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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年8月号

埼玉県障害者交流センターにおける健康増進プログラムの取り組み

栗原浩・半田和之・中嶋真一

はじめに

埼玉県障害者交流センター(以下、センター)は、主に障害のある人が、単にスポーツ・レクリエーションのみならず、文化活動や各種相談事業などを気楽に楽しく利用できる施設として、平成2年に開所しました。開所以来、延べ357万人、年間平均約20万人に及ぶ多くの人たちが利用しています。

スポーツ・レクリエーション分野では、「リハビリテーション」「生涯スポーツ」「競技スポーツ」を「みつける」「たのしむ」「する・きわめる」と位置づけ、各種プログラムを企画・実施しています。特に、リハビリテーションスポーツは、健康増進を図ることを目的に「健康増進プログラム」として、平成15年から実施しています。

健康増進プログラムの内容と特徴

さまざまな障害のある人にプログラムを「効率よく安全に楽しく」参加していただくことを念頭に実施しています。そこで、参加者の年齢、体力や障害の程度などに応じたプログラムを提供するため、センター独自の指導マニュアルを作成し、それに基づいて実施しています。体育館では6種目、プールでは3種目を、以下の内容で実施しています。

【体育館種目】

・セラバンド
リハビリやトレーニングに使用する伸縮性のあるゴムを使用し、各部位の筋力を向上させます
・転倒防止
転倒を防止するために、筋力やバランス、柔軟性等を向上させる運動を行います。
・リズム体操
音楽に合わせて、心肺機能を向上させるため、有酸素運動を行います。
・みんなでリハビリ
ゲームを通じて指や足の運動を行い、日常生活体力を向上させます。
・バランスボール
直径45~55センチ程度のボールを使用し、筋力やバランス、柔軟性などを鍛えます。
・ピラティス
呼吸をコントロールしながら、体幹筋力や柔軟性を向上させます。

【プール種目】

・みんなでアクア
水の中で行うリズム体操。音楽に合わせて筋力向上と有酸素運動を行います。
・かんたんヌードル
ヌードルという水に浮くポールを使用して、筋力向上とリラクゼーションを行います。
・フィンでエクササイズ
フィン(足ひれ)を使用して、体幹筋力やバランス能力を向上させます。

実施実績としては、平成15年度~平成20年度の間に、延べプログラム実施回数446回、延べ参加者人数4,106人(実人数は729人)、参加者の平均年齢約63歳となっています(表1参照)。

表1 健康増進プログラムに参加実数障害別割合(平成15年度~平成20年度)

申込者全統計 肢体 内部 視覚 聴覚 知的 精神 介護 重複 その他 一般 合計
障害別人数 575 14 39 14 11 37 20 729
障害別割合 78% 2% 5% 2% 2% 1% 5% 1% 1% 3% 100%

(1)健康チェックの実施

健康増進プログラムに参加するためには、まず、障害者交流センターの利用登録をしていただきます。その際、看護師が主治医の運動許可や服薬の有無、体調等を確認する「健康チェック」を実施します。健康増進プログラムを実施してから、大きな事故もなく参加者が安心して参加できているのも、このシステムが要となっているからだと考えます。また、各プログラム実施当日にも、担当職員が出席確認時に口頭による健康チェックを必ず実施しています。なお、健康増進プログラム以外のプログラムでもこのシステムを取り入れています。

(2)アンケート調査の実施

平成15年度からは、参加者に健康増進プログラムに関するアンケート調査を実施しています。アンケート調査では、「よく眠れているか」「食欲はあるか」「息切れは少なくなったか」「転倒の危険性は減ったか」「できなかったことができるようになったことがあるか」などについて質問しました。アンケート調査によると、プログラム参加後は、多くの参加者がおおむねどの項目も改善したという結果が見られます。その他、「楽しかった」「もっと回数を増やしてほしい」「また次回も参加したい」などを挙げている参加者が多く、非常に好評でした。

(3)体力測定と測定種目

平成17年度からは、プログラム開始時と終了時に体力測定を実施しています。体力測定を実施する目的は、効果の検証や、参加者自身に意欲を高めていただくことも含んでおり、プログラムの重要な要素であると考えています。実施した測定値は、参加者に分かりやすいようにグラフ化し、プログラム終了後、各自に配布します。また、測定値については、障害のある方に対する測定実績や基準等の報告実績が少なく、健常者の年齢による平均データとの比較評価をするのではなく、各自の測定値との比較としました。

測定種目は、椅子座り立ち(下肢筋力・バランス)、開眼片足立ち(バランス)、30秒上体起こし(腹筋力)、ファンクショナルリーチ(バランス・筋力)、長座位体前屈(柔軟性)、5m歩行(下肢筋力)、握力(筋力)、ジグザグ歩行タイム(下肢筋力・バランス)、ウエイトボール投げ(上肢筋力)等です。なお、測定種目は障害に応じた選択も行っています。

平成21年度からは、測定種目のうち、各々のプログラムに効果の出やすい2種目に限定して実施しています。たとえば、転倒防止は「椅子座り立ち」と「5m歩行」を選んでいます。各種体力測定の結果、約2か月間のプログラムであっても、多くの参加者が各体力要素において向上していることが確認できました。下図1に示すように「転倒防止」の効果を測定するために、脳血管障害3人、視覚障害1名、関節障害他2人(AからF)の「5m歩行」の時間を測定した結果、6月と7月を比較すると、平均で27%程度数値が向上する結果が見られました。

図1 「転倒防止」における5m歩行測定結果
線グラフ 「転倒防止」における5m歩行測定結果拡大図・テキスト

週1回のプログラム等で効果を上げることが難しいプログラムは、センター以外でもできるように、写真・図解入りのエクササイズ資料を配布しています。なお、計画的に体力向上を目指したい方には、別途体力測定を実施し、独自のトレーニングメニューを個別に提案する「パーソナルスポーツトレーニングプログラム」への参加を勧め、個別化を図っています。

(4)プログラムの工夫

次に、センターのプログラムの特徴の一つとして、参加者のニーズに対応した良質なプログラムを提供するための工夫をしています。たとえば「バランスボール」では、安全に行うために、障害の程度や技量に応じて、ボールサポート(ボールが転がりにくくする補助具)や、滑り止めを使用したほか、スポーツボランティアによるサポートを行っています。センタースポーツボランティアの協力は、健康増進プログラムを安全かつ円滑に運営する上で非常に有効です。

その他のプログラムの工夫としては、「ピラティス」のように寝てエクササイズするプログラムでは、指導者が前で行うポーズや動きなどが参加者が分かりにくいことから、写真や図解入りの小さなカードを使用して視覚的に確認してもらうなど分かりやすくしています。

さらに、「転倒防止」などでは、音楽に合わせてゲーム形式を取り入れるなどして楽しみながら実施しています。エクササイズは下肢筋力だけではなく、上肢やバランストレーニングを取り入れるようにしています。また、主動筋と拮抗筋をバランスよくトレーニングできるようなエクササイズもプログラムに取り入れています。

各プログラムとも鍛える部位を意識してエクササイズができるよう、適宜声掛けを行いながら実施しています。特に、視覚に障害のある方へは、意識する部位を筋肉の名前で指示するのでは分かりにくいため、参加者と同性のスポーツボランティアに鍛える部位を手で触れてもらうなどをしています。

プログラム全体を通して工夫している点として、さまざまな動きなどを通じて、「巧緻性」「俊敏性」「筋持久力」「柔軟性」「バランス」などの各体力の要素をバランス良くエクササイズできるようプログラム化していることが挙げられます。

今後の課題

今後は、プログラムの効果の測定において、各障害別の効果の検証等も行うとともに、身体に障害のある方以外でも参加できるプログラムの開発も取り組みたいと考えています。また、指導にあたっては、アンケートや効果測定の結果などを参考に、指導マニュアルの見直しや指導方法の向上を図っていきたいと思います。

健康増進プログラムについては、今後とも参加していただく方々に、安全で、効果があり、楽しく参加できるプログラムを提供させていただくとともに、楽しさや効果をもっと分かってもらえるよう、さらに工夫しながら実施していきたいと考えています。

(くりはらひろし・はんだかずゆき・なかじましんいち 埼玉県障害者交流センタースポーツ指導担当)