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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年8月号

1000字提言

幻覚妄想大会

伊藤知之

浦河べてるの家のある浦河町で、1年間で一番人の集まるイベントは、おそらく、「べてるまつり・当事者研究全国交流集会」であろう。このイベントに合わせて、延べおよそ1,000人近くの人が浦河町に来る計算になる。

中でも圧巻のイベントは、べてるまつりのクライマックスで行われる幻覚妄想大会である。これを見るために飛行機を予約し、浦河町のホテルに宿泊を確保する人もいるほどである。

幻覚妄想大会とは、この1年間で最もユニークな幻覚・幻聴・妄想を体験し、そのことでどれだけ周囲に豊かな恵みをもたらしたかということを表彰するものである。単に幻覚妄想で苦しんだから受賞するのではなく、周りの仲間・スタッフが幸せな気持ちになれたかが問われるものである。

今年の幻覚妄想大会グランプリは、グループホームで仲間と暮らすAさんであった。Aさんは、幻聴さんに「住居を出て行け!」と言われ、幻聴さんのいいなりになって、近所の公衆トイレで生活をしていた。そうした中で、同じ住居メンバーのBさんの力でべてるの就労支援事業所通所にもつながった。そのことが評価されグランプリを受賞したのである。副賞として、幻聴さんに振り回されないという効果があるという(?)主治医の川村先生のポスターがAさんに贈られた。

Bさんは、Aさんのいる住居に入居したときはAさんの幻聴や大声に振り回されていた。しかし、次第にAさんを気遣うようになり、しきりにAさんをべてるの就労支援事業所に誘うようになった。AさんとピアサポーターのBさんの来所をきっかけに、べてるでは幻聴ミーティングが始まった。幻聴のあるメンバーが1週間の幻聴の体調・気分・幻聴にまつわる苦労を語ったり、幻聴への対処法をSSTで練習したりする豊かなミーティングである。Aさんは、この幻聴ミーティングに来ることでべてるの来所につながり、今では少しだけ簡単な作業をしてから帰る日もある。

幻覚・妄想は、なくさなければならないもの・邪魔なものというイメージがまだ強い。しかし、浦河べてるの家においては、幻覚・妄想は人とのつながりをもたらすものとして理解されている。単に薬で症状をなくすのでなく、そこから生まれるつながり・コミュニケーションをこれから大事にされるといいと思う。

(いとうのりゆき 浦河べてるの家)