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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年9月号

わがまちの障害福祉計画 東京都小平市

東京都小平市長 小林正則氏に聞く
生まれ育った地域で暮らす
―官民の役割を生かしたパートナーシップで施策推進

聞き手:杉本豊和(白梅学園短期大学)


東京都小平市基礎データ

◆面積:20.46平方キロメートル
◆人口:183,309人(2008年8月1日現在)
◆障がい者の状況:(2008年4月1日現在)
身体障害者手帳所持者 4,501人
(知的障害者)療育手帳所持者 944人
精神障害者保健福祉手帳所持者 847人
◆小平市の概況:
小平市は、多摩地域の武蔵野台地上にあり、都心から26キロのところに位置している。江戸時代に玉川上水の開通がきっかけで開拓の条件が整った。戦後、都心部のベッドタウンとして発達。玉川上水や野火止用水など豊かな自然環境を有している。市内には大学が6校あり、最近は大学の特色を生かした連携事業も行っている。
◆問い合わせ:
小平市保健福祉部障害者福祉課
〒187―8701 小平市小川町2―1333
TEL 042―346―9540(直) FAX 042―346―9541

▼私自身も十数年小平に住んでおりますが、まずは小平市の特色についてお話ください。

小平に限らず多摩地域の北部は大昔から人がいたというよりも、江戸時代に玉川上水ができ、いわゆる都市計画で街ができたという地域です。自然が豊かで、都心にも比較的近く便利であり、山や川がない反面、「災害が少ない街」ということができるのではないでしょうか。人口は今年の8月現在約18万3000人であり、少しずつ増えている状況です。

福祉の面では、伝統的に福祉施設が多く集まっており、国立精神・神経センター、都立の養護学校や、職業訓練校、入所更生施設など、公的な関連施設が多いといえます。

▼市の障害者福祉施策では、どのような特徴がありますか。

私が都議のときに、全国でも珍しい重度身体障害者のグループホームづくりにかかわりました。当初は都営住宅の中につくれないかという話もありましたが、公営住宅法の壁があり、国会にも陳情しましたができませんでした。そこで都に陳情し、独自の補助をもらって「一歩」というグループホームができました。このように小平市では障がい者に対する市民や行政の意識は比較的高く、要望や要求に対して柔軟に迅速に対応してきています。

また、障がい児の放課後訓練事業「ゆうやけ子どもクラブ」があります。学校が終わった後行き場がない、家にいるとビデオをみたりお菓子を食べ過ぎたりして問題が起こります。そこで放課後の居場所づくりとして、ゆうやけ子どもクラブができ、先日30周年を迎えました。30周年という歴史はすごいですね。現在では第二クラブもできています。

その他、日本にはまだ数か所しかありませんが、精神障害者のクラブハウス「はばたき」にも助成を行っていますし、音楽療法を取り入れたリハビリを実施する通所施設「リズム工房」「みんなの家‘77」は他にはないと思いますね。

このように、市民が先駆的に行ってきた独自事業を市として積極的に後押しするというような特徴があると思います。

▼なるほど。小平市には多くの障害者団体があるようですが、どのように活動されていますか。

市内に障害者団体が全部で39団体あり、自立支援法成立に合わせて「小平市障害者団体連絡会」を立ち上げました。また「障害者の卒後と生活を考える会」という団体もでき、これらの団体と定期的に協議の場を持っています。第1期小平市障害者福祉計画(平成19年3月)策定の際には、団体間でも調整していただいて、実現可能なものを市に提案してくれています。

私は、審議会委員の4割以上は公募にすると選挙で公約しています。それは当事者や関係者に委員として参加してほしいという思いからです。団体はただ要望し、行政はそれに対して構えて受けるという一般的な図式がありますが、小平では顔の見える関係があるので、まったくそういうことがありません。私が市長になる前にそういった活動を自分自身が行なってきたこともありますが、建設的に接することができますし、市もできることはやるという姿勢です。まぁ予算は全体的なバランスもあり、悩みもありますけどね。

▼就労支援にも力を入れているということをお聞きしましたが、どのような取り組みがありますか。

特徴的なものとしては市役所の中での職場体験実習事業を実施しています。今年で3年目になりますが、延べ178人の人が体験しています。一般就労へのステップアップの機会の提供と、障がい者が市役所の中で働くことにより、職員や市民との触れ合いの機会を持つことにより障がい者理解を広めることを目的にしています。参加した障がいのある人もレベルアップしており、毎年市民の反応も聞いていますが、とても良い反応が返ってきています。一番成果があったのは、職員の理解ではないかと思っています。計画の中でも障がい理解ということが言われていますが、対応する職員がまずは知るということが大切ですね。ハンディのある人や高齢者が普通にまちにいるということが本当のノーマライゼーションではないかと思います。

他には、「障害者就労・生活支援センター ほっと」で生活相談・就労相談を実施しています。利用者も増えていて、そこで職場の体験もでき、ジョブコーチもいます。一般就労への実績もあります。特に、就労訓練は「集団でできる」ということが重要ではないでしょうか。そうした中で集団のルールを学ぶこともできるし、縦の関係もできます。また障がい者同士が支援し合うこともあります。就労実績を上げるのも重要ですが、何かあったときに、行く場・相談できる場があるということが重要です。相談機能が充実していることが大切で、どこにいったらいいのかわからないというのが一番困ることだと思います。

▼近年、課題になっている発達障がいがある人にはどのような対応をされていますか。

発達障がいの療育支援の拡充は一生懸命やりたいと思っています。特別支援学校との連携、療育支援の再構築が必要だと思っています。親が自分でつくった障害児の保育園「あすの子園」は市がその事業を引き受けています。

そして、学校卒業後の悩みをなくすための日中活動の場の保障として、特別支援学校と施設と親の面談・調整を積極的に実施しています。それらを支える施設としては、障害者福祉センター、あおぞら福祉センター、通所施設ウィズ、また近年「あさやけ風の作業所」を開設し、市として支援しています。

一番重要なのは、情報があり、選択ができることだと思います。障がい児が生まれたら親は葛藤があり、自分を責めることもあります。情報を知らないでサービスを受けられなかったという人もいます。横のネットワークを障害者団体だけでなく、家族ともつくる、孤立させないこと、仲間づくりが重要ですね。

また、今年、市内の白梅学園大学と連携し、発達の遅れが気になる子どもを対象としたワークショップや、障がい理解のための親キャラバン隊などの事業、支援や教育に携わる人の研修などの人材養成を大学と市が協力しながら事業をすすめていくことにしています。実際、これだけ実のある連携というのは画期的だと思います。大学はフィールドを求めているし、行政は専門的な知識を求めている。これからは人材を育てる、現場を理解した専門職を育てることはとても重要です。市として全体的にレベルアップできるのはありがたい。市内には6つの大学があるので、それぞれの専門を生かした連携を今後も広げていきたいですね。

▼それでは最後に、今後の展望についてお聞かせください。

理念的ですが、どんな障害があっても生まれた以上、社会の構成員として社会に参加する権利はあるし、それを保障しなけれなならないと思います。どんな人も必要とされており、それをどう行政がサポートするかです。生活自立と労働という政策の柱がありますが、市として積極的にすすめていきたいと思います。機会に恵まれない人にどのようにチャンスを提供するか、職場体験は議会要望もあるし、家族からも要望も強いのでさらに拡充していきたいところですね。

また、生まれ育った地域で暮らせるために、グループホームを拡充します。財政的問題もありますが、民間資源も活用しながらやっていきたいです。できれば家族もそこにかかわれるようにしたい。最低、毎年1か所はつくりたいと思います。

民間団体の活動をサポートする姿勢は変わりませんが、特に日中活動の保障では、新しい法体系に移行できない施設を支援していきたいです。

団体との横の交流を強め、市と団体の役割を尊重しつつ、お互い長くやっていくことが重要ではないでしょうか。施設同士の連携も強めてほしいです。障害者団体も市をパートナーとしてみてくれているのでありがたいです。財政的な支援だけでなく、こうした関係づくりを市としても後押ししていきたいですね。


(インタビューを終えて)

市長ご自身が障がい児を持つ父親であり、市内で障がい者運動にかかわってこられたということもあり、障がい者施策には特別の想いがおありのようで、今回のインタビューでも他の職員を交えずに、すべてご自身がお答えになりました。インタビューでも述べられたように、障害者団体との顔の見える関係、有機的な連携によって小平市の障害者施策がどのように発展するのか。今後も小平市に目が離せないといったところではないでしょうか。