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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年9月号

全国「精神病」者集団の人権主張活動

山本眞理

全国「精神病」者集団は、1974年に発足した全国の「精神病」者団体個人のネットワークです。組織目的と原則は以下となっています。組織目的は「差別と排外を許さない 強制医療・入院に反対する」。組織原則は「『精神病』者の生命の尊守『精神病』者の権利主張『精神病』者総体の利益追求」助け合い、連帯し、前記目的を達成する、です。

周知のように、日本は実数人口比とも世界最大の精神科病院入院患者を抱えており、3万人以上の入院患者がおり、その約半数は24時間鍵のかかった閉鎖病棟に収容されています。そして入院期間も長期にわたり、5年以上の入院患者は132,000人、20年以上の入院患者は45,000人以上です(05年統計より)。

こうした世界一の隔離収容大国の中で全国「精神病」者集団は生まれ、前記の目的で活動を続けてきたのです。

私は人権というのは守られ擁護されるものではなくて、あくまで本人が主張するものであり、周囲の者がするべきことは、その人権主張を支援する支える活動であると考えております。従って、本稿では、個別の人権主張を支援する活動と現体制に向けて、「精神病」者総体の利益を主張していく集団的な人権主張活動の2つについて報告します。

日常的な個人の人権主張を支援する活動

精神障害者数(入院患者数と外来患者数からの推計)は約300万人といわれていますが、これらの多くはまったく孤立し、福祉や医療などの情報からも隔絶されています。精神保健福祉士は病院にはいるものの、医療費のための生活保護手続きをする以上の活動ができるだけの人員配置がされているところはむしろ例外であり、外来患者の生活保護の通院交通費の手続きや障害加算の手続きすら、援助の手が回らないのが現状です。さらに、最近増えた精神科診療所では、精神保健福祉士や社会福祉士が配置されているところはむしろ例外であり、自立支援医療制度のことさえ知らない仲間がたくさんいます。

全国「精神病」者集団窓口には電話、手紙、メール、ファックスなどでさまざまな訴えや悲鳴が届きます。そうした中でも、「自立支援医療って何ですか?」「精神障害者は生活保護の障害加算はつかないといわれた」「外来の交通費が生活保護で出るんですか?」などという質問や訴えが日常的にあります。精神科病院に通院し週1回訪問看護を受けているというのに、生活保護の障害加算手続きすら、協力してもらえないという訴えもあります。

窓口としては、手の届く範囲では役所に同行したり医療機関に同行し、生活保護や年金の手続きに協力したり、ヘルパー取得のための支援を行ったりしています。あるいは強制入院中の仲間への面会活動などを行い、本人の権利主張活動支援を行っています。遠方からの訴えには直接支援活動はできないものの、それぞれの地域で協力してくれそうな団体を紹介したり、あるいはより本人の利益となりそうな医療機関を紹介したり、ということを行っています。

こうした窓口への訴えに見られるように、精神障害者の圧倒的多数は情報や援助のないまま放置されているのが現状です。そうした中で、年6回のニュース発行は、孤立を打ち破る絆のしるしとして、そして福祉や精神保健行政の動きの情報提供、発言の場を奪われた仲間の発言の場の保障として機能しています。

「精神病」者総体の利益のための集団としての人権主張活動

全国「精神病」者集団は、前記の個人の人権主張支援活動から見えてくる、課題をもって、生活保護の基準問題や自立支援法に対しても取り組んでいます。精神障害者が生き延びるために、そして権利としての地域生活確立のために私たちに必要な支援とは何か、介助とは何かを主張し、政府や自治体、関係専門職団体に問題提起し続けてきています。

とりわけ発足の契機でもあった刑法改悪=保安処分新設に反対する闘いは、単にそうした法案に反対するだけではなく、差別と排外を許さない、強制医療・強制入院に反対するという組織原則を生み出しました。現在、施行3年を迎えた心身喪失者等医療観察法(医療観察法)に対しては法案作成時より強力な反対運動を始め、現在も法廃止に向け闘いを継続しています。医療観察法は、精神障害者のみを予防拘禁する精神障害者差別そのものの法律です。施行実態としても特別施設の不足ゆえに、特別施設への入所を待つというかたちでの、法的根拠のない監禁が生まれています。それゆえに政府はこの法の指定施設以外にも、法対象者を収容できるよう省令改正をもくろんでいます。医療観察法はすでに破綻しており、即座に廃止されるべきものです。

私たちは、国連障害者権利条約の作成過程にも世界精神医療ユーザー・サバイバーネットワーク(WNUSP)を通して参加し、強制の廃絶を勝ち取りました。この条約の批准に向けては、国内監視機関への障害者団体の参加が何よりも要となります。パリ原則に基づいた政府から独立した国内人権機関の必要性が障害者権利条約によって明文化されたともいえます。私たちはWNUSPの履行マニュアル邦訳出版も行い、今年11月にはWNUSPの仲間を招聘し12条のワークショップその他を準備しています。権利条約の批准と完全履行に向け草の根からの人権主張活動を組織し、強制の廃絶が放置という名の虐待を生み出さないための法制度、体制、運動を作り上げていくことがこれからの課題です。

(やまもとまり 全国「精神病」者集団会員)