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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年9月号

育成会における権利活動への取り組み

松井美弥子

全日本手をつなぐ育成会としては、本人活動支援も含めて、知的にハンディある人たちが、生きがいを持って生活していけるようさまざまな取り組みを心掛けている。

権利擁護委員会

各分野の専門家の方の協力を得て、イエローカードを発行し、権利侵害等の検証をした。知的障害がある故に犯罪被害者になったり、障害への無理解から理不尽な扱いを受けたりということを防ぐための警察プロジェクトと称して、「知的障害のある人を理解するために」という小冊子を各県警察署に配布し、知的障害児者の特性の理解を求める活動を行ってきた。また、知的障害者が犯罪被害者になることが多いことを踏まえて、「知的障害のある人を被害から守るために」という小冊子を関係者に配布し、親自身も勉強をしてきている。

また、年1回権利擁護セミナーを開催し、広く参加者を募り、知的障害者の権利擁護についての研修を行っている。

成年後見制度の活用の促進

平成12年の成年後見制度の発足に伴い、知的に障害のある人が20歳になると、親には保護責任はあるが法的には代理権もない。平成15年度以降はすべての福祉サービスが契約制度となり、判断能力が不十分な知的障害者は、普通に福祉サービスを利用して生活していくだけでも、代理権を持つ者のサインを求められるシステムとなった。

こうした中で、施設利用者が、集団で成年後見申し立てをするという現象も現れ、また、育成会に法人後見を期待する声も強く、先駆的な地区育成会がNPO法人を設立し、法人後見事業を行うところも出てきている。

しかし、親が後見人になっても、親亡き後をだれに託すかという切ない問題が残る。先進的な県・市育成会では成年後見人の養成講座を開講し、親や兄弟も成年後見人としての基本を学びつつ、さらに広く一般の方にも参加を呼びかけている。親亡き後は裁判所が次の後見人を選任することにはなっているが、専門家は不足しており、第三者の市民後見人の養成が最重要課題である。

また、後見人が孤立しないように「成年後見支援センター」の設立が必要である。県、市町、全日本、それぞれの育成会が役割を果たせるシステムの構築を検討中である。

もう1点、後見制度を活用する本人には、選挙権の喪失という現実があることから、全日本育成会として、公職選挙法の欠格条項の改正の要望をして行くところである。

平成18年度には、厚生労働省の補助金を得て、1.成年後見制度についての意識調査、2.成年後見制度のマニュアルハンドブックの作成、3.コミュニティフレンドについて、4.成年後見支援センター事業マニュアル等の研究をし、まとめとして、全国8か所で研究事業の報告会を開催し、広く成年後見制度の活用促進に向けての報告と研修を行った。

育成会としての考え方の基本に「後見制度は、権利擁護のツールであると同時に、権利侵害の温床にもなる」ことの確認をしっかりと行ったことはもちろんである。平成19年度も厚生労働省の補助金と、各専門家の協力を得て、成年後見制度のさらなる啓発と、成年後見人の必要性の事例ビデオの作成配布、後見人の活動を紹介する情報誌の発行を行い、広く啓発に努めた。

成年後見制度を活用することで、知的にハンディがあっても、親に先立たれても、それぞれの人にあった支援を受け、その人らしく自立し、普通に暮らしたいという、人としての当たり前の希望を、全国に伝える活動であったと思う。平成20年度は、専門家の協力を得て、地方の若い役員の発掘を心掛け、親自身の意識改革を念頭に子育て支援を含め、ハンディを持って生まれた人たちのライフプランの検討をし、研究と研修が進行中である。

障害者虐待防止法の早期制定に向けて

昨今、さまざまな場面で、知的障害児者への権利権侵害や虐待の事件が表ざたになっている。育成会としては、障害者虐待防止法の早期制定を、厚生労働省をはじめ、国会議員へ要望活動を行っている。各都道府県育成会も、各県知事、各県選出国会議員に対して早期制定の要望を行った。障害者虐待防止法が制定されることで、通報義務が発生し、通報を受けた側の事後の対応も明確になる。虐待や人権侵害発生への歯止めとなることと、虐待を受けた人だけでなく、虐待をしてしまった人へのアフターケアも期待している。

加えて、障害者権利条約の批准に向けて、障害者差別禁止法の制定についての要望等、JDF(日本障害フォーラム)と連携を取って取り組んでいる。さらに関係機関との連携を強化し、知的にハンディある人たちがその人らしく生活できるよう彼らに寄り添う支援を心掛けたいと思う。

(まついみやこ 社会福祉法人全日本手をつなぐ育成会副理事長)