音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年10月号

巡回相談による支援
~巡回相談を効果的に活用するには

原口英之

はじめに

平成19年度から全国のすべての小中学校で特別支援教育が本格的に実施され始め、各地域においてはさまざまな取り組みが始まっている。所沢市立教育センター教育相談室においても、学校での児童生徒の支援のために巡回相談を行っている。

巡回相談とは

巡回相談の目的は、児童生徒一人一人のニーズを把握し、児童生徒が必要とする支援の内容と方法を明らかにするために、担任、特別支援教育コーディネーター、保護者など児童生徒の支援を実施する者の相談を受け助言し、また支援の実施と評価についても学校に協力することである1)

当市の教育センター教育相談室では、市内の小学校・中学校だけでなく、市内の幼稚園・保育園にも巡回相談を行っている。園長・学校長や保護者の要請、あるいは教育相談室の判断により、教育委員会指導主事あるいは教育相談員(臨床心理士)が、各園・学校に訪問する。

巡回相談の役割はさまざまである。教員からの聞き取りや授業場面の観察等により、支援の対象となる児童生徒や学校のニーズの把握と指導内容・方法に関する助言、校内での実態把握の実施や校内支援体制づくりへの助言、校内研修会の実施、個別の指導計画の作成への協力等が挙げられる。

それらの役割が期待される巡回相談員は、「LD、ADHD、高機能自閉症等に関する専門的知識・経験を有する者」とされているが、地域によってはさまざまな職種の者が巡回相談員を担っているのが現状である。大学教員、医師、臨床心理士、教育委員会指導主事、特別支援学校教諭、言語聴覚士、民間の発達障害の専門機関の職員や、ソーシャルワーカー、児童相談所等の福祉機関の職員等さまざまである。巡回相談員がどのような職種であれ、学校側からは「特別支援教育の専門家」として見られるため、巡回相談員には各職種の専門性だけではなく巡回相談員としての専門性が求められる。

巡回相談員に求められる専門性

支援対象が幅広い年齢層であることや役割が多岐にわたるため、巡回相談員には非常に幅広い知識と技能が求められる。文部科学省によると、1.特別支援教育に関する知識と技能、2.LD、ADHD、高機能自閉症など発達障害に関する知識、3.アセスメントの知識と技能、4.教師への支援に関する知識と技能、5.他機関との連携に関する知識と技能、6.学校や地域の中での可能な支援体制に関する知識、7.個人情報の保護に関する知識、が挙げられている1)

3のアセスメントの方法の一つとしては心理検査等の実施が挙げられているが、巡回相談の時間が限られていることや、検査は対象となる児童生徒に負担をかける等の理由から、実際には実施できないことが多い。その場合、授業中や休み時間に児童生徒の行動を観察することで支援対象の児童生徒の特徴を把握する必要がある。表に巡回相談での行動観察のポイントをいくつか挙げる。

表 巡回相談での行動観察のポイント

  • 授業の参加や姿勢の保持
  • 着衣・靴
  • 机の上、中、周囲、ロッカーの整理、落とし物
  • 忘れ物、紛失物
  • 運筆・書写・描画の様子(動作や作品)
  • 楽器の演奏や運動
  • 黒板・教科書・教員の指示への注意の向け方
  • 手いたずら、独り言
  • クラスメイトとの関わり方
  • 子どもの表情や態度
  • 給食での様子

2)を一部改変

巡回相談による支援の進め方

巡回相談は、学校の要請により巡回相談員が学校に訪問することから開始されることが多い。学校に訪問する巡回相談員側にも、巡回相談を活用する学校側にもそれぞれ大切なポイントがある。以下、授業の取り組み方に課題のある児童を例に挙げて説明してみたい。

(1)巡回相談員の巡回相談の進め方のポイント

巡回相談員は学校のニーズを把握することから始める。そして授業観察を行い、支援対象となる児童についての特徴を把握する。観察する時間が限られている場合が多いが、児童の課題が出やすい場面と取り組みがよい場面の両方を観察することが望ましい。また、事前に児童の特徴に関する資料等を学校から得ておくとよい。課題がどのような状況で起こるかを把握できると、改善すべき課題や目標を決めることができる。

一方で、授業への取り組みがよい場面や課題が見られない場面を観察することは、課題を解決するための支援方法のヒントが見つかることにつながる。どのような場面でどのような関わり方をすると、その児童がうまく取り組めるかが見えてくるのである。その後、担任に対して指導の工夫について助言する。場合によっては関係する同学年の教員や、全教員を集めて助言することもある。この際に大切なことは、教員が実行できる支援策の助言を行うことである。

対象児童は学級集団の中で生活しているため、個別的な対応を行うことが難しい場合が少なくない。人員や物理的環境の制約がある中で教員が行える支援策の助言を行わないと、理論的に正しい方法であってもその児童に支援が行われないことになってしまう。巡回相談員が間接的に児童に関わる巡回相談では、実際に児童の支援を実施する教員が行える支援策を一緒に考えることが重要なのである。また可能であれば継続した巡回相談を実施するために、巡回相談後の経過の記録の仕方について助言し、再度巡回した際に支援策に効果があったかどうかを教員と一緒に評価することが必要である。

(2)学校側の巡回相談の活用の仕方のポイント

授業観察をして児童生徒の指導法について助言をしてほしい、対象児童生徒の保護者への対応を知りたい、個別指導計画の作成について助言してほしい等、相談する内容を具体的に明確に伝えることが大切である。巡回相談員にただ来てもらえればどうにかなるという考えでは支援につながらない。事前に地域の巡回相談員がどのような専門性を有しているのかを把握し、相談する内容によっては巡回相談員を選ぶことも必要である。

効果的な巡回相談にするためには学校側の活用の仕方がポイントとなる。巡回相談当日は時間が限られていることが多いため、事前に児童の特徴把握の手がかりになる資料を用意しておく。児童の行動や学習面、対人関係の様子等からこれまでどのような支援を行ってきたかの経過や、家庭環境や生育歴、保護者との関係等もまとめてあるとよい。地域や学校によっては実態把握のための資料を作成しているのでそれを活用する。その他にも用意できるものがあれば可能な限り用意しておく。

授業観察後の話し合いでは、出席者がだれかを決めておく。できるだけ関係する教員はすべて出席し、場合によっては校内研修会として位置づけすべての教員が出席する。また一度の巡回相談では解決しない場合も少なくないため、巡回相談後の経過についても考えておく。再度巡回相談を依頼する時期や、次回は別の児童の相談を依頼するのか等を決めておく。継続した巡回相談が行える場合には、巡回相談員と一緒に効果検討の話し合いをすることが大切である。

今後の課題

巡回相談の活用はスタートしたばかりであり、現状では地域差も大きいが、巡回相談の実施は年々増加している。当市の教育センター教育相談室においても、平成17年度の巡回相談の申込件数と比較して、平成19年度は2.2倍の申込件数であった。今後も巡回相談の活用は増加していくとともに、相談内容も複雑化していくことが予想される。そのような現状の中で、限られた時間で効率的かつ効果的な巡回相談にするためには、巡回相談員には幅広い専門性を確保することが必要不可欠である。学校側には効率的かつ効果的に活用するため、校内支援体制を整備し、巡回相談の活用方法のマニュアル等を作成することが必要であろう。また、実際に巡回相談によって児童生徒の課題が改善されたか否かの評価を行い、その評価から効果的な支援策を抽出し積み上げていくことが今後の巡回相談において大変重要なことである。

(はらぐちひでゆき 所沢市立教育センター教育相談室教育相談員)

【参考文献】

1)文部科学省(2004)小・中学校におけるLD(学習障害)、ADHD(注意欠陥/多動性障害)、高機能自閉症の児童生徒への教育支援体制の整備のためのガイドライン(試案)

2)柘植雅義・阿部利彦著(2007)『〈先進事例集〉地域の特色ある特別支援教育2 教師の力で明日できる特別支援教育』明治図書