音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年12月号

視覚障害者の参加を保障するために

鈴木孝幸

まず、基本的にこの裁判員制度についての考え方を示したい。

これから導入される裁判員制度は、国民が刑事裁判に参加することにより、次の目的を達成しようとしているのである。

それは、裁判を身近で分かりやすいものとすること。司法に対する信頼の向上を図ること。国民に分かりやすく迅速な裁判を目指すこと。犯罪の抑止力・再犯の防止を狙い、社会の安定を図ることなどが上げられる。

国民が裁判に参加する制度は珍しいことではなく、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア等でも行われ、最近では韓国でも導入を行っている。これを考えると、日本でこれが実施されるのは世界的な流れと一致しているとも言える。

前述のことから刑事裁判においては、幅広い国民を裁判員として選出することに意味があると言える。この制度を実施するに当たり、選挙人名簿から無作為抽出した者を母体としている以上、障害のある人も障害のない人も差別することなく裁判員として選出され、職務を遂行することが保障されなければならない。

そのため、障害を理由として裁判員となることを拒むことがあってはならないと感じている。障害のある人が、裁判員として職務を遂行するに当たっては、障害のない人と比較して不利益が生じないようにすることが重要であると言える。

裁判員法第14条3号で「心身の故障のため裁判員の職務の遂行に著しい支障がある者」は裁判員となることができないということを規定しているが、幅広く裁判員として選出するためであれば、この規定の解釈が問われることになるものであり、この規定にとらわれることなく選任されなければならない。

設備面からの配慮であれば、国などが合理的な範囲で、設備の改善や、介護者や補助員の配置などの支援を行うことが必要であると思われる。障害のある人が実質的にも差別無く裁判員の職務を遂行することができるよう、国が合理的配慮を行うべきことは明らかであり、視覚に障害のある人は、点字や録音による情報提供などによって職務遂行が可能であると言える。

このことから法第14条3号の「裁判員の職務の遂行に著しい支障がある」場合とは、合理的配慮を行ってもなお職務の遂行に著しい支障がある場合に限られると言えるのではないかと思われる。

ここで、何が障害のある人に対する合理的配慮なのかについて、明確に決める必要があると考えられる。

例を上げれば、

1.視覚障害のある人が自宅から裁判所までの移動にガイドヘルパーが必要なのであれば、その経費等の提供。

2.裁判所建物内においては、エレベーターや部屋の名前などについて点字や音声による案内システムなどの導入。

3.介助者やガイドヘルパーの入廷や入室。

4.必要な書類の点訳または録音。

5.写真、図面、その他の視覚を必要とする場合の支援。

6.視覚を必要とする証拠調べにおける援助(アシスタントによる援助や触ることによる確認など)。

以下に、その手順によって配慮されるべき内容を記載したいと思う。

1.裁判員候補者への調査票の送付の場合、視覚障害者の裁判員制度参加を完全に保障する意味から、送付用の封筒には点字を付記するとともに、書類には音声コードを添付することが必要である。

2.選任手続期日のお知らせ・質問票についても、前項と同様の配慮が必要と思われる。

3.選任手続・裁判長による質問については、視覚障害に関する情報保障手段の準備を行い、質問を理解する十分な時間的余裕を必要とする。また、選任手続に当たっては、本人を裁判員に選任することを前提に、審理・評議・判決の全過程を通じて、視覚障害のある者が必要とする情報保障手段が何であるかを明確にしておくことである。さらに、必要な情報保障の準備に時間・費用がかかることや、視覚障害のある者が参加することによって裁判が遅延するなどの理由から、選任を取りやめるなどといったことが生じないようにすること。

4.審理段階においては、視覚障害者が裁判員として審理に参加していることを裁判関係者全員に事前説明を行うことが必要と思われる。また、発言者の表情を読み取ることが困難であるため、コミュニケーションの支援を行う援助者が必要である。

5.評議段階においては、審理段階と同様な情報保障の準備・配慮が必要である。

6.判決においても、審理段階と同様な情報保障の準備・配慮が必要である。

その他として、次のようなことも踏まえて考えなければならない。

・視覚に障害のある者の参加によって、裁判が遅延する、費用がかかるなどのデメリットを理由として、視覚に障害のある者を裁判員から除くことがないようにすること。

・審理・評議段階での情報保障の不備によって、裁判員に就任した視覚障害のある者が自信のないまま判決に参加する可能性がある。そこで審理・評議を通じての本人の疑問・不明点の解消には、点訳や音声訳された書面を準備することや、情報保障を行うための介助者の同席などの最大限の配慮が必要である。

いずれにしても、障害の有無に関わらず、この制度に積極的に関わっていくことが必要なのではないかと思うものである。

(すずきたかゆき 日本盲人会連合情報部)