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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年10月号

1000字提言

みんなが幸せを感じられる社会を目指して

高橋玲子

「お手伝いしましょうか?」「どこまで行くの?」「青ですよ」電車で通勤する全盲の私が、そこで行き会う方たちとこんな言葉を交わさない日は1日たりともありません。

この10数年間に、社会は大きく変わりました。ようやくたどり着いた広いスーパーの冷蔵庫の前で、人の気配をとらえてやっとの思いで「あのぅ、牛乳がほしいんですけど、取っていただけますか?」と言ったのに、びっくりしたのか、聞こえなかったのか、本当は人などいなかったのか、何も応えてもらえず、その場で私はもう再起不能なぐらいに凍り付いてしまう。予定していた他の買い物をする元気も萎えて、せっかく行ったスーパーから何も買わずに逃げ帰る……そんな経験が、20年近く前、一人暮らしを始めたばかりの私には何度となくありました。

すっかり度胸も据わり、街で何かをお願いする際のちょっぴりスリリングなノウハウもたくさん身に付けた今の私。近所に住む若い全盲の後輩を気遣って、「○○店での買い物、大変?」とたずねたら、逆に「えっ?入り口にあるインターホンで『視覚障害者です』って言うとサービスカウンターから案内の人が来てくれるようになったんですよ」と教えられてしまいました。

人通りの多い店の入り口で、ひとりインターホンに向かってはっきりと「視覚障害者です」と言うのには少し勇気が要ります。でも、いつでも堂々と介助をお願いでき、セールコーナーの人混みに自分も分け入ることのできる喜び、どの売場へ行こうともずっと隣に頼れる方がいてくださる安心感、「あっ、これ今度私も買ってみよう」と楽しそうにしてくださる案内の方……こんなうれしい未来は、冷蔵庫の前で凍り付いていたあの頃の私にはとうてい想像すらつきませんでした。

先日、出張先で夜遅く、駅から最寄りのビジネスホテルまで独力で行かなければならないことがありました。「人に聞きながら行きますので、○○ホテルまでの行き方と目印を教えてください」と駅員さんにお願いしたら、「ちょっと行ってくる」と周囲に断り、何と歩いて5分ほどのホテルまで連れて行ってくださいました。「お客さんが元気で明るいから助けたいって気分になるんですよ」と言ってくださった駅員さん。社会に人々の優しさと理解を育む土壌が生まれ、そこから栄養をもらって生きている私も少しずつ変えられているのだと思います。

みんなが幸せを感じられる社会を目指して、ときには踏ん張り、ときには憤り、ときにはちょっぴり悲しみ、そしてたくさん楽しみながら、これを読んでくださっているみなさんと一緒にこれからも歩んでいけたらと思います。

(たかはしれいこ (株)タカラトミー社会環境課)