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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年1月号

1000字提言

aさんにも読める図書資料を
―公共図書館に「やさしく読める本」の棚を

石井みどり

「お話出てこい」

aさんとは、小学部1年生からのお付き合いです。弱視と知的障害のあるお子さんで、お話が大好きです。けれど当初、お話テープは決して聞いてはくれませんでした。ある日「出ーてこい 出てこい 出てこい お話 出てこい お話出てこい どんどこどんどこ……」と歌ってから お話テープを再生しましたら、飛びついてくれたのです。「ひょっとして」と思い、テープの初めに「出てこい……」を入れてみました。すると、aさんは、図書館だけでなく、家でもテープを聞いてくれるようになりました。

今、aさんは高等部3年生です。「出てこい」を卒業してからも「aさん こんにちは。○○のおばちゃんです。今日のお話は○○ですよ。このお話しはね……」がないと、物語に入っていけない時期もありました。おそらく、これからお話を聞くという心の準備が必要で、さらに 頭の中で概要をつかんでからでないと、新しい物語を受け入れることができないのでしょう。実は、「お話」の中身は、「宇宙」でも「歴史」でも構わないので、aさんにはこの形の録音図書が有効に使われるようになりました。今春、aさんは卒業します。十分な情報が提供されていないと、興味関心は広がりません。読みたい本が何かも自分では言えません。何とか「aさん こんにちは」は要らなくなりましたが、今後、aさんの読書をどのように支援したらよいか、大きな課題です。

「小学生用だからダメ」

高等部の生徒たちが、北海道へ修学旅行へ行った時のことです。一人ひとりが何を調べるかを決めに図書館へやってきました。修学旅行用の北海道の本は何冊かあります。観光案内書もあります。けれど、学年相当の教科学習が困難な生徒たちも一緒でした。彼らが読めるように「分かりやすく読みやすく書かれた本」はありません。仕方なしに、児童書の棚から数冊抜き出して、地理・歴史等の書架に差し込んでおきました。ところが、本の表題の「小学生の」という文字を見付けて「これは小学生用だからダメ」と言われてしまいました。

公共図書館に「やさしく読める本」の棚を

多くの図書館に「大きな文字」の棚が見受けられるようになりました。同じように「やさしく書かれた本」の棚もほしいものです。もし図書館が積極的に購入したら、著者も出版社も増えるのではないでしょうか。毎年、卒業生を送るたびに、本(書籍であれ、録音物であれ、映像であれ)が身近にある、そして、読みやすく分かりやすい本が提供される、そのような生活環境が保障されたらと、願っています。

(いしいみどり 横浜市立盲特別支援学校図書館)