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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年10月号

地域生活をともに楽しむ体験から学ぶ
~普通高校との交流を通した障害理解

山本みどり

コンセプトは相互理解

ノーマライゼーションへの取組のひとつとして「相互理解」は大きな要素であることはいうまでもない。そのコンセプトに基づいて、本校で行っている近隣高校生とともに活動する「高校生フレンドリークラブ『わっしょい』」等の実践について紹介する。

神奈川県立三ツ境養護学校は、肢体不自由教育課程(小学部、中学部、高等部)と知的障害教育課程(高等部のみ)の併置佼で、205名の子どもたちが在籍している。私たち教員は、その子どもたちが学校を離れても、地域の中で、社会の中で、当たり前の生活をしながら自分らしく生きていく力を育み、発揮できるようにしていくことを大きな教育課題として、日々実践している。

その中で、「ともに学び、ともに育ち、ともに生きる」ことを目的にして、小・中学部では「居住地交流(自分の学区の学校との個人交流)」や近隣小中学校との学校間交流を行っている。そして高等部においても、これまで近隣高校の吹奏楽部や体操部が本校の文化祭に出演してくれたり、また別の高校の福祉委員会が毎年1回来校して授業の中に入り、交流するといった活動を行っていた。

文部科学省委託事業―地域教育力再生プラン

そうした中で、平成18年度、文部科学省より地域ボランティア活動推進事業(地域教育力再生プラン)の委託を受け、高校生ボランティア活動の推進を図ることを命題とした事業をすることになった。そこで、その展開にあたってはボランティアする側とされる側という関係ではなく、同じ仲間としての活動体験を共有しあい相互理解を育むことを第一の目的とし、何より地域のなかで、ふれあい、関わりあい、知り合い、理解しあい、そして支えあうという場を設定することを重要視した。そして、そうした関係を個々人が作っていく体験を通して、先にも繋がっていける支援の結び目を作っていきたいと考えた。

初めは「体育祭」「サッカー教室」

そこで、まず具体的な出会いの場として、地域のスポーツセンターを会場にした「体育祭」を企画した。これには子どもの活動をサポートするNPO法人にも参画していただき、在校生を中心とした近隣の障害児(小学生~高校生)の夏休みの余暇活動を計画した。そして、そのスタッフとして地域の高校生の募集を行い、参加者である本校高等部の生徒とともに高校生たちを企画・準備・進行の要として位置づけ、3日間のプログラムの取組として実施した。参加者が互いに楽しめる体育祭の内容を、参加者自身が考え、準備し、実際に競技をして楽しむといった流れを、最初から赤団、黄団、青団の3グループに分かれて、グループ活動をベースに、進行していった。そのためグループ協議をしたり、準備のための製作をしたり、必死に競技に取り組んで体を動かしたり等、参加者同士が同じチームメイトとして関わり合えるさまざまな場面が提供できた。その体験を共有しあうことで、相互理解をより促進させ、一体感をもって、「ともに作り、ともに楽しむ体育祭」を実施することができた。

さらに、その秋に、体育祭に参加協力してくれた近隣高校2校のサッカー部と、本校高等部および同窓会のサッカー部との合同練習・ミニゲーム大会を「ふれあいサッカー教室」として実施した。地元Jリーグチームのコーチを招請することにより、参加者のモチベーションを高めることができ、しかもプロのコーチによる練習メニューの組み立てにより「相互理解を育む」ということがサッカーを通して実践することができた。障害のあるなしに関わらず、相手の表情や動きを読み取り、それに合わせながら、いかにボールを回しパスをつなげていくか、また、自分の発信を相手に理解して受け止めてもらうためにはどんな工夫をしたらよいのか等、高校生たちが真剣にプレーのなかで実感し、表現した貴重な機会となった。「養護でも、こんなに頑張って上手い人がいて驚いた」「普段あまり関わることのない人とグループを組んで新鮮だった」「まだ未熟で、自分の練習になった」「自分からもっとコミュニケーションをとっていかないといけないと気づいた」等、高校生たちの実直な感想が「スポーツは障害を越えさせる」ことを感じさせてくれた。

こうした2つのイベント的な事業を通して、相互理解には、同世代の高校生が、ハンディのあるなしに関わらず日常的に関わることができる場面提供が重要であることを本校教員、保護者も改めて再認識した。そして、場面提供の後方支援さえ行えば、具体的内容は高校生自身が考え運営していけるという確信も得た。

そこで、「体育祭」「ふれあいサッカー教室」に積極的に参加・協力し、事業の広報活動にも意欲的に活躍してくれた近隣のS高校生徒会に呼びかけ、高校生同士が集い・知り合い・楽しむ場を、高校生中心に計画・実行していくというコンセプトで、「この指止まれ方式のクラブ活動」を提案したところ、前向きに受け止めてくれ、生徒会の活動として取り組んでくれることになった。

こうした高校側のスムーズな対応は、地域研究という地域に向けた分掌プロジェクトがあり、しかも担当者が、県職員人事交流で本養護学校に勤務した経験があったことが大きい。こうして「高校生フレンドリークラブ『わっしょい』」が立ち上がった。

高校生フレンドリークラブ「わっしょい」の立ち上げ

本クラブについては、明確な規約があるわけではないが、

1.同じ高校生同士が自然に、関わり、コミュニケーションがとれる機会とし、共に楽しむをキーワードに、一緒に楽しめる活動を作っていこう。

2.活動の企画・運営・進行については、みんなで話し合いながら、積極的に取り組み、責任をもってやっていこう。

3.活動を重ねていくなかで、さらに知り合い、互いの体験を広げていこう。

というスタンスで活動を展開している。

本校の地域支援担当が事務局となり、養護学校を会場にした高校生による企画会を設定し、活動日と予算等、計画に必要な情報を提供した後は、高校生に任せ、実施計画の立案と具体的準備を進めてもらう。高校の部活動を終えてから集まることもあり、夕刻遅い時間まで協議や準備が続くこともしばしばであった。企画会の報告を受け、必要なアドバイスやサポートは適宜行ったが、大人はできるだけ黒子に徹することと、高校生の意欲が空回りしないように援助することに留意した。

 高校生フレンドリークラブわっしょい活動状況

  実施日 テーマ 活動場所 活動内容 参加人数
第1回 平成18年
12月16日(土)
みんなでクッキング!
盛りあがろうレク大会!
三ツ境養護学校 調理、会食会、片づけ、レクリエーション、サンタさんタイム 三ツ境生 20名
近隣高校生17名
第2回 平成19年
3月18日(日)
バスに乗って、ズーラシアに出かけよう! よこはま動物園 路線バスを手帳を使って乗る、動物園でクイズラリー、おやつタイム 三ツ境生 21名
近隣高校生21名
第3回 平成19年
1.
4月30日(祭)
2.
5月3日(祭)
横浜みなと祭り国際仮装行列 ザよこはまパレードで踊って楽しもう! 1.三ツ境養護学校
2.山下公園方面
1.オリエンテーション 浅草サンバチームとダンスの練習
2.Tシャツ隊としてパレード(山下公園3.8kmコース)に参加
電車を利用(乗り換えあり)お弁当
三ツ境生 13名
近隣高校生13名
*参加枠限定
第4回 平成19年
8月24日(金)
フレンドリーなべンチを作って地域の中へ 三ツ境養護学校 1.ベンチ作り
2.お弁当タイム
三ツ境生 22名
近隣高校生14名
第5回 平成19年
12月22日(土)
わっしょい版
年末お楽しみ会
三ツ境養護学校 1.書き初め~来年に向けて~
2.手作り石けんを作る
3.お弁当タイム
4.レク大会
三ツ境生 24名
近隣高校生10名
第6回 平成20年
2月16日(土)
地域交流祭をみんなで盛りあげよう せや福祉ホーム 1.地域を一緒に歩く
2.作業所の地域交流祭への出店
3.作業所の地域交流祭お手伝い
三ツ境生 17名
近隣高校生11名
第7回 平成20年
8月18日(金)
段ボール遊具を作って小学生と遊ぼう! 三ツ境養護学校 1.ゆりかごシーソー、バランスボードの作製
2.デザート作り
3.お弁当タイム
三ツ境生 21名
近隣高校生17名

現在7回の活動を終えたところであるが、これまでの活動の概要については上のに示した通りである。振り返ってみると最初は、「ボランティアなんて照れくさい」「養護学校のことは知らないので分からない」「障害者と関わったことがないので…」「忙しくて時間がない」といっていた高校生、そして養護学校生徒たちも「養護学校に入る前、いじめられたので怖い」「一緒に活動する自信がない」「話ができないので不安」等、参加に躊躇(ちゅうちょ)していたのだが、「養護学校でやるんだよ」「先生も、友達も一緒だよ」に促されて、緊張しての参加だった。

しかし、終わってみると「調理の時、教えたり手伝ってもらったりして一緒に作れて楽しかった」「何をしたいということは特になく、話ができればそれでいい」「また、一緒にやれたらいいな。次はいつですか」といった変化が見られ、毎回参加する生徒も多数ある。担任も「普段の学校生活では見られない明るさが見られ驚いた」「人への関心、異性への関心が顕著に見られ、そういう時期なんだと痛感した」等生徒たちを再認識する機会ともなった。

また、高校生たちも「少し緊張もあったが、話してみるとすぐ仲良くなれ、楽しかった」「初めはいつもの自分を出せるか、正直不安だったが、関わってみるとそんなことは全く気にせず活動できていた。気がつけば、自然と接することができ、『壁なんかない』と改めて感じた」「企画、運営を任され、みんなの前で説明するなんて今までなかったので苦手意識があったが、今日やってみて、少し自信が持てた」と充実感を語ってくれた。高校の先生も「生徒たちのあんな生き生きとした姿、リーダーシップを発揮する姿、相手の気持ちを考えようとする姿に感激した」と感想を述べていた。そして、活動の重なりの中で相互に仲間意識も芽生え、活動以外の付き合いもでき、その中で、養護学校の生徒は、メールや携帯など付き合いのマナーをきちんと高校生から意見してもらう場面もあり、同僚性の中で互いに社会性を学ぶ機会ともなった。

お互いが自分発見、自己肯定感の場を実感

このように違う文化を持った高校生自身が緩やかな時間の流れの中で、出会い、ふれあい、関わりあい、お互いが楽しめる時間と場を、自分たちで工夫して作っていく、その活動場面そのものが、互いに気づき合う場、自分を認めてもらえる場、自分自身の発見の場、そして、自己肯定感を高める場となることを確信した。

従って、大人は、場の提供をとにかく提示してみる、そして高校生の力を信じ、任せ、後方支援に徹する、そして、活動の実践をきちんと評価し、周囲、家庭・学校にも伝え認めていくことが大切だと考えている。

この活動を契機に、ある高校生は養護学校の教員を目指し、ある生徒は障害者に優しい駅員になると巣立っていった。また地域の障害児と遊ぶボランティア活動を始めた高校生もいる。同世代の高校生がハンディのあるなしに関わらず、一緒に外出し、地域での生活を共に経験するといった活動の中で、地域社会への関心や市民としての意識を育むよい機会ともなった。

今後も、地域社会、さらに地域住民をも巻き込んだ形で活動の場を開き、そこに集まる子どもたちの思いをつなげ、深めていく役割を、養護学校から発信していきたいと考えている。

(やまもとみどり 神奈川県立三ツ境養護学校地域支援担当)