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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年2月号

障害者基本法の改正と今後に望むこと
―精神障害者から見て不可欠なこと

関口明彦

権利主体としての障害者

障害者である前に、まず人間であることを認めること。障害者基本法の施行後5年を目途とした「障害者に関する施策の在り方についての検討」に当たっては、まず、障害者を、恩恵や医療、社会的保護の客体から権利の主体へというパラダイムシフトを踏まえて、障害者基本法および障害者施策の抜本的見直しを行うことが必要である。この際にあらゆる精神医療保健福祉にわたる精神障害者に対する施策について当事者団体の関与がなければ、障害者の権利に関する条約の根幹にある「私たち抜きに、私たちのことを決めないで」という精神に反することとなる。単にピアというだけではなく、ピアこそが施策策定・実行の中心となるように、予算措置をも担保する根拠条文を望みたい。

人権条約の遵守

発効している、人権条約の規範は、世界の人権規範としてWHOの方針をも拘束するはずである。いかなる専門家が議論しようと、精神障害者団体が関与し、精神障害者団体が納得のいく方針でなければならない。それは、障害者の権利に関する条約の策定に深く寄与した、世界の精神障害者団体の方針に沿ったものであるべきだ。日本政府は障害者基本法の見直しに当たり、すでに批准した、また批准を前提としている人権条約の規範と精神を遵守(じゅんしゅ)すべきである。

強制医療・強制入院の廃絶

精神障害者は日本国内のみならず世界中あらゆるところで、人としての基本的人権を否定され、社会から排除され隔離拘禁され続けてきた。障害者は人として認められず、他の人と同様の自由と人権を認められてこなかったが、さらに精神障害者は人としての自由と尊厳を国権、法制度により、差別的に奪われ続けてきた。しかし、障害者の権利に関する条約は強制の廃絶を明確に位置づけた。これらのことは日本がすでに批准している、国際人権規約および拷問等禁止条約から来る当然の帰結でもある。今後の障害者の権利に関する条約の批准を踏まえると、精神保健福祉法・医療観察法の改廃が必要不可欠となる。障害者基本法にはそのための担保条文が必要と考える。

時限立法としての地域移行

精神科病棟の社会的入院患者をはじめとする隔離収容状態にある障害者が数十万人といる。任意入院での閉鎖処遇が半分を超えるなどは論外である。こうした状況を改善し、他の者との平等を基礎とした地域生活への移行措置のために、介護保障や住居提供および斡旋(とりわけ公的保証人制度は不可欠)、または生活保障・保護等の所得保障制度の充実を図り、早期に病床の削減を進めて、目途として病床を半分から少なくとも3分の2にすることを担保してほしい。年限と目標を決めて、精神障害者の置かれている状況の改善を担保していただきたい。さらにその際、隔離状態からの開放が、そのまま精神障害者の放置となることを避けなければならない。現在の精神障害者の入院状況・地域状況では、障害者の権利に関する条約の批准そのものが成立しないと考える。

障害者総合福祉法制定と障害者差別禁止法の制定

障害者総合福祉法を制定し、権利としての地域生活の確立を保障し、本人の意志に基づく自立生活を実現できるようにすることが望まれる。条約に基づき、障害者差別禁止法を制定するとするならば、精神障害者の置かれた極度の差別と一般社会との隔絶を勘案して、精神障害者に対する差別については全国民を縛る規範性のあるものを求めたい。即時の行政救済と、たとえば相続に際しての適切な相続手続きへの合理的配慮(現行、相続税の減額はあるが、ほとんどの精神障害者は遺産そのものを放棄させられている)等のきめ細かい施策が求められる。

障害者団体の参加

特定の選ばれた障害者参加ではなく障害者団体の参加とし、より多くの声を集約した『障害者としての意見』こそが、必要とされている。中央障害者施策推進協議会および地方障害者施策推進協議会の構成員として、障害者団体の明確な位置づけが必要である。また、障害者基本計画には、障害者団体の参加を必須とする必要がある。これは、障害者の権利に関する条約に明文で記されている事項である。さらに、障害者の権利に関する条約の批准を前提とするならば、事務局機能の飛躍的拡充と障害者の人権施策調整機関としての強力な権限を担保する必要があると考える。

成年後見制度の削除(第20条)

障害者基本法第20条では、成年後見制度も利益権利保護に必要な制度とされている。しかし、条約ではすべての者に法的能力を認めることとなっている。今後、条約が批准されることを踏まえて、成年後見制度の部分を削除する方針で進めていく必要がある。後見人による決定から、支援された自己決定へのパラダイムシフトを踏まえ、本人の権利主張を支える法制度(パーソナルアシスタンスやパーソナルオンブズマン等)を求める。そのための、当事者も含むアドボケーター養成(キャパシティー・ビルディング)のための根拠条文が必要と考える。

障害者週間について

障害者基本法第7条3項には、障害者週間が位置づけられ「国及び地方公共団体は、障害者週間の趣旨にふさわしい事業を実施するよう努めなければならない」と規定されているが、これに対しては障害者団体によるものや、障害者団体の参加が必須のものと考える。

(せきぐちあきひこ 全国「精神病」者集団)