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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年6月号

列島縦断ネットワーキング【大阪】

「ネクストステージ大阪LLP」の取り組み

矢野孝

「ネクストステージ大阪LLP」の立ち上げの経緯

2005年4月に「発達障害者支援法」が施行されてから、発達障害のある人へのさまざまな支援施策が展開されてきていますが、当事者一人ひとりが実感できるくらい支援が行きわたっているかといえば、まだまだの状況です。特に青年期・成人期については、これからの課題です。発達障害のある人の中には、知的障害を伴わない人も含まれており、従来の障害のある人の枠組みでの支援体制や考え方では、支援がスムーズに進まない場合も少なくありません。

2006年に大阪LD親の会が大阪市から委託を受け、事業所、福祉機関などの協力を得て、就業支援等モデル委託事業「LD等の発達障害のある人の就業体験事業 プラクティカル・ジョブサポート」を実施しました。その結果、発達障害等の要因により、コミュニケーション能力に困難を抱える求職者については、カウンセリングなどの相談体制の整備だけでなく、多様な就業体験の場(事業所)を用意し、仕事の現場で本人の自己理解を醸成していくことができる仕組みが重要な支援の一つであることが分かりました。2007年からは、枠組みを広げ、障害者手帳の有無に関係なく、発達障害などで「生きにくさ」を持つ人を地域の中で支える実効性のある取り組みにするために、企業、関連機関等が連携し「ネクストステージ大阪LLP」を組織しました。

LLP(Limited Liability Partnership)とは、専門的な知識や経験、ノウハウをもった人的資源と企業や個人が力を合わせて新たな事業に取り組みやすくするための新しい事業体制度です。海外で活用されている制度ですが、日本では、2005年8月、有限責任事業組合契約に関する法律(LLP法)が施行されました。日本版LLPの特徴は、有限責任性、内部自治、構成員課税の3点です。これらの利点を生かすことで、枠組みにとらわれないフレキシブルな活動が可能であると確信して、「ネクストステージ大阪LLP」(http://www.nsosaka.com/)を立ち上げました。

組合員の構成は、企業・社会福祉法人・NPO法人・親の会役員で、それぞれが長年にわたって障害のある人の就労支援やコミュニティービジネス事業、地域づくり事業などに取り組んできた実績のある組織です。

「ネクストステージ大阪LLP」の目的

「ネクストステージ大阪LLP」は、地域社会の中で、「生きにくさ」を持つ人々に、体験や共働を通じた実践の中で、就労や教育の機会や環境を多角的に提供することを目的としています。

(1)教育・体験の場の提供

既存の教育・訓練機関と連携を図り、地域資源としての事業所の持つ多様な現場を活用し、実践的な教育・体験の場を提供する。利用者が、体験を通じ、自分の適性に応じた職域を自覚し、働くイメージを持ち、意欲を持つことができるように支援を行っています。

(2)就業支援

《就労支援》…就労支援のノウハウや経験、また企業のネットワークを活用し、一人ひとりのニーズに合わせた、きめ細かなマッチングの場を提供します。

《就労継続》…福祉、労働、医療など多角的な視点から、一人ひとりに即した相談や調整(個人、企業、家族、社会資源、その他)、支援を行います。

《職域開拓》…新しい職域や多様な働き方の提案を行うとともに、広報活動による周知、販路開拓、営業支援など新たな可能性を紡いでいきます。

(3)生活支援

「働く」「学ぶ」「遊ぶ」「集う」「憩う」「暮らし」「健康」「生活」など、暮らしを支えるための総合的なコーディネートを行います。

(4)地域資源の再編成(Next Stage)

生きにくさを解消するためのネットワークを創る活動の中で、豊かな地域社会の構築を目指します。

「ネクストステージ大阪LLP」の活動

2007年、2008年は、大阪府から「ネットワーク型ニートマッチング推進事業」の委託を受け、職場体験事業を実施しました。構成員のそれぞれが持つ専門的な知識や経験、環境、ネットワークを活用し、ジョブマッチング、就職、就職後まで必要に応じて、長期にわたりサポートすることができました。また、学校在学中であっても利用でき、障害の有無に関係がないため、一般扱いの求職を望んでいる若者にとって、利用しやすい職場体験プログラムになっています(図1)。

図1 大阪府のネットワーク型ニートマッチング推進事業(ネクストステージ大阪LLP)
図1 大阪府のネットワーク型ニートマッチング推進事業(ネクストステージ大阪LLP)拡大図・テキスト

(1)職場体験実習プログラム

「職場体験プログラム」の流れは、まず電話等で連絡をいただき、面談を行います。面談では、このプログラムの概要を説明し、参加希望者の現状などについてヒアリングを行いながら、体験実習の方向性を探っていきます。体験実習の詳細はケースにより異なりますが、期間や実習のペースなど、特に希望がある場合は調整をしています。

(2)職場体験例(すべて補助的業務です)

事務補助、PCデータ入力、PCインストラクター、情報処理、システム開発、配送、製造加工、店頭販売、高齢者の介護、内装、工場内軽作業、ルート営業、配送補助、食品製造、珈琲焙煎、清掃、レストラン、縫製、生活訓練など。

「職場体験プログラム」として、若者サポートステーション、若者就労自立支援センター(ニートサポートクラブ)等にも案内をしているため、最近は、一般枠の求職活動に問題を抱えている発達障害が疑われる若年者の利用も多くなっています。職場体験を積んでいくことで自信がつくとともに、そのたびに事業所と振り返りも行うので、自己理解が深まった結果、積極的な職業リハビリテーションの利用につながり、就職に結びつくという事例も少なくありません。

また、移行に時間がかかる人については、継続して支援をしています。職場体験プログラムと並行して、新たな就労領域を創出するために、支援する側、支援される側という枠組みを越え、社会を共に生き抜くための知恵や力を共有していく活動(自助グループ活動)を継続的に実施中です。

「ネクストステージ大阪LLP」の課題とこれから

発達障害等の「生きにくさ」を抱えている人にとって必要なことは、一人ひとりの適性・ニーズに応じた支援です。そのためには、枠組みにとらわれず、地域資源を有効に活用することがポイントですが、それらを活用していくためには、専門的な知識や経験、ノウハウを持った人的資源と企業・個人を生かすことができるコンソーシアムのような共同体が必要です。

LLPという活動形態は、それぞれが持つ専門性を有効に生かせるので、枠にはまらない幅広い活動が実践でき、新しい就労領域が生まれる可能性も秘めています。しかし、事業委託を受ける際には、責任主体として単体の法人格が求められることが多く、LLPという活動形態では、事業受託が難しい面があります。

今年度も、引き続き大阪府のニートマッチング推進事業を実施し、「職場体験プログラム」も行っています。また、LLPの組合員である矢野紙器(株)が、障害者就労継続A型事業所、障害者就労移行支援事業所を立ち上げ、障害のある人の就業に向けての支援体制の整備を図ります。さらに、地域再生プロジェクトに取り組み、新たな分野での雇用領域の創出を図っていくことで、職場体験プログラムの充実、雇用の促進を目標にしています。

(やのたかし ネクストステージ大阪LLP組合員)