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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年2月号

障害者基本法の改正を目指して

森祐司

1 はじめに

「障害者基本法」は、障害者に関する基本理念と各種施策を規定しているものであり、障害者の権利保障・権利擁護と差別の定義については触れられていない。この5年間、障害者自立支援法をはじめとする障害者関連法制の制定・改正等が図られ、障害者に対する一般市民の理解も深まってきている。

また、国連においては「障害者権利条約」が採択・発効され、その基本理念は、1.障害者の権利の保障、2.差別の禁止等を通じ共生社会の実現にある。このことを踏まえた時、障害者基本法の単なる改正にとどまることなく、「障害者権利条約」の基本理念を体現するために、「障害者基本法」を「障害者の権利保障・差別禁止に関する法律」(仮称)として、新たに作るような抜本的な改正を図るべきである。この考えを基にして、現行の「障害者基本法」が整備されることを提案したい。

2 障害者基本法の総則の見直し

1 既存の条項の見直し

(1)第一章 総則

第一条(目的)から第十一条までを見直しを視野に入れて検討する。

2 新たに条項を設ける主な事項

(1)障害の定義の明確化

障害の概念は「社会モデル」として捉え直し、障害を固定的な概念として捉えることなく、環境との相互関係的概念として再考する。

(2)「障害」という用語の変更

「障がい」と変更するという考えもあるが、「障害」を「障碍」と変更することが適切であると考える。当用漢字の中に「碍」の文字を取り入れることは、人名標記に関しては使用制限付きで新しい漢字使用を認めることは可能であり、「碍」の漢字も同様な措置を検討することが必要である。

(3)差別の禁止

「障害者基本法」第三条においても、基本理念として差別の禁止があげられているが、「障害者権利条約」における差別の条項との整合性のある定義として見直すとともに、差別禁止の実効性を確保する。

(4)合理的配慮の明示化

「障害者権利条約」との関連で新しい概念として導入される合理的配慮に関しては、障害者の多様な社会参加(雇用、教育、道路及び建築物等の手段)を実現し、一般市民と共生する社会を作り上げるために、合理的配慮を条項とする必要がある。

(5)地域生活における自立生活の権利

障害者個々の自己選択、自己決定なく、施設や病院等での生活を余儀なくされている多くの障害者がいることの現状を解決する対処策として、地域において障害者を支援し、日常生活を可能にする物的資源の整備と障害者相談員の活用により、強制と隔離の生活を余儀なくされている障害者に、一般市民との共生の場を確保することは可能となる。その上で地域社会の中で生活することを、障害者本人の選択・決定する権利を保障する必要がある。

(6)手話の公的言語としての承認及びコミュニケーションの保障

「障害者権利条約」では、手話は言語として定義されている。わが国の法制においても、教育の場をはじめとして、コミュニケーションの公式な手段として認知する必要がある。さらに、音声によるコミュニケーションに障害をもつ人たちのために、手話、指文字、点字、指点字、要約筆記等の非音声言語といったニーズに対応した手段の使用を権利として認める必要がある。

(7)権利侵害に対する法的救済規定の制定と紛争等救済機関の設置

権利侵害等に対しては、訴訟等法的手段による解決よりも、共生社会の一市民として社会生活を営んでいくためには、良き近隣関係の保持を視野に入れた解決策をとることが望ましい。そのためには、修復的解決法がふさわしいと考える。紛争救済機関として、障害者をその一員とし、一般市民及び関係各界の専門家等の参加した組織の設置の検討が必要である。

(8)政治的及び公的活動への参加

選挙権等公民権を行使する際に、障害者の意志表明の手段について法的な支援策を講じる。

(9)国内での実施・監視

障害者権利条約の実施状況や監視する仕組みを整えることが望まれるが、その仕組みを設置する上で、政府から独立した機関とすることが適当と考える。

3 障害者基本法の各条項の見直し

1 既存の主な条項の見直し

(1)第二章第十二条から第二十二条までの各条項の改正等

  1. 医療・介護等(第十二条)
  2. 年金等(第十三条)
  3. 教育(第十四条)
  4. 労働(職業相談)(第十五条)、(雇用の促進等)(第十六条)
  5. 不動産(住宅の確保)(第十七条)
  6. 公共施設のバリアフリー化(第十八条)
  7. 情報の利用におけるバリアフリー化(第十九条)
  8. 相談など(第二十条)
  9. 経済的負担の軽減(第二十一条)
  10. 文化的諸条件の整備等(第二十二条)

(2)第三章「障害の予防に関する基本施策」の表題について

「障害の予防に関する基本施策」とした表現の妥当性を検討する。

4 おわりに

以上により、障害者の権利保障・差別禁止の観点から「障害者基本法」を見直すことにより、裁判規範性を持った法律としたい。そして、新しい「障害者基本法」の下で、障害者各種関連法の見直しを行い、一日も早い「障害者権利条約」の批准を願うものである。

(もりゆうじ 社会福祉法人日本身体障害者団体連合会常務理事・事務局長)