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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年1月号

盲ろう者と選挙

門川紳一郎

はじめに

国政をはじめとする国民の生活をよくすることを託されている政治家を選ぶ選挙。20歳以上の全国民に選挙権が与えられており、すべての国民(海外に滞在中の日本国民を含め)に選挙に行って投票する権利がある。当然国民の中には障害者も含まれており、視聴覚二重障害者(以下、盲ろう者)も例外ではない。本稿では、盲ろう者と選挙に的を絞って、盲ろう者が選挙を行う際の問題点等を含め、ご紹介したい。

盲ろう者について

盲ろう者の主なコミュニケーション方法として、触手話(手話を盲ろう者が手で触れて読み取る)、触指文字(指文字を盲ろう者が手で触れて読み取る)、手書き文字(盲ろう者の手のひらなどに文字を書いて伝える)、指点字(盲ろう者の指に点字を打って伝える)などがある。これらは数多くある盲ろう者独自のコミュニケーション方法のごく一部にすぎないが、触覚などを中心として情報にアクセスするという点が重要だ。

厚生労働省の障害者実態調査によると、このような盲ろう者は全国に約1万3千人から2万人程度いると推計されている。社会福祉法人全国盲ろう者協会が把握している全国の盲ろう者数は約800人に過ぎない(平成20年現在)。人口比に占める割合が非常に小さい盲ろう者であるが、世界に目を向けると、2001年に世界盲ろう者連盟が発足し、世界各地で自らの生活権や自由権の保障を求めて活動している。

盲ろう者と選挙について

視覚障害者や聴覚障害者は選挙権の保障を求めて早くから運動を続けてきた。その結果、視覚障害者に関しては点字による選挙公報の発行と配布、点字による投票の実現などを、また聴覚障害者に関しては、投票所への手話通訳の設置などを勝ち取ってきている。

しかし、残念ながら盲ろう者と選挙に関する情報はほとんどないに等しい。それは、盲ろう者による選挙権保障運動がこれまでになされていないことにもよる。盲ろう者は自力で情報にアクセスすることができない。このことは、盲ろう者が選挙に関する情報にアクセスすることができないことにもつながる。その結果、選挙というものが盲ろう者には無関係なものになってしまう。多くは家族など身近な近親者から選挙に関する情報を伝えられ、投票所へ足を運ぶということになるのだろう。

筆者が理事長を務める、NPO法人視聴覚二重障害者福祉センターすまいるという盲ろう者の就労・活動拠点がある。ここに通う11人の盲ろう者に選挙についてのアンケートを行った。

1.あなたは選挙に行きますか? 2.「選挙に行く」と答えた場合、投票の判断に必要な材料をどのようにして入手しますか? 3.選挙で困ったことは?の質問で、1の選挙に行くと即答した人は何とたった1人であった。ほとんどの盲ろう者が、「選挙?難しくてよく分からない」「情報がないので行かない」「興味がない」と答えていた。

バリアフリー選挙とは?

候補者のプロフィールや政党マニフェストといった情報は家族に教えてもらうことが多いようだ。選挙公報に関しては、点字や拡大文字による広報紙が発行されている。そして、点字板の選挙公報は以前に比べて充実してきているという。また、投票所に行って、投票用紙に記入する際、点字による候補者名簿と点字版を用意してくれる。これは大変ありがたいことだ。

しかし、実は問題点が多く、以下それを整理してみたい。

1.選挙公報について―選挙というのは決まった日に実施されるものではない。国政や地方の政治状況、また任期満了による次期役員の選挙など、突然実施される場合もある。世の中の情勢は刻々と変化し、変わりゆく状況を盲ろう者はつかむことができない。ほとんどの情報がテレビによる情報であって、テレビを見たり聞いたりすることのできない盲ろう者は情報から取り残されていく。盲ろう者が唯一頼りにしている点字や拡大文字による広報紙からだけでは、いくら内容が充実してきたとはいえ、候補者の簡単な経歴くらいしかわからない。

2.投票について―アンケートでは点字版より点字タイプライターを用意してほしいという意見がある。パソコンの普及もあり、今後の課題である。最近「電子投票」システムが導入されるようになってきているが、このシステムには盲ろう者のニーズが反映されていないため、電子投票の有効性についてははなはだ疑問である。また、投票所内の移動についても、同伴しているガイドヘルパーとともに移動することが認められない投票所もあるようだ。

おわりに―課題

この原稿を書くにあたり、盲ろう者と選挙について調べたところ情報が全くないことに愕然とした。半ば予想はしていたのだが、これほどまでに盲ろう者が選挙とは縁がないとは意外でもある。盲ろう当事者たちは、盲ろう者が選挙に参加できるよう国へ働きかけていかなければならない。そして、次の2点を要望したい。

要望1 地上デジタル放送に関する要望―盲ろう者が自力でテレビの視聴覚情報が得られるよう、字幕を見やすくしたり、インターネット等を通じてテレビ放送を点字で視聴できるようにする等の措置や財政的支援を講じてください。

要望2 政見放送等、放送のアクセシビリティに関する要望―テレビをはじめとする各種マスコミへのアクセスが可能になるようハード・ソフトの両面においてアクセシビリティを実現してください。選挙に参加できるように情報保障に努めてください。印刷物による情報提供の充実に加え、デジタル放送など放送へのアクセスについても、バリアフリーをぜひ実現してください。

(かどかわしんいちろう 社会福祉法人全国盲ろう者協会評議員)