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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年6月号

工夫いろいろエンジョイライフ

実用編●ステージに立つときの工夫、他●

提案者:塩谷靖子 イラスト:はんだみちこ

塩谷靖子(しおのやのぶこ)さん

ソプラノ歌手。42歳より声楽の勉強を始め、音大出身者に伍して多数のコンクールに入賞。レパートリーはクラシックから愛唱歌まで幅広い。ホームページにはエッセイも掲載。CDアルバム「千の風」がユニバーサル・ミュージックより全国発売中。


ステージに立つときの工夫

ステージで歌うとき、私はいつも足の下に目印になるものを貼っている。聴衆に対して体の向きが狂わないようにするためである。具体的には、要らなくなったパソコンのケーブルを50センチくらいに切って、それを、ステージに平行になるようにビニールテープで床に貼り付けるのである。このビニールテープは、普通のガムテープと違ってステージ用の物なので、はがした後も汚れが残らない。ピアノに寄り添うような位置で歌えるときなら、手で時々ピアノに触って方向を確かめることもできるが、それができないときには、この方法は必須である。たとえピアノに触れる位置であっても、ケーブルがあったほうが常に安心して歌えるし、またピアノ自体がステージと平行に置かれていない場合もあるので、私はこのケーブルをいつも愛用している。

余談だが、終演後、はがされたケーブルがゴミとして捨てられてしまうことがあるので注意が必要である。


道を覚えるときテープレコーダーを利用する

私は、人に手伝ってもらって新しい道を覚えるとき、それが複雑な道ならテープレコーダーを利用する。家へ帰ってから思い出そうとしても忘れている部分もあるし、かといって、白杖を持って歩きながらメモをとるのも大変だ。録音なら、自分の言葉ですぐに入れられるし、重要と思われる周囲の音も入れられる。重要な部分の歩数とか、要所要所での音や匂い、地面の凸凹や傾斜の具合、気をつけたほうがいいと思われる事項など、何でも録音する。それは、自分自身の言葉だったり、手伝ってくれる人の言葉だったりする。

帰ってから、録音を聴きながら、その内容を点字にする。それを読みながら、往復の全体像を頭に入れるのである。そして、それをもとに、今度は一人で歩いてみる。それでOKなら、録音は廃棄し、念のために点字メモだけを残しておく。めったに行かない場所の場合、忘れることが多いので、点字メモは必要なのだ。


家の中での工夫

家の中での目印で大活躍するのが、輪ゴムと糸とレジ袋とネームテープである。輪ゴムはわざわざ説明するまでもないだろう。糸は、たとえば同じタオル地でも、雑巾と顔拭きタオルとを糸印の数で区別するなど、布地の区別には欠かせない。同じ場面や同じような用途に使う物同士は同じレジ袋に入れておく。いちいち触って探し出す手間を節約するためである。ただ、このやり方は家族にとっては迷惑のようである。私なら外から触って分かるが、家族にはいちいち開けてみないと中身が分からないからである。

ネームテープは、具体的に物の名前を点字で書いて貼り付けるわけだが、特に威力を発揮するのが冷凍食品の区別だ。冷凍した物は触っても区別しにくい。ゴムひもを付けたネームテープは濡れてもOKだし、何年でも使い回しできる。最後に、最も大きな物の区別、それは家の区別である。マンションでは隣の家に入らないよう、ドアノブには目立たない細い紐が付けてある。