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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年11月号

ワールドナウ

2008ワーカビリティ・インターナショナル(WI)世界会議 in 札幌

斎藤公生

WIは、障害者雇用や就労問題を主たる目的に活動している国際組織で、1987年に結成され、現在37か国1地域、約130団体が加盟し、わが国からは、きょうされん、全国社会就労センター協議会、ゼンコロ、太陽の家、日本セルプセンターの5団体が加盟、アジア地域からは18団体が加盟している。

海外20か国を含め総勢250人参加

札幌会議には、海外から20か国約50人を含め総勢250人が参加し開催された。

本会議には、過去のWI世界会議には見られないいくつかの特徴があった。

1.過去の会議に比べ、多数の障害当事者の参加者があった。2.従来、アジアからの参加者は極端に少なかったが、今回は20人近い参加があった。3.WIとして初めて「途上国支援問題」を真っ正面から取り上げた。4.各国の情報を得るため30人を超える方々に発言の機会を作った。5.従来の会議では、非英語圏からの参加者への配慮に欠けており、絶えず問題になっていたが、今回は同時通訳の採用をはじめ、期間中多くのボランティア通訳の協力を得てコミュニケーションの改善に配慮したことである。

これらの取り組みには参加者から大きな評価を受けたので、今後開催されるWI会議等に継続されることを期待するものである。

会議の概要

本会議は、アジア地域会議を含め9月9日から12日までの4日間の日程で札幌市で開催された。主催はWIジャパン、後援として厚生労働省、北海道、札幌市、道社協、札幌市社協各位のご協力をいただいた。

字数の制限上、内容については骨子のみとなるが、現在、本会議の報告書を作成中なので必要な方は事務局にご連絡をいただきたい。

■「日本の現状と課題」(9日)

9日はジャパンデーと位置づけ、「日本の現状と課題について」のプログラムを編成した。冒頭、職リハ学会の朝日雅也氏から「日本の障害者の就労・雇用の概要等について」の説明を受けて、会議はスタートした。

続いて、障害当事者のプログラムとして、実際に就労している障害者の体験を通しての課題等をビデオで紹介した後、2人の当事者が就労の現状や課題について意見を述べた。

引き続き、6団体(ヤマト福祉財団、職リハ学会、リハ協、日本財団、JAIC、北海道)のご協力を得て、障害者支援の活動状況を発表いただいた後、テーブル・セッションに移り、個別の質疑が活発に行われた。

■「記念講演」「ディーセントワークセミナー」「パネルディスカッション」

2日目は、全盲ろう者である東京大学の福島智教授による記念講演「障害者が働くことの意味」についてがあった。ご自身の体験を通しての講演をいただき、多くの参加者から感銘を受けた旨の感想をいただいた。

引き続き「障害者の就労雇用の世界基準に関するセミナー」と題し、前半は「ディーセントワークの理念・障害者の労働問題」についてILO障害者専門官バーバラ・ムレイ氏が、そして後半はパネルディスカッション「障害者の就労・雇用におけるディーセントワークの理念」について、3人のスピーカーとバーバラ氏をアドバイザーに議論が交わされた。バーバラ氏はILOの活動状況や、159号条約の課題等を説明し、障害者の権利条約については、現在の比准国が32か国、近々比准を予定している国が9か国等の説明に加え、特にCRPD27条と世界人権23条に基づく労働の権利については、変化の時を迎えているので、各国とも促進に力を入れるべきであると強調されていた。

パネルディスカッションでは、イギリスのパペ氏が障害者には、雇用市場で働けるものと福祉を必要とするものがあり、国家財政は価値ある福祉政策には積極的な財政支援を行い、社会に完全統合されることがノーマルであると主張していた。

また、香港のウォン氏は障害者の就労・雇用の推進にはメディアの活用が重要なポイントであり、07~08の2年間で新聞、テレビ等に57回も露出した事例を上げ、いかに経営に効果があったかを強調していた。

午後からは、会場を二分し「ビジネス」に関する分科会と「人的支援」を主とした分科会を設け、都合10人を超えるスピーカーに登壇を願い、各国の取り組みや課題について話してもらった後、フロアーと活発な意見交換がなされた。

この中で、特筆したいのは、現在セルプ協等が国に要請している、授産施設等に対する官公需優先発注制度が、すでにフィリピンでは5年前から実施されており、教育省の机・椅子の購入予算の10%を優先発注し、年間約2億円強が障害者団体から購入されていることが説明され、さらに近々政府の優先発注制度が各省に拡大することが国会で説明されていることが報告され、日本の関係者に大きな衝撃を与えていた。

次に、本会議の大きなテーマの一つであり、WI組織としては初めて真っ正面から取り上げた「途上国支援問題について」は、まず途上国側からは、支援への期待について3か国から意見が述べられ、引き続き、すでに支援を実施しているオランダやオーストラリア等から実践報告がされた。

次に「WIとしての今後の支援の在り方について」と題し、4地域代表のパネラーから意見が述べられ、日本からはWIジャパンに、途上国支援特別委員会が設置され、今後本格的な活動に取り組むことが説明され、最後に松井亮輔法政大学教授からまとめと問題提起がなされ、09年WI会議開催地オーストラリアの代表の挨拶をもって全日程を終了した。

■アジア地域会議

翌12日には、アジア地域会議が開催され、「連携と活動」をテーマに、今後の取り組みについて活発な意見交換がされた。

WIジャパンからは、今後途上国に対し具体的な支援活動に入るため、近々、予備調査を各国に実施するための協力要請がなされ、最後に、09年WIアジア会議はフィリピン、マニラ市で開催されることを決議し、全日程を終了した。

札幌会議は、前述したように、過去の会議と違い、あらゆる配慮に基づいて開催したため、内外の多くの参加者から高い評価を受けることができた。

今後の課題─途上国参加者の増加

今回、WIジャパンはアジアから多くの関係者を招待したが、WIは、富める人々の組織ではなく、すべての国々が参加し活動を共有し、支え合うことが求められているが、現状は途上国からの会員が少なく、特にアジアからの加盟が少ないことへの改善が、WIジャパンに求められていることを再認識した会議でもあった。

最後に、本会議開催に当たり、多くの企業、助成団体、福祉施設の協力をいただいた。特に共催をいただいた中央競馬馬主社会福祉財団、全社協並びに開催地の道社協と施設の皆様方に対し、心より感謝と御礼を申し上げます。

(さいとうこうせい WI札幌会議実行委員長)