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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年6月号

日本福祉大学における障害学生の受け入れ・支援の現状と課題

藤井克美

はじめに

日本福祉大学(以下、本学)は1953年の開学当初より、障害のある学生が入学し、教職員や学友の協力を得ながら学んでいた。その後も、各種・多くの障害学生が本学で学んできている。50年以上前の創立時から障害学生を受け入れ、その後も継続してきた取り組みは、本学の基本的な立場を示している。福祉の心・人類愛に立ち上がる開学精神の具現化を進め、障害学生支援の「日本福祉大学モデル」は関係者に知られている。障害学生、一般学生、教職員が「ともに学びあい育ちあう支援」をすすめ、「学習弱者を生まない」システム創りを進めていく特徴を持っている。

本学で学ぶ障害学生は年々増加している。2008年現在、本学に在籍する視覚・聴覚・肢体不自由のある障害学生は200人を超え、本学障害学生支援センターに配慮依頼をしているのは114人、そのうち、学習上支援が必要な学生は101人である。図1に最近の本学における要支援障害学生数の推移(2008年5月現在)を示した。本稿では、本学で障害学生受け入れとその支援の現状と課題について紹介する。

図1 本学における最近の要支援障害学生数の推移
図1 本学における最近の要支援障害学生数の推移拡大図・テキスト

1 障害学生の受け入れと支援体制づくりの歩み

本学では、障害を理由に入学を拒否することはない。入学を希望する障害学生を受け入れつつ、教職員や学友がその実態や教訓から学び支援体制を構築してきた。

開学当初に肢体不自由学生が入学し、インフォーマルな支援を得ながら学び、1963年には、講義棟、廊下や階段に「手すり」を設置している。1979年には、視覚障害学生(全盲)から点字受験希望があり、教授会に「身障入試特別委員会」を設置し調査検討を行い、実施した。学生自治会も「学内障害者の勉学・生活条件を守り発展させる会」を組織し、今日まで活動を継続している。75年にはループアンテナを講義室に設置、76年には障害者用トイレや2階へのスロープを設置している。学生、教職員それぞれが必要に応じて障害学生支援に関する組織を設置して取り組んできた。

1983年の名古屋から美浜への移転の際には、「障害学生実態調査」に基づきキャンパスをバリアフリー化している。そして、施設面の整備とともに、支援体制を進めるソフト面の整備が必要であることを確認し、学生自治会の「学内障害者の勉学・生活条件を守り発展させる会」との協力のもと、「総合的施策構築」を前進させようとした。

1998年に大学付置機関として、「障害学生支援センター」を開設し、障害学生支援の総合窓口とした。障害学生、サポート学生、教職員の相互理解と連携を促進するコーディネート機関として活動を展開し、学内において障害学生、サポート学生、教職員がともに学びあい育ちあう支援を推進してきた。

現在、障害学生支援センターは、学長補佐のもと、学生生活総合支援機構の一機関として位置づけられている。各学部教員と各事務室職員および障害学生支援センター教職員により構成される「障害学生支援センター運営委員会」を組織し、支援センターの運営事項について決定している。

また、独立行政法人「日本学生支援機構」や全国の関係大学とも連携し、高等教育機関における障害学生支援の発展に寄与している。学内外の環境を整備し、点字印刷機や字幕挿入機器など施設設備の拡充を図り、ボランティア実践基礎講座や、支援技術のスキルアップ講座を開催するなどして支援体制を発展させている。

2 障害学生支援の現状

(1)入学前の取り組み

本学の学生は、推薦入試、AO入試、一般入試などを受けて入学してくる。入学前年の10月には入学が定まっている学生もいて、その中には障害学生もいる。本人が入学を確定した時点から、障害学生支援センターとして面談を始める。この入学前の取り組みが極めて重要である。高校までと違う学習スタイルと本学の障害学生支援の考え方や方法を知ってもらい、心構えと準備ができるようにする。高校生の進路発見セミナーや、本学オープンキャンパスに参加する障害生徒と同席する保護者や関係者にも同じような内容で話す。自分の障害について教職員や学友に話し理解を得ること、自分のニーズに合った支援を求めること、支援を得ながら自立した生活をすることと学習をすすめること等を理解してもらう。

視覚障害がある場合、日常的な学生生活をどう過ごすのか、授業の受け方で、入学までにしておくことを知ってもらう。寮や下宿生活の過ごし方、また、大学までの登校、学内での移動を入学式までには安全に効率よくできるようにしておくことが基盤になる。受講においては、読み上げソフトやメールの利用ができ、点字の記録ブレイルメモやCDに録音して使うプレクストークなどで講義メモが取れようにしておくことが望まれる。

聴覚障害がある場合、近年は普通高校から進学する学生が多く、手話を身につけてなく、ノートテイク、パソコンテイク、手話通訳を受けた経験もないまま入学してくる場合が多い。大学の授業では、ノートテイク、パソコンテイク、手話通訳が必須で、基本的にそれらをセルフコーディネートし、授業担当教員の協力・配慮を求める。障害学生支援センターは、受講支援学生を募集したり、技術スキルアップの講座を開いたりするなどして支援コーディネートをするシステムを理解してもらう。

肢体不自由がある場合、受講でノートテイクが必要か、また、試験時間や試験方法に配慮が必要か、移動や食事など学内生活でどのような支援が必要なのかということなどを確認し、本人が自立した学生生活を送ることを基本とした入学前の支援をすすめる。

発達障害のある学生の入学もある。最近は、保護者や本人から発達障害と診断されていることや、学生生活や学習を長時間続ける困難さに配慮や支援を要望するケースが増えつつある。入学前の面談で、個別のニーズを確認しつつ配慮や支援に取り組む。

いずれの障害がある学生でも本学の障害学生支援システムを理解して、障害学生の主体的な役割の自覚を促すのである。

(2)ともに学びあい育ちあう支援

1.障害学生

障害学生は入学直後、本学にある6学部ごとに行う障害学生支援センターオリエンテーションで、本学で学びたいこと、自分の障害のこと、受講支援を依頼したいことについて、話す。所属したゼミクラスでも自己紹介の中でも、学ぶ上での必要な支援について話す。講義担当教員にも配慮依頼をする。そして、自主的に、当事者組織や支援サークルに所属して、活動する。

2.一般学生・サポート学生

一般学生は、障害学生支援センターのオリエンテーションで、障害学生やボランティア活動をしている学生の話を聞いたり、障害学生支援センターの呼びかけに応えたりしてボランティア登録を行う。障害学生支援サークルに所属して活動を継続したり、障害学生から直接支援依頼を受け活動したりする。支援活動の基礎を学んだり、支援技術のスキルアップのために、ボランティア実践基礎講座や各支援技術のスキルアップのための講座を受講したりして、学ぶことやクラブ活動などでの学生生活を充実させる中に、障害学生支援活動も位置づけている。

3.教職員

障害学生が在籍しているゼミ担当教員は、当事者の要望やゼミ生の意見を配慮してゼミ授業デザインを考える。手話通訳派遣事業を活用することもある。講義担当教員は、受講している障害学生の配慮要望を聞き、配布資料、プレゼンテーション、講義の進め方を工夫する。

4.障害学生支援センターの役割

障害学生支援センターは、障害学生支援の総合窓口として、障害学生、サポート学生、教職員の相互理解と連携を促進するコーディネート機関としての役割を担っている。日常の具体的な支援活動のコーディネートをしつつ、障害学生、サポート学生、教職員、また、学外関係者の相談活動をすすめている。

3 本学における支援活動の課題

「ともに学びあい育ちあう支援」のあり方は、充実発展に無限の可能性を持ち、常に新たな課題が明らかになる。図1に見るように、要支援学生が増えていることは支援体制の充実の成果でもあり、また、新たな課題が提起されていることを含んでいる。

講義や演習などの受講支援での情報保障の量や質については、点字資料、読み上げ可能な資料提供、ノートテイク、パソコンテイク、手話通訳配置など、大学での授業対応が問われ、支援の質を高めることからも、それら関係者の養成をボランティア活動者とともに受講支援者専門家を育てる課題がある。支援方法として長年行ってきた取り組みにも、それぞれ課題があるのである。

図1の「内部・その他」と記されている数値には、発達障害や精神障害のある学生も含まれている。実は、現状の中でこれらの障害をもつ人たちが置かれている実情のもとでは図に表れていない場合もある。ノートテイクなどのような支援活動でなく、受講のあり方や試験の受け方などの支援活動のあり方は、個別のニーズに応える支援として、丁寧に作り上げていく課題がある。

また、支援活動をコーディネートする取り組みの充実だけではないスタイルが求められる。大学全入時代の中で学内外の人的物的資源を新たな観点で活用していく活動が必要となる。担当医、ソーシャルワーカー、との連携も欠かせない。本学でも大学の責務を果たす新たな課題として、学内で教職員の研修会を開いたり、ケースカンファレンスを持ったりして取り組み始めている。

おわりに

本学の障害学生の支援システムは、友達の中に受講に困難さを持っている障害学生がいて、それを支援するのは当たり前のことで、そのために時間と労力を使いスキルアップするのは当然と考え、福祉の精神を学生生活の中で学ぼうとする学生に支えられている。障害学生、サポート学生の育ちは、大学生活におけるノーマライゼーションの内実が図られ、真のインクルージョン社会となることが期待できる。

(ふじいかつみ 日本福祉大学障害学生支援センター教授)

【参考文献】

  • 藤井克美(2007年)「大学における新しい障害学生支援の取り組み―日本福祉大学の場合」全国障害者問題研究会
  • 「日本福祉大学障害学生支援センター年報第1号から8号」(1999年から2007年)

○障害学生支援センター(美浜キャンパス)
TEL:0569―87―2432
FAX:0569―87―2239
E-mail:support-c@ml.n-fukushi.ac.jp
http://www.n-fukushi.ac.jp/shiencenter/madoguchi.htm