援に興味を持ってほしいというねらいを持っている。

全学的な周知

現在、同志社大学で一番力を入れていることは、大学の構成員にいろいろな形で障がい学生支援制度を周知することである。『教職員のためのガイド』は、嘱託の先生、アルバイト職員も含め約2,000部配布している。2003年3月の卒業式からは、新入生、その保護者、教職員に大学の姿勢を示し、理解をしてもらう意味も含めて、壇上に手話通訳者を配置している(現在は入学式も配置)。2006年4月の入学式からは、パソコンに話の内容を入力してスクリーンに投影するPC通訳者も配置している。その他教職員、学生向けの広報誌、ホームページや立看板、学内の数か所に設置しているプラズマビジョンでの周知、「ふらっと」という教養型の課外プログラム(映画上映等)を行う際、支援制度への参加を呼びかけるちらしの配布、クラス規模の大きな授業において、スクリーンにPC通訳の画面を投影して授業内容を通訳するなどを行っている。一般学生への啓発の意味も含めて先生方のご理解をいただいた上で取り組んでいる。

また3月上旬に、入学第1次手続き者全員に「障がい学生支援制度のパンフレット」を送付している。この郵送物は、同志社大学の魅力を発信し本学に定着してほしいということを広くアピールするために、学生支援センターの刊行物を中心に送付しているものである。障がい学生に対してはできるだけ早い時期にこの制度を理解してもらい、早い段階で連絡をしてほしいという強い思いと同時に、一般学生に対しても、このような制度が同志社大学にあるということを広く知ってもらうという大変重要な取組であると認識している。

4月に入ると担当者が随時制度の説明と登録を受け付け、4月中は適宜臨時講習会を設けている。「障がい学生支援制度」利用学生の希望に沿うように学生サポートスタッフの登録、養成、派遣を常に行い、5月からは毎月、講座や講習会を開講して学生サポートスタッフの母数を安定させ、レベルアップを図っている。

6月には教職員に対して障害支援の理解、啓発のための研修会を行い、学期末には教職員、障がい学生、サポートスタッフによる懇談会を年2回行っている。

障がい学生とサポートスタッフ数の推移

同志社大学では、大学の姿勢として人を意味するときにのみ可能な限り「障がい」(例:「障がい学生」)として使い分け、呼称ひとつにも留意し、啓発の機会として捉えてきた。

近年の「障がい学生支援制度登録者」が、2000年度は5人に対し2007年度は22人と増加傾向に呼応して、1.PC通訳、ノートテイクなどの講義保障のサポートスタッフ派遣調整をはじめとして、最前線で幅広く支援コーディネートを行う障がい学生支援コーディネータ体制の強化、2.制度上支援する枠組の明示、3.ボランティアサークルに依存せず、大学としての学生サポートスタッフの底辺拡大と人員を確保するための取組(サポートスタッフ数は、2000年度春学期は46人に対し、2007年度秋学期は250人と約5倍に増加)、4.学生サポートスタッフが「責任」を持って支援にあたり、制度利用学生も「遠慮」なく支援を受けられるよう、制度枠組内の支援をすべて有償化、5.サポートスタッフ派遣システムの開発に取り組んできた。

その結果、聴覚障がい学生に対する講義保障や、キャンパス内車いす介助・トイレ介助・ガイドヘルプなど、2007年度秋学期を例にとると、週152件の派遣要請に対してほぼ100%のサポートスタッフ派遣率を達成している。

特徴的な取組

同志社大学の特徴的な取組をいくつか紹介する。まず2005年度に開始した「Challengedキャンプ」である。2007年度は24人(内、障がい学生は6人)が参加し、近江八幡市で実施した。寝食を共にする2泊3日のキャンプでは、アイマスクをして今出川キャンパスから近江八幡市まで移動するブラインド体験や、耳栓をして声のないコミュニケーション体験、車いすで実際に街中を移動する体験など、実際の体験を通した気づきから障害への理解を深めるとともに、参加者の心のバリアと向き合うことに主眼を置いた企画である。

次に学際科目「学びのバリアフリーを考える」であるが、この授業は聴覚障がい学生の講義保障のあり方に着目し、支援を受ける学生の学びについて理解を深めるというねらいを持って2005年度に開講した。PC通訳等、さまざまな支援を体験していくなかで、学びのバリアフリーについて考え、最終講義ではグループごとにディスカッションを行い、これらを通して他者とのかかわりの中から自己を捉えなおす機会としている。単に障害や支援技術について考えるのではなく、人間としての成長、発達について考えることを目的としている。

また障がい学生へのキャリア支援にも取り組み始めている。障がい学生のキャリア支援を円滑に進めるため、キャリア支援の窓口であるキャリアセンターとの連携がスムーズに行われるように意識している。2007年度には学生支援センターとキャリアセンターとの共催で、障がい学生による就職体験談や障がいのある卒業生から実際の職場の状況について話してもらう「就職セミナー」を開催した。これから就職活動を始める障がい学生にとって、有益な情報が提供できたのではないかと思っている。

最後に、2007年度より学生サポートスタッフのモチベーションを上げる意味も含めて、支援を4年間続けてくれた学生サポートスタッフを表彰した。表彰を受けた学生サポートスタッフの表情を見ていると一定の効果があったのではないかと考えている。

今後の課題

大学院生に対しては、講義内容が専門的になり、学部生を基本としたサポートスタッフでは十分な対応ができないこともあり、可能な範囲で支援するという段階で、補助的な立場にとどまっている。また現在は、障がい学生が希望する全講義にスタッフを派遣するなどの制度面や設備面はある程度整備されつつあるが、当該科目担当者へのFD活動に関しては未着手の部分も多く、講義における障がい学生に対する配慮をどのように周知・徹底していくべきかが課題となっている。

最後に障がい学生支援業務は、日々想定していなかったことに直面することが多く、常に試行錯誤を続けている。先例にとらわれず、常に対面しながら問題を解決していく姿勢が大切であると考えている。

(ながさわよしゆき 同志社大学学生支援センター京田辺校地学生支援課学生・生活係長)

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