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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年2月号

ブックガイド

当事者本で発達障害を「体感」する

綾屋紗月・熊谷晋一郎

今回はアスペルガー症候群当事者である綾屋の視点で、オススメの発達障害当事者本をいくつかご紹介したいと思います。

◆当事者ならではの語り

他の発達障害当事者同様、綾屋自身も「他者とつながっている感じがしない自分は一体何者なんだろう」という問いを物心ついた時から抱き、苦しみ続けていました。答えを探すために心理学や精神医学の専門書もだいぶ読みました。その中には「自閉症」についての記載が必ずありましたが、それを読んでも「自分とかなり近い気もするが、ぴったりとはこれにあてはまらないから違うな」としか思えませんでした。

やがて1990年代半ば頃から発達障害当事者が書いた本が登場し始め、その中で出会ったのが『僕の妻はエイリアン「高機能自閉症」との不思議な結婚生活』(泉流星/新潮社/1470円)でした。「高機能の女性自閉症者が『主婦』という立場になった時、家事において、パートナーとの関係において、どのようなあらわれが生じるか」という視点で見た時に興味深い著書です。当時専業主婦であった綾屋はこの本のおかげで、長年自分の感じてきた「人との違い」は思い込みではなく存在し、それには名前があり、しかも自分だけではないと知りました。

このように、専門家が外から見て行った分析と、当事者が内側から語る言説には開きがあると私たちは考えています。この本は昨年文庫本にもなりましたので、お手頃価格(460円)で購入できます。

その後しっくりきたのが『自閉症の才能開発―自閉症と天才をつなぐ環』(テンプル・グランディン/学習研究社/2625円)です。当事者本の流れの初期にあたる著書ですが、動物科学の大学教授をされている著者の安定感のある自分語りは、10年以上経った今もなお抜きんでているオススメの一冊です。著者の語る「視覚優位・草食動物の感覚への共感」は、綾屋の「聴覚優位・植物の世界への共感」との比較において大いに役立ちました。

また昨今、たくさんの発達障害に関する本が出版される中で、「より等身大の当事者の語りを当事者の仲間に向けて送りたい」という主旨で昨年編まれたのが『私たち、発達障害と生きてます―出会い、そして再生へ』(高森明ほか7名共著/ぶどう社/1785円)です。さまざまな発達障害をもつ8人の当事者語りを一度に読むことができる本で、当事者かどうかに限らず発達障害に関して初心者の方々全般にとって親切な、当事者語りの入門書になっています。本書の考察部分には、最近、中途診断者が「早期支援を受けられなかった否定的な存在」として、支援側に扱われ始めている一側面についての指摘もあり、当事者界隈で生まれている新たな課題についても知ることができます。

◆他者へとひらかれた語り

そしてもう一冊。同じく昨年、子どもが著した当事者本として注目を浴びたのが、『うわわ手帳と私のアスペルガー症候群』(高橋紗都・高橋尚美/クリエイツかもがわ/1890円)です。成人の発達障害当事者の場合、専門家の描く障害者像を取り込み、ついついそれになぞって自らを語ってしまいがちなのですが、本書は自らの感覚のみから言葉を立ち上げ、分析し、自書のイラスト付きで著した立派な当事者研究になっています。おそらく母親との対話の中から生まれたのであろうこの本は、「自分は多数派とは違う」と外界との間に線を引くのではなく、「他者(まずはお母さんかな?)に自分を知ってほしい」という素直にひらかれた気持ちにあふれており、好感度の高い著作となっています。

最後に、綾屋が熊谷と共著で執筆した『発達障害当事者研究―ゆっくりていねいにつながりたい』(綾屋紗月・熊谷晋一郎/医学書院/2100円)をご紹介します。

行き違いや孤独の痛みを理由づけようとする時、「自閉症=コミュニケーション障害」というレッテルは一見、確かに使い勝手のいい響きを持っています。かつての綾屋もそうでしたが、つながれない孤独を味わっている人にとって、自分の孤独を説明してくれるレッテルや、レッテルを共有する仲間にめぐり合うことは、生きながらえるために不可欠なものです。しかし行き違いや孤独は発達障害者同士の中でも起きるわけで、それを毎回「あなたと私は違う」という線引きでやり過ごしていこうとする限り、仲間の中にもどんどん細分化されたグループができていき、やがてまた孤独に戻ってしまいます。

拙著では異なる障害をもつ共著者同士の日常的なやり取りの中で、お互いを理解するためのことばや語りを探り当てていきました。「自閉症=コミュニケーション障害」という従来の見方を排して、これまで研究の少なかった当事者の内側からの感覚を中心に述べ、『意味や行動のまとめあげがゆっくり』な状態として、当事者発の自閉症論を展開しています。またその上で、多数派のみならず、脳性まひや聴覚障害といった他の障害者たちとのつながりも模索しています。

幸い、カナー型自閉症のお子様をお持ちのご家族や、他の障害をもった方々、自己意識に困難を抱える性的少数派の方々、各方面の専門家の方々などから、垣根を越えた共感をもって読まれています。ぜひご一読ください。

(あややさつき アスペルガー症候群当事者・執筆家、くまがやしんいちろう 脳性まひ当事者・小児科医)