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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年10月号

列島縦断ネットワーキング【栃木】

第1回なかがわまちアートフォレスタ2008

梶原紀子

魅力的な栃木の里村と「もうひとつの美術館」

那珂川町は、栃木県東部に位置し、茨城県との県境にあります。人口は約19,700人。小さな町ですが3つの美術館があり、美しい棚田のある里山の風景の中に、神社仏閣、温泉、窯元、古代の古墳などが点在しています。

3つの美術館の1つである「もうひとつの美術館」は、2001年に少子化のために廃校となった小学校を改修し、既成の枠にとらわれない、見ていると元気になったりする不思議な魅力を持った、主に障がいをもった人たちのアート作品などを企画紹介する美術館として開館しました。特定非営利活動法人を取得し、今年8月には7周年を迎えました。

当美術館では、2001年から、春、夏、秋と年3回の企画展示をして、これまでたくさんのすばらしい表現者たちを紹介してきました。サマーフォーラム2008「西から来た妖精たち2」は、22回目の企画展示となりますが、私たちの知らない、隠れた、新しいアーティストに出会いたいという思いから、今回は全国から作品を公募することにしました。さらに、今まで当美術館の展示を見る機会のなかった町内の方々や、たまたま那珂川町を訪れた人にも、障がいをもった人たちの“表現”を見てもらえるように、3つの美術館も含め町内のいろいろなところに展示しようと考えました。これが「なかがわまちアートフォレスタ2008」です。

不思議なアートで町おこし

今回の企画では、作品だけでなく、その展示場所の潜在能力も発見できる機会にしたい、そうなれば、那珂川町の広報、さらには栃木県の広報にもなると考えました。

サマーフォーラムで毎年、町と教育委員会から後援をいただいていましたので、今回もお願いしたところ、川崎町長から特別のご配慮をいただき、町と町教育委員会との共催ということになりました。町としても画期的な試みとして、実行委員に加わってもらいました。さらに町役場のボランティア集団「勝手に助っ人隊」(35人)も協力してくれることになりました。

またアートフォレスタには、町内のお寺から協賛の申し出があり、展示会場としての協力、入賞者の記念品(陶芸)の作成等、町をあげての取り組みになりました。

公募開始~作品選考

応募作家数144人、応募作品数414点が集まりました。選考委員は、当美術館や那珂川町にゆかりのある方6人が、ボランティアで引き受けてくださいました。写真による一次選考は、2日間に分けて行われ、その結果、226点に絞られました。二次選考は、実物作品の選考が行われました。入選作品の作家とグループは計97人、入選作品184点が選ばれました。入選者の3割強は県内在住の方でしたが、関東以外の東北地方や関西、遠くは福岡といろいろな地域からの力作が集まりました。

展示会場は10か所

入選作品の展示会場は町内10か所で、次のような条件の場所であることを考慮しました。1.那珂川町の特色をもっている(名所、名物、景勝地、集会所)、2.公共性がある。入りやすく無料エリアである。見て回りやすい、3.地理的に分かりやすい、4.人の気配がある(作品の保護、管理上)、5.定休日が一緒である(同日で回れる)。

作品の搬入・設営には、町から車と人手を提供してくれることになりました。また、当美術館関係者のボランティアは、展示会場を示すフラッグ、「アートフォレスタ」開催場所マップ(裏は作品リスト)作り、スタンプ、記念品、賞状のデザインの検討、準備をしました。

スタンプラリーの実施

展示期間中、会場10か所を少しでも多く回ってもらうために、スタンプラリーを実施しました。会場10か所のうち5か所を回り、スタンプを押して、当美術館館内での企画展示「西から来た妖精たち2」を観た方には“ころぼっくる”を差し上げるというものです。「西から来た妖精たち2」の出展アトリエである「やまなみ工房」(滋賀県甲南町)の「正己地蔵」(山際正己作)の最小サイズを、“ころぼっくる”としてご提供いただきました。

「第1回なかがわまちアートフォレスタ2008」開催

いよいよ8月8日、10か所で展示会が始まりました。当美術館の事務局には、入選作家や関係者から自分の作品がどこに展示されているのかの問い合わせを多くいただきました。また、ばとう道の駅の会場には観光協会があり、初めて那珂川町に来た人から、同様の問い合わせと会場への行き方を、よく聞かれたそうです。この会場には、おいしいアイスクリームの店があり、開催期間が夏休みだったこともあり、お店に来た家族連れが「昆虫の世界」(戸苅宏二作)を発見し、夢中になって見ていたそうです。

旅の途中、アートフォレスタの開催のことを知らずに那珂川町に降り立ち、障がいをもった人たちの作品と偶然に出会う。そのことで、より那珂川町の印象が強いものになったのではないでしょうか。

一方、今回の入選作品は売ることが目的ではなかったのですが、作品を気に入り、売ってほしい、との問い合わせも受けました。

展示会場
1.那珂川町馬頭広重美術館
2.金子みそ商店
3.馬頭総合福祉センター
4.ばとう道の駅
5.もうひとつの美術館
6.いわむらかずお絵本の丘美術館
7.陶遊館
8.御前岩物産センター
9.ふるさとの森民家
10.なす風土記の丘資料館

「アートフォレスタ2008」を終えて

会期中、ほとんどの入選作家や施設関係者が展示会場に来てくれました。その多くの方からこの企画を第2回、3回と続けてほしいという要望をいただきました。障がいをもった人たちの創作活動の多くは、自宅や施設といった限られた狭い所で行われていて、他の人からの刺激を受けにくく、発表の場も少ないのが現状です。その意味でも「なかがわまちアートフォレスタ2008」は、とても重要なイベントです。

また、展示会場として協力してくれた所に「何か変化があったか」と質問したところ、店が明るくなってよかった、見に来た他の人と会話が弾んだ、初めて障がい者の作品を知った、他の会場の絵も観たくなった、次回以降も会場となってもいい、などの回答をいただきました。ただ1回目ということもあり、体制の不備など反省点や至らないところがありました。今回の反省点を第2回以降につなげていきたいと思っています。そして目的のひとつであった、新人発掘も成果を上げることができました。

最後になりましたが、本当にいろいろな方々のご協力があったからこそ「第1回なかがわまちアートフォレスタ2008」を、予定通り始めることができ、そして無事終了することができました。ここにお礼申し上げます。

(かじはらのりこ もうひとつの美術館館長)