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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年2月号

列島縦断ネットワーキング【大分】

諏訪の杜病院「地域福祉作業所 工房きらら」の取り組み

高田政幸・浅倉恵子・岩根美紀・武居光雄

高次脳機能障がいのある方とともに

近年、救急医療の進歩により、大勢の「いのち」が助かるようになりました。しかし、その一方で「高次脳機能障がい」を負い、日常生活に戻れても就学、就労が困難な状況の方も増加しています。現在、「工房きらら」のある、ここ大分県内でも毎年約800人以上の方が新しく「高次脳機能障がい」を負っているものと推計されています(実態調査より)。

諏訪の杜病院では、「高次脳機能障がい」に対しての詳細な評価を行い、個別性のあるリハビリテーションの提供や学習療法などを取り入れ、家庭や社会復帰に向けた支援を行ってきました。しかし、「高次脳機能障がい」は「見えない障がい」としてこれまで社会的に認知されず、福祉の谷間におかれ、悩む当事者やご家族の姿、日常生活には戻れても社会復帰が困難であることも経験しました。

「コロポックル」の出会いと訪問

「社会や企業がこの障がいを理解してくれれば、就労も十分可能なのに…」と悶々とした日々を送っていた時に、北海道にある脳外傷友の会「コロポックル」の存在を知りました。

早速訪ねた「コロポックル」は、交通事故などによる後遺症で悩むご家族が1999年2月に立ち上げた会で、皆さんの努力によりNPO法人を取得し、生活・就労支援を行っており、講演会や研修会はもちろん、「クラブハウス コロポックル」の運営や相談窓口の設置、人材育成といった「高次脳機能障がい」の方への継続したサポートを行っていました。そうしたご家族のご苦労や並々ならぬ努力、そして「個人」を超えた価値観を実際に拝見し、私たちにも何かできることがあるのではないかと深く考える機会を得ました。

工房きららの設立と作業内容

このような経験から、記憶障がいや情緒・行動障がいなどの後遺症に苦しむ当事者や、また解決しがたい問題を抱え込み混乱している当事者とそのご家族が孤立することなく、障がいのある者もない者も、共に支え合い生きていく「共生」をテーマに、自分の居場所づくりや就労、社会参加を視野に入れた支援ができたらと強く願い、考え、2005年8月に「大分県高次脳機能障がい連絡協議会」を設立し、2007年6月に当院に隣接する作業所として、任意団体である「地域福祉作業所 工房きらら」を開設いたしました。

現在、工房きららに通所されているメンバーは11人で、平均年齢は45歳、最年少の19歳の方をはじめ、最年長は74歳という幅広い方々が通所しており、そのうち女性の方が2人通所しています。それぞれ自転車や公共交通機関、ご家族の送迎などにより作業所へ通われており、遠方の方ですと、ご自宅から片道2時間掛けて就労訓練の場として通われている方もいらっしゃいます。作業所開所は月曜日から金曜日までの週5日間で、午前9時30分から午後3時30分までです。

作業内容は、清掃請負業務をはじめ、エコクラフトバンドを用いた小物入れやバッグ製作、牛半裁革を革包丁による裁断から縫製仕上げまで、オールハンドメイドにこだわったレザークラフト商品を製作しています。また、パソコンを使用した入力業務や、名刺印刷業務なども行っています。

作業所では、月に1度「きららミーティング」を開き、翌月の個人目標や前回掲げた目標に対しての振り返り、自己評価、作業所の月間目標決定や高次脳機能障がいを理解するための勉強会・意見交換会などを促し、集団訓練の場も設けています。また、スタンダードな評価表も作成し、第三者的評価も同時に行い、作業内容や強化していく課題等の指標の一つとしています。

製作した商品は作業所隣に構える店舗内で、接客業務と啓発活動を兼ねて販売・受注をしています。また、委託先での商品販売、フリーマーケットや学園祭出店、昨年4月からは、月に2回大分市役所内での出張販売も行っています。経済的不況の中、指導員の給料までは賄えませんが、商品の売り上げ等の収益は、作業所運営費やメンバーの方の工賃として支払っています。

開設当初は、指導員が作業内容などをこと細かく指示、指導していましたが、個々の興味のあることやできることから取り組み、それを皆で援助し支え合うことにより、日々の充実感や達成感が芽生え、各々の自信へとつながってきていることを実感します。また、作業を行う上でそれぞれの部門リーダーができ、今までスタッフへ確認や援助を求めていたものが、メンバー間で話し合い、協力し、試行錯誤しながらも良い商品を作り上げようと、妥協せず取り組む姿勢も伺えます。

さらに、今までスタッフとしかコミュニケーションを取れなかった方も交じえ、メンバー同士の和ができ、お互いの悩みや、障がいに対してのアドバイス、情報交換などを行うなど良い刺激や参考の場となってきており、同じ悩みを抱える者同士で話し合うことで、皆前向きになっています。特に店舗内で自分たちが一生懸命製作した商品が、接客・販売を通じてお客様の手に渡った瞬間の喜びは計り知れないものがあるとおっしゃり、メンバーの方の作業意欲向上へもつながっております。

今後の課題

「高次脳機能障がい」は一人ひとり異なる障がい像を示すため、個々に個人差が生じ、現在「工房きらら」が行っている作業内容では、全員が同じ作業に携わることができていません。そのため、作業が単体に分かれてしまい、一つの作業を全員で一致団結することができず、他のメンバーの方が行っている作業が理解できていない現状があります。そのため、作業を通じた共通の話題が無く、取り残される方もおられます。

今後は、一人ひとりが望んでいることや作業内容の向き不向きも考慮しながら、全員が共通して携われる新規作業の開拓やプログラムの改善等を行い、集団行動ができるスキルを培っていかなくてはなりません。そのために私たち指導員は、医療、福祉の知識はもちろんのこと、幅広い知識が必要となります。講習会や研修会などに積極的に参加していくと同時に、さまざまな分野において興味を持ち視野を広げ、指導員のスキルアップを図っていきたいと思います。そして、行政や地域企業等との関わりも必要であると考えています。

作業所を開設して現在に至るまでの約1年半、商品販売や啓発活動を通じて実感したことは、「高次脳機能障がい」に対しての認知度がまだまだ低いということです。就労・就学にあたり、まず大切なことは「高次脳機能障がい」とはどのような障がいなのかを社会の方々に広く理解していただくことです。そのためにも、他の医療機関や福祉施設とのネットワークを構築していくとともに、地域の方々や企業への啓発活動を積極的に行い、「高次脳機能障がい」をより深く理解していただき、当事者の方々の就労・就学支援をはじめ、安心して生活していける社会作りを目指し、共に支え合い生きていく「共生」をテーマに、作業所一丸となって取り組んでいきたいと思います。