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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年9月号

列島縦断ネットワーキング【岐阜】

未来は僕らの手の中に
―重度障害者の在宅就業支援の取り組み

上村数洋

就労に対する気運

「障害をもつ人も、ドンドン働けるようになってもらって、税金を払ってもらうように…。そのために必要な支援は…」

梶原前岐阜県知事のこの一言は、「働きたい」「仕事がしたい」と希望を持っていた我々に、とても大きな夢と希望を与えたばかりか、具体的に一歩を踏み出す勇気を与えてくれました。

それまで、県内の同じ障害をもつ人たちに呼び掛け会を作り活動する中で、厚労省の専門官等を招きセミナーや勉強会を開催したり、「在宅就労ネットワーク研究会」を立ち上げたり、取り組むべき方向性を模索していました。しかし、今一つ障害者の就労に対する理解と協力が得られず、TVのクイズ番組に出場して得た賞金90万円で、Windowsのパソコン4環境を整え、自主研修のできる作業所を立ち上げました。

そうした取り組みが、周りの障害者の就労への意識の高揚につながり、平成8年、県が他に先駆けて、障害者の自立を支えるITの利活用の支援施策の一つとして「福祉メディアステーション」を設置し、事業をスタートさせました。ここには、多くの障害者がさまざまな相談に訪れますが、個々の障害に合った入力装置等の情報提供や訓練・指導の取り組みをすることにより、駄目だと諦めかけていた自らの力や能力に気づき、外に向かって発揮したいと考える人たちが出始めました。

「バーチャルメディア工房ぎふ」の取り組み

私たちの取り組みは、平成10年、岐阜県の重度障害者の社会参加支援事業の一環として、「一般の職場では就業の機会が得難い重度の障害者が、社会経済活動に参画し活躍できること」を目標にスタートしました。初年度は、県内の各市町村と代表的な企業、障害者を対象に意識やニーズ等の調査をし、その結果を基に在宅就労を希望する障害者を募集・選考し、一定の基準をクリアした人をワーカーとして登録しました。

当初2人のスタッフと6人の登録ワーカーでスタートしましたが、今では、スタッフもアシスタントスタッフを加えて7人(うち6人が障害当事者)、登録ワーカー14人(内訳:頸脊椎損傷/10人、視覚障害/1名、その他/3人)になりました(H20・07現在/毎年公募・選考)。活動は、就労支援事業をはじめ、就労に対する相談や情報提供、人材育成研修等に加え、最近では特別支援学校の職業体験実習の受け入れや、企業等への普及啓発活動、就業の機会の提供と橋渡しも行っています。

実務を通しての在宅就業支援の取り組みにおいては、WEBサイトの構築、各種印刷物の制作、電算入力・ソフト開発をはじめ、研修や福祉系催しの企画・運営等々の仕事を行政や企業等から直接受注し、登録ワーカーの得意分野に応じて仕事を分担し、進捗管理から納品に至るすべてを、独自に構築したイントラネットを利用して行っています。仕事は2~3人のチームを組み、病気や体調不良等でクライアントに迷惑をかけないよう、リーダーの下に進めています。

在宅就業の取り組みの中で起こりがちな問題点を考慮して、できる限りメンバー同士が直接顔をみながら情報や意見交換ができるように、月1回のミーティングをベースに、バーベキューや忘年会を開催し余暇活動にも力を入れています。3年前から、在宅での仕事からくるストレス対策も考慮し、ギターバンドも結成しました。最近ではいろいろな所から声をかけてもらい演奏会に出かけたりもしています。

収入面では、一人当たり年間で平均100万円強も得られるようになり、わずかずつですが税金を払うようになった登録ワーカーも出てきました。

「VM工房ぎふ」の取り組み
図 「VM工房ぎふ」の取り組み拡大図・テキスト

問題点と課題

平成14年より、国の「重度障害者在宅就業推進事業」の支援機関の指定に続き、16年には、さらなる取り組みの拡大展開と、よりよい就労環境の実現を目指し、NPO法人として新たな一歩を踏み出しました。18年には、障害者雇用促進法が一部改正される中、これまでの実績が認められ、厚生労働大臣による「在宅就業支援団体」として岐阜県第1号の登録を取得することもできました。

取り組みを始めて10年、私たち支援側スタッフの素養不足もありますが、日々の取り組みの中には、業務をこなす上で必要な技術的支援に比べ、はるかに難しく大きな問題や課題があります。我々の頭を痛めているものに、1.個性や力量に加え、先天性・中途障害の別や、就労経験の有無、年齢等による意識的格差、2.学校教育や家庭環境による社会性の違い、3.教育と感性のバランスのあり方、4.働くための社会環境の未整備、5.障害の度合いと在宅就業によるストレス対策、6.制度も含む介助・介護の問題等々があります。

これらの問題を解決する上から、1.生活基盤の整備、2.個々の障害に合わせた職業リハビリテーション、3.小さい時からの教育や他分野との連携の必要、4.障害者の就労を支えるための資源(人材育成と確保・支援技術)と公的支援、5.受け入れる社会=器としての企業の意識と役割、連携等は必要不可欠だと考えています。

将来の展望と期待

平成12年に、岐阜県の北欧視察団のメンバーに加わりスウェーデンに行ってきました。マルメ市のメディオン・サイエンスパークにある障害者の就労を支援する機関や支援企業で、IT産業と障害者の就労の現状や支援の状況を視察してきました。スウェーデンでも、この分野に対する期待と取り組みへの力の入れ方には目を見張るものがあり、我々の目指す方向性に自信が持てたと同時に、今後の責務の重さを実感してきました。

現在、私たちは日々の取り組みの中で、障害者の社会参加や就労に理解のある多くの企業から仕事をもらうと同時に、IT部門での共同作業や、特例子会社設立に向け、相談・協力に関することまでいただくようになりました。

私たちは、これまで国の「重度障害者在宅就業推進事業」の支援機関の指定を受けて取り組みを展開してきましたが、障害者自立支援法の制定に続き、障害者雇用促進法の一部改正でも、1.在宅就業障害者に対する支援、2.障害者福祉施策との有機的な連携、が盛り込まれていることを追い風と捉え、期待すると同時に、一人でも多くの重度障害者の社会参加と就労の機会をつくる手伝いができればと、さらなる取り組みに意を強くしています。

(うえむらかずひろ NPO法人バーチャルメディア工房ぎふ理事長)