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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年2月号

障害者基本法は時代の流れに沿った改正を

妻屋明

権利条約批准と基本法改正

平成16年に改正された障害者基本法の附則の検討規定により、再び改正される5年目を迎えたが、障害者を取り巻く社会環境は、この5年間で大きく変わった。

第一は、昨年の5月に国連の障害者権利条約が正式に発効し、わが国もいよいよこの条約を批准する時期が迫っていることだ。

障害者に対する差別を禁止し、他のものと同等な権利を保障する国連の障害者権利条約は、その締約国に対して、障害者の権利を実現させるために必要な立法、行政措置をとることや、建物や交通機関へのアクセス等あらゆる面で差別が生じないように義務付けられている。まさに、私たちが長い間、求めていた施策である。

当団体も加盟しているJDF(日本障害フォーラム)は、現在、条約批准に向けて鋭意活動が行われているが、条約を批准するには第一に障害者基本法をはじめ、わが国の既存の法制度や施策をこの国際条約に沿って、障害者の権利を基本としたものに改正することが必要であるとしている。

特に、障害に基づく差別および合理的配慮については、重要な概念として、障害者基本法の中に明確に定義づけるべきであると提言している。

これは、すべての障害者の総意であり、すっかり色あせてしまった「完全参加と平等」という標語を、日常生活の中で実感できる社会になることを切実に求めているのである。

第二は、障害のある人に対する理解を広げ、差別をなくすための施策を総合的に推進するなどの目的で、平成19年に千葉県が、「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」、いわゆる差別禁止条例が全国に先駆けて施行されたことも、全国の障害者の意識に大きな影響をもたらしたことだ。

第三は、国の障害者施策として平成17年には、従来の交通バリアフリー法とハートビル法とが統合され、新バリアフリー法が制定され一定の目標が示されたほか、障害者自立支援法が施行され、サービス利用者に定率負担がかかるようになった。今のところ軽減措置が採られているが、大きな不満が残った。

また、特別支援学校を制度化した学校教育法の改正や教育基本法も改正され、障害者雇用促進法に至っては、この5年間で2度も改正された。

このように障害者の自立や社会参加のためのさまざまな施策が着実に推進されてきたが、障害者にとってはいずれも不満が残り、必ずしも福祉が「良くなった」という実感がないのが実情である。

昨年、内閣府が行った障害福祉サービスについてのアンケート調査結果で、費用負担やサービス量とサービス内容が不満の理由に挙げられていることでも明らかである。

不満は差別感にあり

障害者が地域で安心して暮らすことができることを目的に施策が進められてきたことは確かであるにもかかわらず、「社会のさまざまな仕組みが、他と比べて障害者だけがなぜ我慢を強いられるのか」「なぜ障害者は他と比べて普通に暮らすことができないのか」という差別感を持っているということが、もう一つの大きな不満の理由である。

「差別とは一体何か」ということで千葉県が県民に対して募集した結果、たちまち800人もの人から応募があり「障害のある人に対する差別事例」が浮き彫りにされた。この事実でも分かるように、千葉県のみならず日本全国どこででも日常的に無意識の中で直接差別や間接差別が行われているのである。

堂本暁子千葉県知事は、「障害者を差別している国は先進国とは言わない」と言っている。

障害者基本法の改正に当たっては、このような時代の流れや障害者が持ち続けている差別感が払拭できないようであれば、改正する意義が問われる。

特に、基本理念にある「何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない。」については、差別の定義を明確に規定することが必要であり、合理的配慮の否定は差別であるということも明記しなければならないことはいうまでもない。

また、交通機関、雇用、教育、サービス、情報や施設利用などについても、どこまで合理的配慮を行わなければならないかを明確にする必要もある。

差別被害者のための救済機関が必要

憲法第14条では、法の下の平等を保障し、差別を禁じている。しかし、実際に差別された場合や権利利益が侵害された場合、現在では裁判所に訴えるしか方法はない。障害者にとってこれは大変な負担であり、泣き寝入りの原因になってしまう。

私たちは、障害者差別禁止法の制定を強く求めているが、その前にまず、具体的に差別を救済することが先決である。

今回の改正で、何が差別に当たるのかが明確になれば、差別被害を簡易に、そして迅速に救済できる裁判所以外の独立した救済機関の設置が求められる。

障害者が自立して社会参加を果たし、さまざまな能力を発揮していくためには、安心して暮らせる社会環境がどうしても必要である。そのためには、国民全体で障害者の理解や意識を高めて行くことも忘れてはならない。

(つまやあきら 社団法人全国脊髄損傷者連合会理事長)