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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年11月号

放送を通じた情報アクセス機会の均等化実現に向けて

総務省情報流通行政局情報通信利用促進課

1 はじめに

放送は、国民生活において報道、教養、教育、娯楽、生活関連情報等を恒常的に入手できる手段であって、欠くことのできない基幹的なメディアとなっている。

厚生労働省「平成18年身体障害児・者実態調査」によると、聴覚・言語障害者は34万3千人、視覚障害者が31万人となっているが、これらの人々が、放送からさまざまな情報を入手し、日常生活を豊かで活力あるものにしていくためには、字幕放送、解説放送、手話放送の普及が必要だと認識し、総務省では、それらの拡充に向けた取組を進めているところである。

2 字幕放送等の現状

総務省では、毎年度、各放送事業者の字幕放送、解説放送、手話放送の進捗状況の公表を行っている。

平成9年11月に当時の郵政省が策定した「字幕放送普及行政の指針」の目標達成を目指して取組が進められた結果、平成19年度の字幕付与可能な放送時間に占める字幕放送時間の割合の実績はNHK(総合)で100%、民放キー5局平均で89.0%となった。指針を策定した当時の平成9年度の実績との比較は以下のとおりであり、着実に拡充されてきたところである(表1)。

表1

  平成9年度 平成19年度
NHK(総合) 32.5% 100%
民放キー5局平均 3.5% 89.0%

また、平成19年度の総放送時間に占める字幕放送、解説放送、手話放送時間の割合の実績は、次のとおりであり、字幕放送については拡充されてきているものの、解説放送、手話放送については、割合はまだ低いものとなっている(表2)。

表2

  字幕放送 解説放送 手話放送
NHK(総合) 44.6% 3.7%
NHK(教育) 29.9% 8.7% 2.4%
民放キー5局平均 39.5% 0.5% 0.1%

詳細については、以下のHPを参照いただきたい。http://www.soumu.go.jp/s-news/2008/080630_6.html

3 「視聴覚障害者向け放送普及行政の指針」の策定

総務省では、「デジタル放送時代の視聴覚障害者向け放送に関する研究会」報告書(平成19年3月)の提言を踏まえ、平成20年度以降の視聴覚障害者向け放送の普及に向けて、平成19年10月30日、平成29年度までの字幕放送と解説放送の普及目標を定めた「視聴覚障害者向け放送普及行政の指針」を取りまとめ、公表した(表3)。

表3 視聴覚障害者向け放送普及行政の指針

1 字幕放送(注1)

  普及目標の対象 目標 備考
対象時間 対象番組
NHK 7時から24時 字幕付与可能なすべての放送番組(注2) 2017年度までに対象の放送番組のすべてに字幕付与 教育放送については、できる限り目標に近づくよう字幕付与する。
放送大学学園 聴覚障害者等のニーズの実態を踏まえ、できる限り多く字幕付与  
地上系民放
放送衛星による放送
(NHKの放送を除く)
2017年度までに対象の放送番組のすべてに字幕付与 県域局については、できる限り目標に近づくよう字幕付与する。
独立U局及び放送衛星による放送については、目標年次を弾力的に捉えることとする。
通信衛星による放送
有線テレビジョン放送
電気通信役務利用放送
当面は、できる限り多くの放送番組に字幕付与  

注1 字幕放送には、データ放送やオープンキャプションにより番組の大部分を説明している場合を含む
注2 「字幕付与可能な放送番組」とは次に掲げる放送番組を除くすべての放送番組
1.技術的に字幕を付すことができない放送番組(例 現在のところ、複数人が同時に会話を行う生放送番組) 2.外国語の番組 3.大部分が器楽演奏の音楽番組 4.権利処理上の理由等により字幕を付すことができない放送番組

2 解説放送

  普及目標の対象 目標 備考
対象時間 対象番組
NHK 7時から24時 権利処理上の理由等により解説を付すことができない放送番組を除くすべての放送番組 2017年度までに対象の放送番組の10%に解説付与 教育放送については、対象の放送番組の15%に解説付与する。
放送大学学園 視覚障害者等のニーズの実態を踏まえ、できる限り多く解説付与  
地上系民放
放送衛星による放送
(NHKの放送を除く)
2017年度までに対象の放送番組の10%に解説付与 県域局については、できる限り目標に近づくよう解説付与する。
独立U局及び放送衛星による放送については、目標年次を弾力的に捉えることとする。
通信衛星による放送
有線テレビジョン放送
電気通信役務利用放送
当面は、できる限り多くの放送番組に解説付与  

※視聴覚障害者向け放送普及行政の指針策定後は、技術動向等を踏まえて、5年後を目途に見直しを行う。

(1)目標期間

目標期間は、平成20年度(2008年度)から平成29年度(2017年度)までである。なお、平成23年のアナログテレビジョン放送の終了や、近年の急速な技術進展などの環境の変化が予想されることから、技術動向等を踏まえて、策定から5年後を目途に見直しを行うこととした。

(2)字幕放送について

字幕放送については、字幕付与可能な放送番組の定義を拡大し、1.複数人が同時に会話を行うもの以外の生放送番組(アナウンサーが原稿を読む形式のいわゆるストレートニュース等)、2.手話により音声を説明している放送番組、3.大部分が歌唱の音楽番組を、新たに字幕付与可能な放送番組に追加することとした。また、新たに放送する放送番組だけでなく、再放送番組も目標の対象に含めることとした。さらに、データ放送やオープンキャプションにより番組の大部分を説明している場合も、字幕放送に含めることにした。

以上を踏まえ、平成29年度(2017年度)には、新たに定義された「字幕付与可能な放送番組」のすべてに字幕が付与されることを目標としている。

(3)解説放送について

テレビジョン放送の放送番組の場面・状況や出演者の動き等を音声により説明する解説放送については、今回新たに指針を策定し、平成29年度(2017年度)までに、権利処理上の理由等により解説を付すことができない放送番組を除くすべての放送番組を対象に、NHK総合10%、NHK教育15%、民放キー5局等10%に解説が付与されることを目標としている。

詳細については、以下のHPを参照いただきたい。http://www.soumu.go.jp/s-news/2007/071030_2.html

4 平成21年度概算要求

郵政省(当時)は、「身体障害者の利便の増進に資する通信・放送身体障害者利用円滑化事業の推進に関する法律」(平成5年法律第54号)に基づき、通信・放送機構(当時)の衛星放送受信対策基金の運用益を財源として、平成5年度から字幕番組、解説番組の制作費に対する助成を開始した。平成9年度からは、新たに一般会計からの補助金を追加して助成を行い、平成11年度からは、助成対象に手話番組を追加しているところである。

字幕番組等制作費の一部助成については、平成21年度概算要求において十分な予算が確保できるよう、積極的に取り組んでいる(平成21年度概算要求額:5.9億円)。

5 研究開発

総務省では、独立行政法人情報通信研究機構の委託研究として、平成17年度から平成19年度にかけて、「視覚障害者向けXML及び視覚障害者用受信端末(マルチメディアブラウジング技術)の研究開発」を実施してきた。これは、視覚障害者の方が、デジタル放送で提供されているデータ放送やEPG(電子番組ガイド)を楽しむことができるようにするための研究開発である。総務省としては、今後、この研究開発の成果の普及に努めていきたいと考えている。

6 最後に

総務省としては、平成19年10月に、平成29年度までの字幕放送・解説放送の普及目標を定めた「視聴覚障害者向け放送普及行政の指針」を策定したところであり、引き続き、字幕番組等制作費の一部助成等、字幕放送等の視聴覚障害者向け放送のさらなる普及に向けた取組を推進していきたいと考えている。