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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年12月号

1000字提言

“当事者研究”って楽しい!

伊藤知之

私が活動する精神障がい者の地域活動拠点「浦河べてるの家」での、ここ数年ホットな活動として「当事者研究」というものがある。これは、統合失調症の症状や、マイナス思考(“お客さん”とべてるでは呼んでいる)や、頭では分かっているのに体が勝手に反応して調子を崩すこと(“誤作動”とべてるでは呼んでいる)を題材にしたセルフ・エンパワメントの活動である。そこから来る、自らの生活上の困難を仲間の輪の中で情報公開し、わいわいがやがやと意見を出し合い、苦労のパターン図やユニークな対処法も数多く生まれている。中には、べてるの・浦河の精神保健のホットな活動を紹介するホームページ「べてるねっと」のスキルバンクというコーナーで、メンバーが仲間と編み出した「技」を全世界に公開しているケースもある。

当事者研究での大事なことの一つに、「自己病名」を付けるというものがある。これは、自らの症状・生きにくさをだれにでも分かるように、その苦労を自分で名付けた病名として表すものである。

ちなみに私の自己病名は、「統合失調症全力疾走依存型あわてるタイプ」である。仕事や人間関係での苦労が襲ってくると、パニックを起こし、それでも仕事やスケジュールをたっぷり入れないと、落ち着かず不安になるという病気(生き方の苦労?)である。

浦河では、毎週月曜日の午前中から就労継続支援B型事業所「ニューべてる」で、午後からは浦河赤十字病院で当事者研究ミーティングが行われている。

先日は、当事者研究のライブが、浦河の中心部にある総合文化会館で行われた。べてるへの来客者の方への研修プログラムとして行われたのだが、浦河の当事者による当事者研究の説明や、浦河につながる当事者の研究発表が行われた。ライブでは、発表をした当事者の当時の心情を即興でピアノ演奏をしてくれたりした。来客者にもおおむね好評であった。

当事者研究の良いところは、他の人と「つながっている」感触が得られることである。このことが当事者研究のダイナミズムと言ってもいい。

この当事者研究を取り入れるデイケアや就労支援事業所が、ここ2~3年で増えてきているとも聞く。当事者が互いの弱さ・生きにくさの情報を大きなネットワークで共有しあい、さらに大きな全国的な広がりになればと願う。

(いとうのりゆき 浦河べてるの家)