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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年6月号

静岡福祉大学の障害学生支援、現状と課題

太田晴康

はじめに

「(配慮とは)学生の成功を保障するものではない。(略)講義における配慮の最終目標とは、その講義の目標に到達する機会をすべての学生が等しく持つことができるようにすることである」(スコット・リスナー)1)

このことばは障害学生支援の本質を端的に示している。私たちはともすると、障害があるのだから人一倍がんばらねばならないといった、一人のがんばりに期待しがちである。あるいはこれだけ配慮しているのだから成績がよくなるはずだと学生に要求したり、障害学生を特別扱いすべきではないといった声にしばしば出会う。

しかし障害学生支援とは、教育の機会均等を実現する適切な配慮と考える。いわば一人ががんばる障害観ではなく、みんなでがんばる障害観への発想の転換である。その意味では教育のユニバーサル化ともいえるが、障害状況の多様性という特徴から、常に個別に障壁を取り除くバリアフリー化の発想が求められる。

現在、障害のある学生が在籍する高等教育機関が増えているが、その背景としては、障害を理由として免許を与えない「欠格条項」の廃止が象徴するように、障害のある若者の職業上の選択肢が広がったこと、福祉のまちづくりに見られるように、障害者のアクセシビリティに配慮した環境が整いつつあること、そして学生の視点に立った就学環境づくりの大切さを高等教育機関の側が意識しはじめたことなどをあげることができる。

見方を変えれば、「完全参加と平等」というスローガンで知られる国際障害者年をきっかけとするわが国の障害者運動の大きなうねりと、それに応える形で障害者施策を推進した行政を中心とする努力が高等教育の分野で実を結びつつあるともいえる。その意味で、障害学生数は排除なき共に生きる社会のバロメーターの一つといってもよい。

本学の支援の経緯

本学は1学部2学科と短期大学部で構成され、学生数は約900人と小規模かつ開学4年と歴史の浅い教育機関である。現在、支援を必要とする学生は全盲、弱視、難聴・ろう、運動障害、内部障害など、9人が在籍する。平成16年の開学時、障害学生は入学しなかったものの早々と障害学生支援委員会(現・障害学生支援室)を立ち上げた。これは本学の福祉理念――「障害があるなしにかかわらず、ともに社会参加できる」環境を実現する活動の一環であり、教育理念として掲げた「個別に応える教育体制」を具現化する仕組みとして位置づけられる。

開学時の入学式において手話通訳、パソコン要約筆記を導入したが、こうした情報環境の整備は一人の情報弱者も生まないという決意の表れでもある。その根底には、障害のある学生を助けるという発想ではなく、教育目標を達成する過程で生じる不便さの解消を図る、そのために就学環境を改善するという考え方がある。

これまで本学に入学した障害学生の要望は多様であり、支援は入学前相談から始まる。この相談は本学を志願校として視野に入れた段階で実施され、必ずしも入学を前提としない。他学の支援状況や支援情報を来談者に提供することもある。相談の目的は、学生が教育機関に求める要望と本学が提供できる支援を互いに確認する点にある。入試を経て入学が決まると、入学前の授業見学をすすめる。いくつかの授業を体験し、支援策を具体化するのである。そして申請手続きについて説明し、ときには入学後も定期的な相談の場を設ける。こうしたプロセスを通じて、必要かつ効果的な支援を学生自らが主体的に明確化できるように見守る。

その結果、教員の口形を見て発話内容を読み取るので大丈夫と言っていた難聴の学生が早速ノートテイクの支援を申請した例もある。高校時代は自らノートを取ったが、授業の体験を通じてノートテイクの必要性を訴えた上肢の不自由な学生もいる。

支援の申請にあたり身体障害者手帳の写しや診断書は必要としない。理由は三つある。まず、面談や授業見学を通じて支援内容を確認し、本人の要望が明らかになるため、申告時に障害を証明する必要がない。

二つ目に個人情報への配慮がある。面談の中で病名や症状を聞くことはあっても、手帳の写しや診断書を添付する必要はないだろう。

三つ目に障害の種別や程度と支援内容が、必ずしも一致しないということもある。上肢を動かしにくい学生や弱視の学生がノートテイクを活用する一方で、ある難聴の学生はゼミの授業では第三者によるノートテイクよりも、ゼミ生たちとのパソコンを活用した筆談を選択した。ときには手話通訳者を依頼することもあるが、その学生はむしろ全員で情報環境を整えていく方向を望んだ。

このように、情報コミュニケーション分野をはじめとして、支援とはその手段において障害の種別を横断するのである(図参照)。

図 障害のある学生と「適切な配慮」

  配付資料・教科書の点訳、拡大コピー、電子データ提供等 テープ録音の許可 会話時の配慮(顔を向けて話す、発話者の名を告げる等) ノートテイカ一による支援 手話通訳者による支援 授業中の読み書きの代替措置 視線の移動に配慮した板書等 筆談を活用したコミュニケーションと文字情報の提示 教材の字幕や副音声等の付与 個別指導(レポート執筆、補習、学習計画作成等) 代筆者、音読者による支援 障害に適応した実技(体育等) 座席位置の工夫と確保 別試験会場の用意と試験時間の延長 パソコン、点字器、電卓等の機器持ち込み 支援ソフト等の活用 学習室の用意 移動支援と整備(スロープ、点字ブロック等)
言語障害                                
視覚障害(全盲、弱視等)    
難聴・ろう                  
盲ろう
運動障害                
内部障害                              
注意力、記憶力に欠ける                          
統合処理が困難                        
社会的な行動が困難                                  

『障害のある学生を支える』(ボニー・ホッジ他、太田晴康監訳、文理閣、2006)における障害ごとの「適切な配慮」を整理し、大幅に補筆した。なお障害状況はさまざまであり、配慮の内容もー人ひとり異なること、米大学における支援の考え方とわが国とでは事情が異なるため、おおよその目安と考えたい。

多様な支援の内容

入学前相談、授業見学のほか、具体的な支援内容としては次のようなものがある。支援メニューとして常に用意しているというよりも、一人ひとりに応じた対応を実施した結果である。

  • 教室内の席の確保
  • ノートテイク、点訳、拡大コピー、ビデオ音声の文字化、筆談等の実施
  • 個別指導(レポート執筆、学習計画作成等)
  • 別試験会場の用意と試験時間の延長
  • 担当教員への文書による配慮依頼
  • 段差昇降機、スロープ等設備の改善
  • 学習室の用意(パソコン、ロッカー、書棚等)
  • ボランティア講座の開催と組織化(ノートテイク、音訳図書制作、介助等)
  • 全学生への協力依頼(入学オリエンテーション、支援講座開催)
  • 出版社への働きかけ(電子データの提供)
  • 行政への働きかけ(通学路の点字ブロック、音響信号機の整備)
  • 交通機関への働きかけ(バス会社への配慮依頼)

――など。

支援の例を一つ示したい。ノートテイクは手書き、あるいはパソコンを活用し、教員の話を素早く的確に要約し、障害のある学生に伝える方法だが、初めてのろう学生の入学時には週20コマの授業で、学生あるいは県内の有志による支援活動を実施した。またパソコンノートテイクで使用するアプリケーションソフト2)は、県下のソフト制作会社に依頼し、素早い表示とルビ振り機能等を付与した。その理由は、授業では場の雰囲気をいち早く伝えることが大切であり、従って素早い文字表示が欠かせないと考えたからである。

障害の有無にかかわらずだれもが情報を入手し、コミュニケーションを図ることを可能とする環境整備という観点からいえば、授業には二つの側面がある。「情報の伝達」と「参加意識の共有」である。流通する知識ともいえる情報が学生に伝わっているかどうかの確認、そして情報が発信されている、まさにその場に参加しているという臨場感を得ることが保障されているかどうかの確認が欠かせない。とくに授業では後者、いわばわくわくとした空気を障害の有無にかかわらず感じることができる環境、すなわち普遍的な情報環境の有無が問われる。

前述したように難聴・ろう学生のみならず、上肢の動作に困難を覚える学生や弱視の学生もノートテイクを活用する。その場合は重要なポイントのみを箇条書きする、板書のみを写すなど、音声情報がほぼ伝わらない場合の支援とは、方法と内容が異なることはいうまでもない。なお、入力した文字列を他のパソコンに送信し、盲ろうの学生が点字ディスプレーを通じて情報を得るという機能も付与したが、まだ活用する機会はない。さらに、ビデオ教材を授業で活用する際、全盲・弱視の学生を対象に支援者が映像解説を入力し、画面読み上げソフトをインストールしたパソコンにデータ送信することにより、障害学生が副音声情報として入手する支援も可能だが、これもまだ機会がない。

今後の課題

ここでは四つの課題をあげたい。まず、どれほど支援が充実しようとも、その環境が大学卒業後、職場でも実現されなければ意味はない。学生のライフステージを視野に入れたキャリア支援は大学の果たすべき役割である。本学は歴史が浅いだけに今後の課題は就職先への橋渡しにある。従って学習支援にとどまらず、学生生活支援、就職支援へと支援の枠組みを広げる必要がある。

二つ目に支援者のネットワーク化がある。とくに点訳者は圧倒的に少ない。現在、市町村地域生活支援事業として奉仕員養成・研修事業が設けられているが、障害種別を超えた奉仕員の相互乗り入れ、対象と範囲の拡大が必要と考える。なお本学では昨年度、筑波技術大学に協力し、遠隔地の情報支援実験を実施したほか、同学および日本福祉大学には障害学生支援のノウハウについて教えていただいた。こうした大学間の連携も視野に入れたい。

三つ目に支援費用の調達である。私立大学等経常費補助金には限度が設けられている。就学環境を整備するためには発想の転換が求められる。そして、四つ目に障害学生の権利を保障する仕組みである。日本では、米大学のように差別を禁止する法律に基づいて支援が実施されているわけではないし、人権擁護の視点が仕組みに反映されているわけでもない。善意に基づく活動から権利に基づく社会サービスへと、その位置づけをシフトしなければならない。

さて障害とはそれがあるというだけで、人としての尊厳と自由が容易におかされやすい状態といえる。それだけに、多くの若者が障害ゆえに我慢を強いられることなく、その持てる能力を発揮するために、そして能力にふさわしい職業に就くことができる社会を実現するために、高等教育機関の果たす役割が大変重要となる。障害学生支援室は、彼らの潜在能力を引き出し、夢の実現に向かって大きな一歩を踏み出すお手伝い役ともいえるだろう。

(おおたはるやす 静岡福祉大学教授・障害学生支援室長)

1)ボニー・ホッジ他(太田晴康監訳):『障害のある学生を支える』文理閣、2006:41ページ

2)ノートテイク支援ソフト「まあちゃん」は次のサイトからダウンロード可能。
http://www006.upp.so-net.ne.jp/haruyasu/newpage31.htm

◯障害学生支援室
TEL:054―623―7000(代)
FAX:054―623―7453