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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年6月号

フォーラム2009

国立更生援護機関の今後のあり方に関する検討会報告書について

厚生労働省障害保健福祉部企画課施設管理室

国立更生援護機関について、外部有識者による「国立更生援護機関の今後のあり方に関する検討会」を設置し、平成20年10月から5回にわたる検討を行ってきた。

今般、「国立更生援護機関の今後のあり方に関する検討会報告書」が取りまとめられたので、その概要について説明する。

1 国立更生援護機関のあり方検討会の背景

国立更生援護機関(以下「国立施設」という)は、昭和20年代から40年代に設置され、また、昭和54年に身体障害者リハビリテーションの中核機関として、国立障害者リハビリテーションセンター(以下「リハセンター」という)が発足してからも30年が経過した。

この間、わが国は少子高齢社会となり、社会構造が変化する中で「ノーマライゼーション」の理念の下で障害関係施策が推進され、障害者を取り巻く環境も大きく変化してきた。

一方で、「平成20年度減量・効率化の方針」(総務省)において、「国立更生援護機関について、平成20年度中に事務事業の効率化・合理化等そのあり方を検討すべき」との指摘がなされている。

こうしたさまざまな要素を背景に将来を見据えた国立施設のあり方を検討するために外部有識者による検討会を行い、国立施設の基本的な役割・機能等について取りまとめられたものである。

2 報告書の概要

1 国立施設の現状等

国立施設は全国に4類型で8か所あり、身体障害者更生施設及び知的障害児施設として多くの障害児・者の職業的自立等に大きく寄与してきた。

また、リハセンターは、福祉機器等の支援技術の研究開発や専門職員の人材育成等も行う障害者リハビリテーションの中核機関としての役割も担ってきた。以下、各類型ごとに現状等を概説する。

(1)国立光明寮(視力障害センター)

中途視覚障害者を対象に「あはき師」国家資格取得のための養成訓練及び歩行、家事等日常生活へ適応するための諸訓練を行うことを目的とする障害者支援施設で、これまで1万人超の理療師を輩出してきたが、最近では利用者が大幅に減少している。

北海道函館市、栃木県那須塩原市、兵庫県神戸市、福岡県福岡市の4か所設置。

(2)国立保養所(重度障害者センター)

戦傷病者及び重度の肢体不自由者(主に頸髄損傷者)を対象に医学的管理の下で機能訓練を行い、職業復帰や日常生活の自立を目的とする障害者支援施設で、現在では利用者の9割が頸髄損傷者であり、また、戦傷病者の利用はない。

静岡県伊東市、大分県別府市の2か所設置。

(3)国立障害者リハビリテーションセンター(リハセンター)

障害者に対する医療から職業訓練まで一貫した総合的リハビリテーションを提供するとともに、リハビリテーション技術の研究開発や人材育成等、わが国の障害者リハビリテーションの中核機関としての役割を担い、更生訓練所・病院・研究所・学院の4部門で構成されている。

また、新たな障害分野の取組として、高次脳機能障害支援普及事業の実施や発達障害診療部門及び発達障害情報センターを設置している。

更生訓練部門は、障害者支援施設として、身体障害者の就労移行支援や中途視覚障害者の「あはき師」国家資格取得のための養成及び機能訓練等を実施しているが、最近では利用者は減少傾向にある。一方で、身体障害と他の障害を併せ持つ者や医療的ケアを必要とする者が増加傾向にある。

埼玉県所沢市に設置。

(4)国立秩父学園(知的障害児施設)

重度または視覚、聴覚と知的障害の重複する知的障害児の保護、指導を行うことを目的とする知的障害児施設であり、知的障害児・者の支援業務に従事する専門職員の養成所を併設している。また、発達障害に関する診療や研修を実施している。

利用者の約8割は成人に達し、在園期間も平均17年と長期化しており、利用者の地域生活移行が大きな課題となっている。

埼玉県所沢市に設置。

2 国立施設の役割及び機能について

(1)国立施設の基本的な役割

国立施設の役割としては、基本的には障害者基本法に基づく国の責務である障害者の生活機能全体にわたるリハビリテーション技術の研究開発や人材育成等の施策の具現化であり、加えて国に設置義務がある障害者支援施設及び障害児施設として、障害児・者の自立と社会参加及び生活の質の向上のための先導的かつ総合的取組を行うことにより、そのノウハウを民間施設等に還元することにある。具体的に、以下の3つの視点が特に重要である。

1.障害者リハビリテーションの中核機関

障害者が生活機能を回復・維持するための医療の提供、リハビリテーション技術の研究開発及び人材育成等について、その基本的施策の具現化並びに施策への還元。

2.医療・福祉施策等の向上のための提言

リハビリテーション医療や支援技術の研究、人材育成等の実践により得られる臨床データ等の評価・分析を行い、エビデンス(科学的根拠)に基づく医療・福祉施策の向上についての提言。

3.国の障害関係施設としての先導的・総合的取組

障害全体を視野に入れた先導的かつ総合的取組(発達障害等の新たな障害分野への対応等)を行うことにより、地方自治体への技術的助言や民間施設等に対する指導的役割。

(2)国立施設が持つべき機能

前述の基本的役割を果たしていくためには、障害当事者の視点を尊重しつつ、医療から職業訓練まで一貫した総合的リハビリテーションの提供、福祉機器等の研究開発、リハビリテーション専門職員の人材育成等の機能を一層充実・強化していく必要がある。

また、障害当事者やその家族等のニーズにより、エビデンス(科学的根拠)に基づく障害者リハビリテーションサービスを企画・実践し、関係機関とのネットワークの構築を図り、全国に情報提供していくことも重要である。

具体的に、以下の7つの視点に立って充実・強化が図られるべきである。

1.総合的リハビリテーション医療の提供

  • 身体障害中心から障害全体を視野に入れたリハビリテーション医療を提供するとともに、障害に関する臨床データの集積と評価・分析を行い、エビデンス(科学的根拠)に基づく安全かつ効率的な医療の提供と医療技術の向上を図るべきである。
  • リハビリテーション医療を提供する関係機関との連携により、障害に関するデータベースを構築し、臨床データの集積と評価・分析を行うための臨床研究開発機能を強化し、標準的なリハビリテーション医療プログラムや障害の重度化防止及び生活習慣病等による二次的障害を予防するための保健プログラムを開発、提供すべきである。

2.リハビリテーション技術・福祉機器の研究開発

  • 産学官や他の研究機関等とのネットワークを構築し、医療から福祉までの臨床・現場を有する特性を活かし、臨床データや社会的ニーズ等を集積し、評価・分析を通して、研究開発テーマの企画・立案及び調整等を行い、障害者のリハビリテーション技術の研究開発の主導的役割を担うべきである。
  • 障害者リハビリテーション技術の研究開発の中核機関として、障害者の自立と社会参加を進めるための医療・福祉技術のイノベーション(研究開発力)を高め、障害全体を視野に入れた支援技術や福祉機器等の開発、その実用化及び普及を図るべきである。

3.リハビリテーション専門職員の人材育成

  • 良質な医療・福祉サービスを提供するために、障害関係分野で必要とされる専門職の養成計画等を企画・策定するとともに、障害関係機関等とのネットワークを構築し、連携・分担して専門職等の養成・研修を行うべきである。
  • リハビリテーション関係専門職員の研修については、今後とも個別法に規定する医師の研修や資格を取得するために研修受講が要件となっている研修を中心に行うとともに、各専門職のリーダー(スーパーバイザー)や総合的な支援を担う専門職等の指導的役割を担う人材の継続的かつ段階的な育成に重点を置くべきである。

4.リハビリテーションに関する情報収集及び提供

  • 障害関係機関等との情報ネットワークを構築し、国内外の障害者リハビリテーションに関する情報を収集し、「障害者リハビリテーション総合情報センター」として、障害当事者や関係者が必要とする情報が迅速かつ効果的に提供できるようにすべきである。

5.リハビリテーションに関する企画・立案

  • 障害者リハビリテーションに関する情報の収集、障害当事者やその家族等のニーズ及びリハビリテーションサービスの実践・研究等で得られる臨床データ等を評価・分析し、エビデンス(科学的根拠)に基づき、国の障害施策へ還元(提言)すべきである。

6.リハビリテーションに関する国際協力

  • わが国の障害者リハビリテーションの中核機関として、国内外のリハビリテーションに関する情報の収集及び提供を行うとともに、世界保健機関(WHO)等の関係機関や国際リハビリテーション協会(RI)等の諸外国の活動への協力など、国際交流・貢献を積極的に進めるべきである。

7.障害福祉サービスの提供

  • 国の設置義務がある障害関係施設として、民間施設等で取組が十分でない頸髄損傷者、中途視覚障害者や重度・重複障害児等に対する障害福祉サービスを提供するとともに、高次脳機能障害や発達障害等新たな障害分野への対応を図り、障害児・者の自立と社会参加を進めるための先駆的かつ総合的な取組を行うべきである。
  • 総合的リハビリテーションサービスを提供するリハセンターにおいては、リハビリテーション医療、リハビリテーション技術の研究開発及び人材育成等の各部門が連携し、障害者の早期の自立と社会参加を進めるための総合的リハビリテーションプログラム(サービスモデル)を開発し、障害関係機関・施設等に提供すべきである。

3 国立施設の機能の一元化

  • 障害者の自立と社会参加を進めるための各種サービスを適切かつ効果的に提供するためには、リハセンターを核として施設間で共通する機能を一元化し、統一的な方針の下で事業運営を行う必要がある。
  • 施設間で共通する機能の一元化を図ることにより、訓練部門と支援技術の研究開発や人材育成等の各部門が連携し、先駆的事業を効果的に実践することが可能となる。
  • 国立施設の機能を一元化することにより、事務事業の効率化を図り、その時々のニーズに応じて、迅速かつ適切に対応する体制を整備することができる。

「国立更生援護機関の今後のあり方に関する検討会」報告書は、以下の厚生労働省ホームページからアクセスできます。

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/03/s0325-7.html