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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年1月号

列島縦断ネットワーキング【新潟】

地域の人たちとともに働き、生活する拠点づくり

坂井省英

地域生活支援センターふらっと

ふらっとは、平成16年10月、社会福祉法人新潟しなの福祉会が精神障害者通所授産施設あどばんすとともに設立した、比較的新しい施設です。

新潟市が政令指定都市に移行する前の、旧新潟市で初めての精神障害者地域生活支援センターとしてオープンしました。

市内唯一の施設でしたから、各方面から高い関心と厳しい目が向けられていました。というのも支援センターの中で、1日の利用者負担100円(年会費を頂くところは多い)を頂く数少ない施設として立ち上がったからです。経済的にも厳しい人たちに負担を強いるとは、といったお叱りも頂戴しました。

有料サービスにしたのは、受益者負担(だれでも公平な負担)の流れにのったということではなく、支援センターの在り方について疑問に思っており、自分たちのサービスが漫然となされていた反省からです。有料にすることで、利用者のニーズをしっかりと受け止め、サービスを提供し、サービスの対価として利用料を頂く。利用者ニーズに真摯に向かう姿勢を反映させたかったからなのですが、各方面から不満が噴出し、開設当初の利用状況は鈍いものでした。しかし少ない中でも、利用者の話をじっくり聞くことができ、いろいろなサービスを考え、提供できたのも事実です。

具体的に行っている支援内容は、相談、憩いの場の提供、軽作業等です。ふらっとはだれもがいつ来ても、いつ帰ってもいい場所となっています。プログラムはありません。利用者同士で音楽やゲームをしたり、パソコンを教えてもらったり、自分なりに過ごしています。利用する人には「必要なサービスを一緒に考えましょう」と声をかけています。

平成18年10月より、地域活動支援センター、相談支援事業、指定相談支援事業、新潟圏域障害者生活支援センターに事業が分かれました。しかしこれまでと変わりませんし、今でもプログラムはありません。利用者それぞれの使い方でふらっとは毎日にぎやかです。

ふらっとの相談支援

相談は電話相談、面接相談、訪問相談があります。

電話相談は1日20件ほどの相談があります。毎日決まった時間にほんの少し話をしてから昼食の準備をする人や、日常の生活の報告を日課としている人など、福祉サービスや制度の案内だけでなく話し相手として電話をかけてくる人などさまざまです。

面接相談では、ご家族・ご本人の相談が多く、仕事のことや病気のこと、家族との関係、恋愛についてなどです。ご本人よりもご家族からの相談が多いかもしれません。

訪問相談では2週間に一度もしくは1か月に一度の割合で、ご自宅を訪問しています。人込みが苦手だけどいつか出かけてみたい、衣替えの時期だけ手伝ってほしいなど希望される理由はさまざまです。先日は訪問を続けた結果、ご本人がふらっとの憩いの場に来所されるようになったうれしい出来事がありました。外部の訪問者の刺激はとても大切なことだと実感しました。

地域活動支援センターとして

憩いの場では、常に卓球台が設置してあります。ふらっとを利用するようになって卓球を始めたという人や、マイラケット持参の方も多くなりました。卓球だけが目的で来ている人もいます。ドアの向こうから、卓球の音が聞こえ白熱した戦いが繰り広げられています。

平日にはパッチワークをしています。参加者は男女年齢を問わず、ご本人やご家族の方も一緒に参加しています。男性も針と糸を上手に使い、ピンクッションやコースターを作っています。

あどばんすの喫茶で販売していた鍋敷をみて、聴覚障害の方が作りたいと友達4人で参加していました。ふらっとのスタッフは手話はできませんでしたが、身振りと筆談でお互いに話をしました。

そうそう、憩いの場では、自分からはほとんどしゃべらず、2時間ほど過ごされる方がおられます。何をするでもなく、退屈なのかと思い声を掛けるのですが会話は続きません。面白くないのかなと思っていたら、ある日、お母さんから彼が家でふらっとの様子をうれしそうに話していますとお電話をいただきました。ふらっとの使い方っていろいろだなと思うエピソードです。

地域の人だれもが利用できる憩いの場「ふらっと」

ある日、近所の小学生が「パソコンできるって聞いたのですが」と訪ねてきました。その日は卓球をしたり、パソコンをしたり、ゲームをしたりして帰っていきました。夏休み中だったので、学校が始まったら来ないのかなと思っていたら、その後も学校が休みの日や早く終わった時に利用しています。2、3人の小学生から今や何人もの小・中・高校生が利用するようになり「こんにちは」「帰ります」などの声が飛びかっています。あいさつは当たり前かもしれませんが、ふらっとのスタッフだけでなく、利用者に対しても同じです。時には利用者と一緒に卓球をしたり、カードゲームを楽しんでいます。障害のある方はもちろん、お年寄りも小・中学生(半額ですが有料です)も一緒に交流しています。

毎年8月には同法人の夏祭り、ふらっと独自では地域交流を目的としたパン教室、年末にはクリスマス会等を行っています。行事を通じて、さまざまな人にふらっとを知っていただき、名前の通り「ふら~っと」ご近所の子どもやお年寄りの方に利用してもらえるようになりました。毎日が地域交流といった感じになっています。

平成11年より「精神障害者通所作業所」として親しまれてきた“あどばんす”が、平成16年10月に新潟市内では初の「精神障害者通所授産施設」として生まれ変わり、そして昨年10月に「指定障害福祉サービス事業所(就労移行支援事業・就労継続支援事業B型)」へと移行しました。作業所の頃から利用しているメンバーにとっては、戸惑いや不安の多い10年が経過しました。

“あどばんす”が、通所作業所の頃から生産活動(作業)として行ってきたものに「焼き菓子(クッキー・ケーキ)」の製造・販売があります。上質な材料を使用し丁寧に焼き上げた製品は、皆様からの「おいしいね」の言葉を張り合いに、今も作業の一つとして守られ行われています。

作業所から授産施設になる際、「焼き菓子を販売するお店が持てるといいね」というメンバーの声(夢)が実現し、喫茶店“あどばんす”を構えることができ、喫茶店での調理・接客・販売も作業に加わりました。木材をふんだんに使った店内では、月1回の音楽会(ボランティアの方が企画運営)やギャラリーとしての活用で、地域の方との交流も深まってきています。

また、昨年度から、就労支援事業の一つとして、職場実習や施設外就労に向けた取り組みも行い、10人の方が就労に結びついています。

これからも、生産活動や就労支援、地域の方々との交流を通し、地域の人たちとともに働き、生活していくことを目指していきたいと思っています。

(さかいしょうえい 地域生活支援センターふらっと所長)