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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年6月号

私の学生生活とこれから学ぶ人たちへ

ホップ・ステップ・ジャンプの学生生活

白井誠一朗

私の障害は東京都の難病にも指定されている先天性ミオパチーという、先天性の筋疾患による心臓と呼吸器の内部障害である。この難病は人によって程度の違いはあるものの、相対的に筋力が弱く、特に「~し続ける」といった、持続力に関わる筋力が弱いことが主な特徴である。

自分の場合は、中学3年の秋に病気が進行したために、心臓と呼吸器に障害を抱えることになったが、短い時間であれば普通に歩けるので、家の中など室内では車いすも使わずに生活できるような状態である。ただし、呼吸器の障害に伴って夜間のみ人工呼吸器が必要なため、気管切開をしていて、日常的に痰の吸引などをする必要がある。

通学時間とキャンパスは大学選択の条件

大学進学にあたっては通学時間がなるべく短くて済むことと、4年間同じキャンパスで授業が受けられることが必須条件としてあったため、結果的に明治学院大学社会福祉学科の夜間主コース(現在はない)を選んだ。夜間主コースとは社会人向けのコースで、夜間の授業を履修するだけで4年間で卒業できる。体力的な不安を抱えていた自分にとっては大きな魅力であった。

学内の自然なサポート

大学入学当初は手動の車いすしか持っていなかったので、大学への通学は親にしてもらっていた。また、気管切開により声も出せなかったので、友達や先生とのコミュニケーションは筆談で行っていた。教室の移動などは自分でできるし、医療的ケアでもある痰の吸引も自分でできたので、実はそれほど大学生活においてのサポートは必要なかったが、声が出せないことや痰の吸引をするために授業中に教室を退出する場合もあったので、各授業担当の先生にその旨について説明し、了承を得ることはしていた。

また、疲労から体調を崩すことがたびたびあったので、お互いさまでもあるが休んだ授業のノートを友達に借りて写させてもらったり、ゼミの発表ではレジュメの他に原稿を用意して、それを友達に代読してもらったりといったサポートは受けていた。社会福祉学科ということ、すでに現場で働きながら大学に通っている人がいたこともあって、本当に自然な形でサポートしてもらえたので、大学生活を送る上ではとても心強かった。

社会福祉士をめざして

その後、大学3年時に電動車いすを入手したことで、通学も自分でできるようになったり、ゼミの先生に誘われて参加したシンポジウムをきっかけにスピーキングバルブというものが使えることを知り声が出せるようになったりと、大学入学当初には想像もできなかったようなステップアップをすることができたのである。

その結果、難しいと思っていた社会福祉士の受験資格を取得するための実習にも挑戦できた。4週間の実習のうち2週間は泊まり込みで、毎日行っている気管切開部の消毒とガーゼ交換をどうするかが大きなネックであった。消毒やガーゼ交換も医療的ケアにあたるため、ゼミの先生と相談して、同じ夜間主で看護師資格を持っている友達に2週間の間のケアをお願いすることにした。友達は「ボランティアでいいよ」と言ってくれたが、明治学院大学では、年間の学費の半分までを上限に障害学生のサポート費用を出してもらえる制度があり、後に続く学生のためにも大学からお金を出してもらうことにした。

考えてみれば、親や友人、ゼミの先生などインフォーマルな支援を受けることの多かった大学生活の中で、これが唯一大学側に求めた支援だったかもしれない。なぜ、毎日消毒やガーゼの交換が必要なのかということ、そしてそれをするにあたって看護師でなければならない理由をきちんと文書にして提出したこともあり、すんなりと認めてもらえた。快く費用を出してくれた大学には本当に感謝している。

前向きにチャレンジ精神で

ここまで書いてきて、自分の体験は後に続く学生にとってあまり参考にならないのではないかとも思う。たまたま自宅の近くに大学があったり、たまたま社会人学生で看護師の資格を持った友達がいたりなど、偶然によるところが大きいからである。

そもそも、痰の吸引を自分でできなかったら大学に入学できていたかどうかも分からない。ただ、その中で言えるのは、一つは自分の状況と与えられた周囲の環境の中で、いかに前向きにチャレンジしていけるかが大事だということである。これは無理かもしれない、けれどもホンのちょっとでも可能性があるのであればやってみよう!こういう気持ちを持つことで、些細(ささい)な偶然をステップアップのチャンスに変えられるのではないだろうか。

そしてもう一つは、できることとできないことを自分自身が理解した上で、できない部分は素直にサポートしてもらうこと。そのためには、なぜサポートが必要なのかを相手に理解してもらえるようにきちんと説明する。この二つがより充実した大学生活を送るために必要なことだと思う。

(しらいせいいちろう・フリースペース彩副代表)