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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年9月号

DPI日本会議における権利擁護活動の取り組み

金政玉

■DPI障害者権利擁護センターの背景

障害者の権利条約の国連採択と同条約に基づく国内法整備に向けて、障害者が恩恵と保護の対象から権利の主体として人間としての尊厳の確保がようやく本格的な具体的課題として認知されるようになってきた。地域における自立した生活への移行に向けて、どんな障害があっても必要な支援を受けながら障害のない人と平等に地域生活を営む権利を実現するために〈権利擁護〉をキーワードとした実効性ある政策と仕組みが具体化されなければ、障害者を取り巻くさまざまな生活場面において、今後ますます個別的な差別・人権侵害事件が多発し社会問題化することが予想される。

DPI障害者権利擁護センター(以下、「権利擁護センター」と略す)は、DPI(障害者インターナショナル)日本会議が1995年に設置した権利擁護機関であり、障害者(身体・知的・精神・難病等)、家族等を対象とした相談活動を中心的業務に位置づけ、地域の自立生活センターや関連機関との連携を進めながら東京を中心に日常的な電話相談窓口を設置し、障害当事者が自らの体験をベースにサポートしている。現在は、4人の相談員で相談活動を行っており、07年度は年間延べ1072件(一人の相談者からの複数の相談を含む)を数えている(図参照)。また、権利擁護を基本テーマとする調査・研究や研修用教材の作成および研修会の企画等にも取り組んできた。

相談者の内訳(2007年度)
円グラフ 相談者の内訳(2007年度)拡大図・テキスト

主訴の内訳(2007年度)
円グラフ 主訴の内訳(2007年度)拡大図・テキスト

■権利を守るために―対応の流れ、必要な要素

権利擁護センターとして、次のような要素を取り入れた対応の流れと仕組みが必要になっていると考えている。

  1. 相談者の気持ちを受け止める(受容)
  2. 相談の会話の中から問題を引き出し明らかにする(問題整理)
  3. 相談者に情報や対応のノウハウを提供する(情報提供)
  4. 解決に必要な機関・団体、関係者との間の調整をする(連絡と話し合いによる調整)
  5. 事実関係を調査し、必要な情報を収集する(調査と情報収集)
  6. 調査や情報に基づき、不満や苦情の妥当性を審査する(評価・審査)
  7. 相手側と問題解決に向けて交渉をする(交渉)
  8. 法制度についてのアドバイスや情報提供をする(法的助言)
  9. 法制度に基づいての支援や必要な措置をとる(法的救済)
  10. 相談者と相手側との間で、(相談者の側に立って)問題解決・改善に向けて提言をする(改善提言)
  11. 相談者の意向をアドボケイトする(同行・代弁)
  12. 相談者の自立生活に向けてのエンパワーを支援する(自立生活支援)
  13. 日常生活を継続的に支援するサービスを提供する(見守り・サービス)

まず、すべての相談に共通するものとして、1~3があげられる。これがうまく働かないということは、相談の入り口のインテイク段階で問題が見過ごされてしまいやすい。次の段階では、4が必要となり、ここでは紹介のレベルなのか具体的にフォローをしていくのか、はっきりしておく必要がある。5~7は、たとえば苦情解決の申立があった場合、対象となるサービスの決定や内容が適切であるかを判断するために不可欠である。さらに、8は弁護士などが参加することで連携していくことができ、相談事案によって9の役割をどこまで発揮するのかによっても、実効性の度合いが左右される。事案の内容によっては、10についても同じ役割を果たすことが期待される。12・13は、生活支援型の機関・団体にみられる機能であり、相談だけが独立しているのではなく、各種のサービス(訪問型・通所型の在宅福祉サービス、金銭管理・財産保全など)を並行して実施しているケースが多く、事案の内容によって11を充実させていくことが「権利擁護」の視点からは不可欠である。

■課題

前述を踏まえて、権利擁護の課題を整理してみたい。

第一に、自分が抱いている不満すら表明できないという、根本的な権利侵害の状況に置かれている多くの障害者に対し、まずは「話をきちんと聞く」という場所が求められている。

第二に、そのような障害当事者自身の思いを共有しつつ、当事者と一緒に行動すること。また、諸問題について専門的なアドバイスができるバックアップが必要である。相談者自身の思いを受け止めた後にその解決に向けて動く時に、相手側との話し合いが成立しない場合には、強制的な介入(第三者の調査機能と権限)が必要になることがある。それには何らかの権限が伴う法制度上の手立て(差別をなくす法制度)が講じられる必要がある。

第三に、権利擁護については、一つの組織・団体では限界があり、すべてに対応できる組織や機関はあり得ない。それぞれの組織・団体の性格やスタッフによって、得意とする守備範囲があり、権利擁護のノウハウもさまざまである。従って、いくつかの組織や団体が存在し、少しずつ異なりながらも重なる部分をもつネットワークをつくり効果的に被害当事者をサポートしていく必要がある。

第四にネットワークづくりには、他の組織の特色を把握できるマネジャーの存在が重要であり、そうしたマネジャーが必要であれば「出向いていく第三者」としての役割を担う権利擁護機関が必要になる。それぞれの特色を生かしつつ、補い合い、まだ手つかずの課題については共同で取り組んでいくことが、今後ますます必要となってくると思われる。

(きむじょんおく DPI障害者権利擁護センター所長)