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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年8月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

東京のヘレン・ケラーたちに「光」と「音」を
―「東京都盲ろう者支援センター」を設立―

前田晃秀

はじめに

2009年5月27日(水)、視覚と聴覚の両方に障害のある「盲ろう者」を支援する「東京都盲ろう者支援センター」が東京都台東区に設立されました。

東京都盲ろう者支援センターは、東京都の補助を受け、特定非営利活動法人東京盲ろう者友の会(東京都台東区、理事長:山岸康子(やまぎしやすこ)、以下、東京盲ろう者友の会)が運営します。行政の補助により、盲ろう者支援の地域拠点が形成されるのは、わが国では初めてのことです。

盲ろう者とは

盲ろう者とは、視覚と聴覚の両方に障害のある人のことをいいます。全国でおよそ2万人、東京都内にも2千人程度の盲ろう者がいると推計されています。

盲ろう者と一口に言っても、全く見えなくて同時に全く聞こえない「全盲ろう」の人のほか、目が見えなくて耳も聞こえにくい「盲難聴」の人、目が見えにくく耳は全く聞こえない「弱視ろう」の人など、いくつかの障害のパターンがあります。また、障害を受けた年齢や目と耳の障害の順序によっても、さまざまな条件の人がいますが、これらをひっくるめて「盲ろう者」と総称するのが国際的な潮流です。

もし一般の人がテレビを見ていて、いきなり画面が消えてしまい、スピーカーの音だけが聞こえる状態になったとします。これは、単一の「盲」の人が経験している認識世界に似ています。逆に、テレビの音が消えてしまい、画面だけが映っている状態になったとすると、それは単一の「ろう」の人が置かれている状態だと言えます。

では「盲ろう」とはどのような状態でしょうか。それは、今の例で言えば、テレビの画面を消して、同時にスピーカーの音も消してしまった状態、要するにテレビのスイッチを切ってしまった状態だと言えます。このように、盲ろう者の「心のテレビ」には、何も映らない、「永遠に続く静かな夜」が広がっているだけなのです。

このように、盲ろう者は、「光」と「音」が失われた状態で生活しているため、独力でコミュニケーションや情報入手、移動ができない、あるいは極めて困難な状態に置かれています。

つまりこれは、コミュニケーションできる相手が制限され、入手できる情報も制約され、そして、自由に移動することが許されていない状態であり、まるで牢獄に閉じこめられているような生活です。目には見えない「透明な壁」に幽閉されている状態です。

多くの盲ろう者はこのような「牢獄」から抜けだし、社会の中で精一杯、力を発揮したいと望んでいます。学び、働き、交流し、皆と共に暮らすという、生きている手応えのある人生を送りたいと願っています。

東京都盲ろう者支援センターの設立まで

東京盲ろう者友の会は、それら盲ろう者の「思い」や「願い」に寄り添い、盲ろう者の自立と社会参加を促進することを目的に活動してきました。

1988年、盲ろう者の福島智(ふくしまさとし)さん(現・東京大学先端科学技術研究センター教授)の大学進学を支援する会がきっかけとなり、東京やその近郊に住む盲ろう者や家族、ボランティア等によって準備会ができ、交流会の開催や会報発行等の活動を始めました。徐々に参加者も増え、1991年には正式に「東京盲ろう者友の会」として活動を開始しました。2001年にはNPO法人格を取得し、さらに、2008年4月からは「認定NPO法人」として国税庁から認定され、地域に根ざした盲ろう者福祉団体として活動を続けています。

東京盲ろう者友の会は、これまで、「通訳・介助者派遣事業」や「通訳・介助者養成研修事業」を東京都の委託、あるいは補助を受け、実施してきました。それとともに、盲ろう者を対象としたコミュニケーション講習会や交流会・サークルを開催する「盲ろう者向け更生援護事業」を民間の助成を受けながら実施してきましたが、いつ予算が打ち切られるか分からない状況のなか、まさに綱渡りのように事業を維持してきました。

そこで、東京盲ろう者友の会は更生援護事業を都の事業としてもらうよう、長年にわたって、東京都に要求してきました。また、福島智さんが石原東京都知事と面会し、直接、盲ろう者の窮状について訴えたこと、さらに、他の支援者の方々のサポートもあり、東京都から「盲ろう者支援センター事業」という形で、東京盲ろう者友の会に補助金をいただき、事業を実施することが認められることになりました。

「盲ろう者支援センター事業」を実施するにあたって、より広い場所を確保する必要があるため、台東区浅草橋にあるビルの一室(約160m)を借り、その中に「東京都盲ろう者支援センター」を設立することになりました。

東京都盲ろう者支援センターの事業について

東京都盲ろう者支援センターでは、盲ろう者が自立した生活を送るために必要なリハビリテーション訓練を提供するとともに、閉じこもりがちな盲ろう者の社会参加を促すために、交流会や各種サークルを開催します。また、盲ろう者本人はもちろん、ご家族や支援者、関係機関からの相談も常時、受け付け、問題解決のための支援を提供します。さらに、盲ろう者の専門的支援にあたる人材を養成し、盲ろう者の日常生活を側面からサポートします。

[主な事業内容]

(1)訓練事業

1.コミュニケーション訓練

触手話や指点字、手書き文字などのコミュニケーション方法や点字の読み書きなどを学ぶ。

2.生活訓練

日常生活(衣類の整理や見分け方、時計の利用など)や家事(調理や清掃、編み物など)の技術のほか、安心して移動できる歩行の方法などを学ぶ。

3.パソコン等電子機器活用訓練

点字ディスプレイや画面拡大ソフトウェア、画面読み上げソフトウェアを使用してのパソコンのほか、拡大読書器や電話機、FAX等の操作方法について学ぶ。

(2)総合相談支援事業

盲ろう者及び家族、通訳・介助者、関係機関等から、日常生活や福祉サービスの利用などに関する相談を受け付ける。

(3)社会参加促進事業

1.盲ろう者集団学習会・交流会

盲ろう者が安心してコミュニケーションを取ることができる交流会やサークルを開催する。

2.盲ろう者関係情報の収集・分析・提供

国内外の盲ろう者に関する情報を収集・分析し、情報提供する。

3.盲ろう及び盲ろう者に関する普及啓発

盲ろう者の存在を広く一般に知っていただくために、盲ろう者に関する情報を発信する。

(4)専門人材養成事業

1.相談、訓練等の支援・指導員の育成

盲ろう者の相談や訓練に携わる人材を養成するための研修を開催する。

2.訓練、研修等プログラムの開発・普及

盲ろう者に提供する訓練や盲ろう者支援にあたる人材養成のためのプログラムを研究・開発し、関係先にも提供する。

おわりに

盲ろう者は「見えない、聞こえない」という二重の障害のために、既存の視覚障害者向けサービスや聴覚障害者向けサービスを利用することが難しく、福祉行政の谷間に置かれ、一般社会からも置き去りにされてきました。東京都盲ろう者支援センターが設立されたことにより、置き去りにされ、絶望を感じていた盲ろう者が孤独から抜け出し、いきいきと生活ができるきっかけになればと考えています。

(まえだあきひで 東京都盲ろう者支援センターセンター長)