「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年9月号
1000字提言
「伝えること」の大事さと難しさを思う
小山万里子
ポリオの会では、「模擬患者」や「患者が語る」と題してここ何年か、いくつかの大学で、主に理学療法学科の授業に参加している。今年6月、「患者が語る」授業があった。学生さんたちの熱心さは授業時間を大幅にオーバーしても、まだ足りないほどだった。
車いすを使っている人の言葉から。「自分の生活に合わせて電動車いすや車いす、杖を使い分けている。車いすは押してもらうものという意識があるかもしれないが、そうでない使い方もある。自転車みたいなものです。車いすという道具を使うことで、行動範囲や時間が広がった。患者にとっては出かけること、生活できることが大事なのだ。普段の生活を取り戻したい。車いすを使っているのは眼鏡を掛けているようなものである」
学生さんたちの反応は〈目からうろこ〉だった。2年前、同じ大学での授業で、やはり車いすを使っている人の「車を運転しているとき私は健常者です」にも大変驚いていた。
患者当事者の授業参加で、実際に装具や車いす、障害部位に触ってもらうことでのインパクトは大きいと思う。具体で伝えること、実際に見て触ることで疾患の状態や障害を体感してもらうこと、何より、「障害者」「患者」は、それぞれの障害、困難をいろいろな道具や方法でクリアして、授業を受けている学生さんたちと同じように生活していると知ってもらう第一歩になるだろう。彼らが数年後、ポリオとPPS(ポリオ後症候群)を記憶にとどめて医療現場で向き合ってくれることを期待し、医療教育に貢献できる喜びを思う。
そして、もう一つ、患者自身が「模擬患者」や「語る」ことを通じて、障害や疾患を伝えることは、何よりも自分の疾患や障害への学びと理解を深めるきっかけにもなる。
学生さんたちの感想で上肢障害への反応が、私の期待より少し低いのが心残りだ。上肢障害は見えにくいために想像が追いつかないのか。明るく語られたために素通りされたのか。装具などの説明だけでは足りない日常生活の細かい困難さの実情を伝えるには、どうしたらよいのか。
「夏は出歩かない、汗をふけないから。冬は寒さを我慢すればよいのでコートを着ない。脱ぎ着できないから」「脚の悪い仲間に、あなたは雨でも大丈夫だろうと言われた。手が悪くて傘が差せないのに」
これらの言葉を何年も胸にしまって大事にしている。
(こやままりこ ポリオの会)