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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年12月号

列島縦断ネットワーキング【福井】

「ケアサポート・春駒」の取り組み

大久保恵子

地域の“環境”と“健康”の一石二鳥を夢見て、高齢者にお弁当を配達

NPO法人「ケアサポート・春駒」は、旧「料亭春駒」の再生・活用を目的に、2004年5月6日にNPO法人として発足し、現在、高齢者のお昼のお弁当宅配と、建物を地域の会議や学習会、イベント等に開放しています。

活用のきっかけは、旧「料亭春駒」は越前市で超一流の料亭として長年営業を続け、往時は政財界の社交の場として賑わい、地元はもとより総理大臣も見えたこともありました。しかし時代が変わり、NPO法人発足の10年ほど前に廃業し、当時は70歳過ぎの女将さんが一人で住んでいらっしゃいました。

私事のつきあいで、女将さんの元へたびたび寄せていただく中で、女将さんの「私も一人なのでいずれ施設に入ることになると思うが、少しでも長く住み慣れたここに居たい」。そして「部屋もたくさんあるが足が不自由になって2階へも上がりづらくなった。このまま放って置くのはもったいない。何か地域の人たちに使ってもらえないか」という思いを知りました。

そこで、2003年の秋から仲間と話し合いを重ね「料亭春駒を地域の福祉の拠点」として再生・活用しようということになりました。

高齢者にお弁当を届けたいと思い立った理由は、「高齢になると栄養失調と運動不足で身体を壊す」と聞いていたからです。そこで一食でも高齢者の健康管理のお手伝いができたらと考えました。二つ目に、かねてから地場農産物を地場で消費を拡大したいという思いがありました。これは1992年に仲間と立ち上げ、現在活動中のNPO法人「土といのちの会」(地域の農・食・環境を生産者と消費者が一緒に考え行動する会)の活動の一環として、発足当初から地産地消に取り組んでいた活動がもとになりました。お弁当に地場農産物を使うことで、地場農産物の消費拡大と地域の方の健康づくりに役立ちたいと考えました。

カンパとバザーで資金調達、そして、ついにオープン

しかし“思い”はあっても“お金”がありません。早速、資金集め!ということで趣意書を作り、一口1000円でカンパのお願いに回りました。

もう一つ、それは女将さんのご好意で、料亭時代に使っていた春駒の器を1階の広間に所狭しと並べ、バザーを開催しました。複数の新聞も記事にしてくださり、2月の雪の降る寒い日でしたがたくさんのお客さんで賑わい、「昔、春駒によく来た」という往年のお客さんも複数お見えになり、懐かしがっておられました。おかげでバザーとカンパで400万円ほど集まりました。そのうち200万円を調理場の改修や配達の車、お弁当箱などに使い、残りの200万円は1年間の運転資金としました。

2004年4月には地域の方々をお招きして宣伝を兼ねて試食会を2回開催し、同年5月11日に宅配事業を開始しました。当日は社会福祉協議会の会長、町内会長、民生委員の方々など地域の方々にもお越し願い、スタッフとともにお祝いし、10時に配達の車が初めてのお弁当50個を積んで皆さんの拍手とともに出発しました。

現在は1食600円で、月曜から金曜まで毎日60食ほど配達しています。最近は若い人からも健康食として、また食材の安心・安全なお弁当として注文が入るようになりました。また、市の高齢者福祉サービスの一環である食事サービスの事業者として登録し、注文をいただいています。

とてもステキな仲間たち

会の活動の趣旨のひとつとして、これまでの会社にフルタイムで勤めるという形態から、NPOに勤めるという“地域の力を地域に活かす新しい働き方”を提案したいと考えています。「定年になったけど、まだ健康や時間に余裕があり、社会に貢献したい」。また「子どもが学校に行っている時間を地域に役立てたい」と考えている人たちの力を活かす場になりたいと考えています。

同時に、社会的な援護や障害をもつ人の雇用の場として役立ちたいと考えています。

以前、市の社会福祉課から、会社勤めの途中で引きこもりになり、生活保護を受けているTさんという30歳代の男性の紹介がありました。静かな方でしたが、1年を過ぎた頃から就職先を探されるようになりました。その後新しい会社に就職が決まり、私たちのところで仕事をする中で少しずつ自信を取り戻すことができたのかなとうれしく思っています。

また、児童養護施設から定時制高校へ通学している男子生徒を2年間お預かりしました。彼はひょろりと背が高く、緘黙(かんもく)の子で、初めは一言も口を利かず、何事も嫌そうにダラダラと動いていました。彼には、配達の車の助手席に乗ってもらい、配達の補助をしてもらいましたが、よく気がつき飲み込みも早く、照れ隠しに悪びれた態度を見せていました。その後少しずつ挨拶をするようになり、自分から話しかけるようにもなり、ついに帰り際に「お先です」と言って帰ったときは、思わずみんなで「ウン?」と顔を見合わせて、一息あって大笑いしてしまいました。彼は今春無事高校を卒業し、現在福祉工場で頑張っています。

彼の相棒はOさんという60歳代の女性でしたが、彼の成長は彼女に負うところが大です。一緒に配達の仕事をする中で心を通い合わせ、徐々に彼が心を開き、憎まれ口をたたきながらも率先して彼女を助けるようになりました。彼女も「H君が来ると思うと少々体の調子が悪くても行かなくてはと思う」ということで、一人暮らしの彼女にとっても彼の存在は生きる張り合いになっていたのではないかと思います。

女将さんも「毎日食事の心配をしなくていいし、毎日賑やかでありがとう」と言ってくださっています。

お弁当もまだ少し余裕があります。もう少し数を増やして、少しでも多くの地域の方の生きがいとしての雇用の場になれるよう頑張りたいと思います。

(おおくぼけいこ NPO法人ケアサポート・春駒理事)

お弁当チラシ
図 お弁当チラシ拡大図・テキスト