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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年2月号

盲ろう者の立場で、障害者基本法の改正と今後に望むこと

庵悟

盲ろう者は、視覚と聴覚の両方に障害を併せもち、独自のニーズを持っている。しかし、わが国では、盲ろうという障害が社会的にも法的にも独自の障害として位置づけられていない。

教育の分野でも、盲ろうが独自の障害として位置づけられず、重複障害として扱われているため、盲ろう児教育の独自のカリキュラムの設定や専門性を持った教員の養成と配置が困難である。

国連の障害者の権利条約第24条3項のCにおいて、原文の「deafblind」の日本政府仮訳が「視覚障害と聴覚障害の重複障害のある者」とされている。

重複障害のある者と訳されると、視覚障害と肢体不自由とか、聴覚障害と知的障害、といった具合に誤解される恐れがある。

「deafblind」は、ひとつの単語であり、国際的にも独自の障害として認知されてきている。だから、「盲ろう者」と訳してほしい。

1991年に社会福祉法人全国盲ろう者協会が設立され、盲ろう者向けの通訳・介助者の派遣事業が全国的規模で展開された。これをきっかけに、2000年度から、県単位で派遣事業が実施されるようになり、2009年度からすべての都道府県で実施されるように努力をしているところである。

こうした中で、「盲ろう者」という言葉が厚生労働省や自治体の文書で使われるようになり、マスメディアでも取り上げられるようになり、社会に定着してきている。

日本の盲ろう者は、「視覚障害者」と「聴覚障害者」の福祉の狭間に置かれてきた。盲ろう者にとっては、聞こえる視覚障害者向けのガイドヘルパー派遣では、通訳をしてもらえない。見える聴覚障害者向けの手話通訳者派遣では、移動介助をしてもらえない。

また、身体障害者福祉法に基づく別表には、盲ろうが入っていないため、視覚障害、聴覚障害のいずれかか両方の等級に該当しないと福祉制度を利用できない仕組みになっている。

盲ろう者は、全く見えない全く聞こえない全盲ろうから、少し見える少し聞こえない弱視難聴まで、障害の程度はさまざまである。その中で共通することとして、自分の身の回りの情報やマスメディアの情報を得たり、人と会話をしたり、一人で移動するということに大きな制約を受けている。盲ろう者の自立と社会参加のために、これらの3つの制約を解消し、情報摂取・コミュニケーション・移動を総合的にサポートする通訳・介助者の存在が欠かせない。とはいえ、盲ろう者が24時間ずっと通訳・介助者のサポートを受けることは不可能である。

最近、銀行等のATMや駅の切符の券売機では、タッチパネルが増えていて、盲ろう者が一人では使えないため不便になってきた。ボタン式に切り替えるか、点字で操作できるようにしてほしい。また、目覚まし時計、携帯電話、体重計、体温計等、日常生活に欠かせない機器や道具が盲ろう者には使えないものが多い。

盲ろう者が自分の力で、情報を得て、判断し、行動できるようにするためには、質量とも通訳・介助者の派遣事業が充実することと同時に、社会の盲ろう者に対する理解と協力、日常生活において道具や設備が当たり前に使えるための環境づくりが必要である。

障害者権利条約の前文で、障害者について、態度や環境との相互作用から制約を受けるすべての障害者が含まれる、とうたっていることを踏まえて、障害者基本法第2条の「障害の定義」においても、「身体障害、知的障害又は精神障害」を列挙するのではなく、態度や環境との相互作用から制約を受けた状態を障害としてとらえた条文に改めるべきである。

「盲ろう者向け通訳・介助員派遣事業」は、障害者自立支援法において、都道府県の地域生活支援事業として位置づけられている。しかし、派遣を利用できる時間、通訳・介助者の謝金単価、コーディネーター等の人件費の地域格差がきわめて大きい。

憲法第25条の生存権保障に基づき、第4条の国や地方公共団体の責務では、すべての障害者があらゆる分野で一般の市民と同等の権利を保障するべきであり、どこに住んでいても人間らしく生活できるという、財政的なセーフティーネットを保障すべきことをはっきりと明記してほしい。

盲ろう者が日本で生き生きと働ける機会はきわめて少ない。盲ろう者が働くためには、その前提として職業訓練の場が必要だが、通訳等の受け入れ体制がないという理由で断られるケースが多い。雇用の促進等を定めている第16条では、国や地方公共団体の責務として、職業訓練の場で通訳や移動介助を保障することを明記してほしい。

また、能力があっても自力で通えることが条件となっている職場が多い。特に市町村や都道府県の公務員採用の際に、自力通勤可能なことを条件としているところがほとんどである。「盲ろう者向け通訳・介助員派遣事業」は、経済的活動や継続的なものは利用できないことが多い。

したがって、盲ろう者が他の人と同等に働けるためには、労働関係法や障害者自立支援法等に基づく縦割り行政的なやり方では対応できない。

さらに、盲ろう者が雇用されたとしても、職場内外の人とのコミュニケーションや仕事に必要な情報を取得するため通訳・介助のサポートが十分保障されていないところが多い。施設設備面だけでなく、人的なサポートとその財政的な支援を保障することを明記してほしい。

盲ろう者は社会生活を送る上で、さまざまな分野で大きな制約があり、差別を受けている。日本の縦割り行政の弊害をなくし、障害者基本法が盲ろう者一人ひとりが受けている制約に対してあらゆる分野を網羅して対応できるよう、実効力のあるものにしてほしい。

(いおりさとる 社会福祉法人全国盲ろう者協会職員)