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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年8月号

長野県障害者福祉センターの取り組み
~地域における障害者へのスポーツ支援の必要性~

関口一道・三浦雄高

1 はじめに

長野県は本州の中部に位置し、周囲8県と隣接する全国で4番目に広い面積を持つ県である。また、日本の屋根と呼ばれるように、山に囲まれ、県内移動も長時間を要する環境にある。そのため人々の生活エリアは、北信(県の北部)・南信・中信・東信と、それぞれの地域で独自の生活・文化・経済圏を形成している。そのような状況の中、スポーツ、レクリエーション、文化活動などを通し、障害者の健康の増進と社会参加の促進を図るとともに、ノーマライゼーションの理念に基づいた社会を形成するための中核施設として、平成10年4月に、長野市(北信)に「長野県障害者福祉センター」(愛称:サンアップル)を開設した。

2 サンアップルにおける障害者への健康維持・体力づくり事業

障害者が、スポーツやレクリエーション活動を通して、健康の維持増進や技術向上、仲間づくりや社会参加の増進を図ることを目的として、サンアップルでは各施設でのスポーツ指導・支援をはじめ、各種スポーツ教室や大会を実施している。以下、健康維持・体力づくりの主な事業を紹介する。

1.各施設でのスポーツ指導・支援

サンアップル内の体育館やトレーニングルーム、プールなどの各施設において、障害者を対象にスポーツ・健康維持・体力づくりの指導支援を行う。

2.スポーツ教室

スポーツに親しみ、健康の維持増進や技術の向上、余暇活動への方向付けなどの機会を提供するために障害別、種目別に年間18のスポーツ教室を開催している。また、サンアップルから遠隔地の地域に対して、職員がその地に出向き、館外でのスポーツ指導・支援を実施している。

<21年度サンアップルスポーツ教室プログラム(一部)>

教室名 対象
水泳1 障害者・健常者 泳法(中学生以上)
リハビリテーションスポーツ リハビリテーションセンター入所者
ムーブメント 障害児(5歳以上小学3年まで)
アーチェリー 障害者・健常者(高校生以上)
サッカー 知的障害児・者
エアロビクス 障害児・者(小学4年以上)
陸上体験 障害者(中学以上)
テニス体験 障害児・者
バトミントン 障害者(初・中級者)
お手軽体操 脳血管障害者/変形性関節障害者
ソフトバレー 精神障害者

〈事例1:身体障害者へのアプローチ〉

平成18年から21年3月までの3年間、年24回(月2回1時間程度)、変形性股・膝関節者の体操教室を開催した。平均年齢は68歳で、プログラムはストレッチ、筋力トレーニング、簡単なレクリエーション、その後、希望者にはプールでの歩行や泳法の支援を実施した。自らが発する「かけ声(カウント)」と指導者の「促し(言葉がけ)」により「思わず動く・笑う」などの雰囲気の中、各自の動きを引き出すよう展開した。年間延べ312人(平成19年度)の受講者があり、参加者同士の繋がりも生まれ、現在では自ら習得した運動を館内の施設を利用し、自主的に実施している。本年度(平成21年4月)は、対象者を「脳血管障害者」として開催している。

〈事例2:知的障害者へのアプローチ〉

サンアップル開設時から「ムーブメント教室」を開催している。5歳~小学3学年までを対象としている。プログラムは対象者が「遊び」の環境を通して、感覚運動刺激による導入から、粗大運動を中心とした動きの展開をし、危険回避などの合目的な動きを選択できるよう指導している。小学高学年以上のクラスには、スポーツ種目への前段階として、手と目・手と足との協応動作が動きの幅を広げる大きな要素の一つと考え、たとえば床の上を転がる球を打つことから、バウンドした球を打つなどの空間を利用した動きへ繋げたり、大きな球から小さな球へと変え、空間、時間的な変化に対応した動きの確立を図るなどを行っている。

〈事例3:精神障害者へのアプローチ〉

近年、精神障害者の領域においては、ソフトバレーボールが比較的盛んに実施されていることから、これからバレーボールを始めたいと考えているチームや団体に対して、初歩的な技術・戦術・練習方法などを実技アドバイスしている。年4回開催しており、平成20年度は6団体(80人)へ支援を行った。

3.スポーツ大会・記録会の開催

県内全域の障害者を対象に、それぞれが練習の成果を試したり、余暇活動の充実や交流、情報交換などをする場として位置付け、各競技団体やボランティアの協力を得て、年5回、種目別、障害別で開催している。また、水泳大会は近隣県の選手の参加も可能であり、県内外の障害者が競い合う大会となっている。

<21年度スポーツ大会一覧>

大会名
1.障害者チーム対抗スポーツ大会
(風船バレーボール・グラウンドゴルフ)
2.ショートテニス大会
3.ふれあい運動会
4.バドミントン大会
5.水泳大会・記録会
6.卓球大会

4.研修会などの開催

障害者の健康維持や気分転換を目的として、県内障害者施設に従事する職員を対象に、より良い運動支援ができるよう「障害者施設研修会」を年2回開催している。

5.効果・課題

サンアップルが開設されてから約11年が経過し、現在、障害者の登録者数は8千人を超え、障害者の延べ利用人数も140万人を超えようとしている。運動を継続している利用者も増え、生活の中に運動が定着しつつあり、一定の評価を得ている。しかし、前述のようにサンアップルは県の北部に位置し、来館できる障害者は限られているのが現状である。設立当時の目的であった、障害者だれもが気軽に運動を実施できる環境を整えるということもあり、遠隔地の障害者をどのように支援していくかが課題となってきた。次に、それに向けたサンアップルの取り組みを紹介する。

3 障害者への「地域スポーツ支援」の取り組み

サンアップルでは、前述のような課題を打破するため、その地域に生活拠点があり、その地域で継続した運動支援ができる人材を発掘し、支援できる人材を育てることを目的に『地域スポーツ支援リーダー養成』を平成16年1月にスタートさせた。また、サンアップルの職員が出向き、館外教室などを開催するのにも限界があるため、遠方地域への支援拠点をサンアップルのサテライト施設として、南信・中信・東信の3地域に「障害者スポーツ支援センター」というかたちで設置を進めてきた。

(1)地域スポーツ支援リーダー(Sunapple Adaptive Sports Instructor:SASI)の育成

SASIは「その地域」において今後、障害者への運動支援活動を担っていく中心的な人材を育てることにある。すでに、その地域においてスポーツ支援をしている意欲のある人材を発掘し、さらなる「質の向上」を目指して研修会、現場での実際の指導・支援を3年間行い、晴れてSASIとして、サンアップルやその地域の考え方、技術、課題などを互いに共有し合いながら継続した活動を行うことを目的としている。

1.研修内容:水中運動、スポーツレクリエーションを主な習得種目とする

(ア)スポーツ指導における基本的事項(解剖学、運動生理学、障害各論、リスクマネージメントなど)

(イ)基本実技と障害に合わせたスポーツ支援法(心肺蘇生法、プール支援方法、運動財の考え方など)

(ウ)現場指導・支援(職員との連携によるレクリエーションやスポーツ支援の企画、実践など)

2.認定とその後の活動

SASIの認定は研修会を3年間(3期)受講し、学科試験及び実践活動の結果を総合的に判断し、適格者と認められた者を「サンアップル地域スポーツ支援リーダー(SASI)」として登録する。認定後は「センター事業の委託」「地域での障害者を含めたスポーツ支援活動」等に従事する。

<SASIの認定後の活動>

1.センター事業の委託
スポーツ移動教室、スポーツ出張教室、館外定期教室、団体からの運動支援依頼、センター主催イベントの運営スタッフ、研修会講師など
2.サンアップル・障害者スポーツ支援センターと連携した地域活動
スポーツクラブ育成、障害者施設・団体への継続支援、地域でのサポーター支援、障害に応じたスポーツの相談・紹介など
3.その他
サンアップル主催の研修会などへの無料参加、事業委託の際の謝金支出、ユニホーム支給、保険加入

3.現状

現在16人のSASI認定者を輩出し、それぞれの地域で障害者スポーツ支援の中心的人材として、サンアップルの職員とともに活動したり、地域に密着したかたちで活動中である。また、現在は第3期生9人が研修期間中である。

(2)障害者スポーツ支援センターの設置

SASI養成開始の翌年、南信地域の障害者より第2のサンアップル設置の要望があがったことから、平成15年8月に、駒ヶ根市にある県立看護大学のプールを借用し「障害者水泳支援センター駒ヶ根」を開設した(現在は障害者スポーツ支援センター駒ヶ根、愛称:サンスポート駒ヶ根)。その実績から、館内事業もさることながら指導員派遣事業のニーズが非常に高いことと、地域での研修会を望む声が多いことを実感した。3年後の平成18年11月には、長野県のほぼ中央に位置する松本市(中信)に「障害者スポーツ支援センター松本」(愛称:サンスポートまつもと)を市・社会福祉協議会との協力のもとに開設した。そして今年度、10月には、県の東に位置する佐久市(東信)に「障害者スポーツ支援センター佐久」(愛称:サンスポート佐久)を開設する予定である。

<長野県障害者福祉センターの地域支援体制>
図 長野県障害者福祉センターの地域支援体制拡大図・テキスト

サンスポートまつもと・佐久は、独自の体育施設を持たず、障害者団体・施設の要望に合わせ、依頼先のある地域に運動支援の道具を車に積み込み、出向いていく形態をとっている。各地域の施設や人の資源をできる限り活用し、スポーツ教室や団体支援を行っている。この活動時には当然、SASIも活用しつつ、地域のフリーのスポーツインストラクターや障害者スポーツ指導員、施設職員らと協働しながらすすめていくことが重要である。

4 地域における障害者スポーツ支援の今後の展望

障害のある方々のスポーツ環境を生活レベルに広げるためにも、その地域で、いかにスポーツに親しめる環境を整備できるかがとても重要である。そのためにも、住んでいる地域で継続的に支援できる人材の育成、気軽に運動のできる体育施設の確保、それをサポートしていただけるボランティアの存在などが欠かせない。そしてそれらをネットワーク化し、人・もの・情報などがスムーズに循環するシステム作りが今後の課題になってくると思われる。これまでの実績を生かしながら、障害者スポーツ支援センターや地域に在籍するSASIが中心的な役割を担い、スポーツという媒体を通して、その地域の施設や資源を活用し、障害者スポーツ支援・指導を進めていかなければならないと考えている。

<障害者スポーツ支援のシステム作り>
図 障害者スポーツ支援のシステム作り拡大図・テキスト

(せきぐちかずみち・長野県障害者福祉センタースポーツ課長、みうらゆたか・地域スポーツ担当)