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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年8月号

列島縦断ネットワーキング【大阪】

「あすなろ麺」の品質が世界に認められた

迎和明

はじめに

障がい者通所授産施設あすなろは、平成15年4月に社会福祉法人豊中愛和会の障がい者施設として開設された。施設は、大阪府立緑地公園東側の閑静な住宅地に隣接し、緑地公園の四季折々の季節が見られ、大阪の中心部より地下鉄で約15分、最寄り駅から徒歩8分と交通至便である。当法人は授産施設のほか、生活介護事業、短期入所事業、高齢部門では特養のほか、老人保健施設等も運営している。

あすなろの授産活動

授産施設あすなろでは、あすなろ麺の「製麺班」、オリジナルカレンダーの製作販売や帳票類・名刺等を印刷する「印刷班」、お菓子の箱折りやステップルの箱入れ・枕カバー折り等の「軽作業」、食堂やトイレ・廊下等をきれいにする「清掃班」、そして昨年の11月から開始した「洗車班」の5つの作業を60数人の利用者が各班に分かれ、個々の能力に応じた授産活動を行っている。

あすなろ麺の由来

平成14年、施設開設計画の段階で、授産工賃を安定的に支払うため自主製品を検討した。その結果、日々消費する食品が良いと考え、そばやパン、クッキー、うどんが候補に上がったが、当法人の関連病院や高齢者施設での給食材料としての需要を期待して、うどんの製造に決定した。

やるなら本格的なうどんにしようと、本場さぬきうどんの伝統的製法を学ぶために職員2人が四国香川等で修業を行い、うどん作りの基礎をマスターした。おいしいうどん作りには、熟成時の温度管理や生地の鍛えなおしが重要であり、その習得に苦労した。幾多の試行を重ねてできあがったうどんは、施設の名称あすなろを冠として「あすなろ麺」と命名した。次は、障がいをもつ利用者にその製法をいかに伝えるかが課題となった。

製麺班の挑戦の始まり

衛生面を考慮して製麺機を導入したが、利用者が分担して無理なく作業ができるように、あえて製造工程を分解したものを取り入れた。手の洗い方や消毒の方法、小麦粉やうどんの計量方法(秤に乗せたら針が動くことの理解)、塩水や小麦粉の微妙な配合等、多くの課題を利用者と職員が共に汗を流して一つ一つ克服していった。

職員は、利用者に分かりやすい言葉での説明や、視覚で理解できるように写真や絵を使う等工夫を重ねた。それでも一人でできるまでには、早い人で1~3か月、遅い人で半年~1年の時間を要した。安全管理には、杏和医学研究所の協力を得て、保存日数の経過に従っての細菌数のチェックを行い、許容範囲の賞味期限の判定を行った。ようやく1袋(5人前)250円のあすなろ麺の販売を開始した。

パッケージ化への挑戦

障がい者が作ったうどんだからと、安易な妥協で福祉を前面に販売することに疑問を感じていた頃に、国の工賃倍増計画が始まった。また、購入されたお客様よりお土産やお歳暮等の贈答に利用したいとの意見が多く聞かれ、平成19年9月から本格的にパッケージ化に取り組んだ。多方面から土産物等のうどんを買い求め、箱の大きさや形、デザインの検討を行った。利用者が描いた字体の「あすなろ麺」と「無添加麺」、「さぬき仕込み」の挿入はすぐに決定した。箱のデザインは、豊中の景勝地や緑地公園の自然を基調にしたらどうかという印刷会社の提案を受け、検討を重ねて化粧箱が完成した。

次に、つゆの選択を行った。一層おいしく食べていただくために、本場さぬきのつゆを数十種類集めて試食を重ね、あすなろ麺に最も相性の良いつゆを選択した。

しかし、私たちが最も恵まれていたのは、あすなろ麺に対する考えやこだわりに共感して協力していただいた吹田の印刷会社や自社秘伝のうどんつゆを実費で分けてくださった琴平の業者の方々等、外部の協力者を得られたことであり、この場をお借りして感謝を申し上げたい。

平成20年4月、モデルチェンジした3人前400円の箱入りあすなろ麺を販売開始した。

あすなろ麺のこだわりと特徴

1.漂白剤やつなぎ澱粉などを一切使用しない安全安心の無添加麺

うどんづくりの原点に戻り、余分な保存剤や澱粉等の添加物は一切使わない小麦粉と塩水のみの自然素材である。その味は「こしがあり喉ごしがよく自然な風味がある」

2.日持ちがよい半生麺

形態は、半生麺で生麺に近い小麦粉の本来の風味やコシの強い食感と、乾麺の長期保存性と双方の長所を生かしている。

3.うどんつゆは、本場さぬきうどんのつゆメーカーから取り寄せ、手土産や贈答用にも利用してもらえるようにした。

世界品質への挑戦

平成20年12月、あすなろ麺の次なる目標を定めた。モンドセレクションは、1961年ベルギー政府が主導して設立した国際評価機関の「食のオリンピック」であり、出品サンプルは、味覚や成分、原材料等を厳密な評価方法によって審査される権威のある国際コンテストである。このコンテストであすなろ麺が評価されれば、製麺班の利用者だけでなく、あすなろに通うすべての利用者が自分たちの仕事に自信と誇りを持つのではないか? 自分たちの製品が世界のトップクラスに認められればこんなにうれしいことはない。そんな気持ちでベルギーに向け、サンプルを発送した。

平成21年4月21日、英文の封書が届き開封すると、あすなろ麺金賞の文字「Gold」が目に飛び込んだ。ついにあすなろ麺の品質が世界に認められた瞬間で、喜びと感動で何物にも代えがたいものがあった。

授賞式はイタリアのベネチアで行われ、利用者2人と家族3人、通訳、付添職員の8人が参加した。順番に商品名と企業が呼ばれていくなか、豊中愛和会に対しては、「この賞は、障がいをもって働いてきた彼らにとって、とても重要で意味のあるものです」と特別なコメントがあり、参加企業の中でも一番大きな拍手をいただいた。壇上にタキシード姿で上がり賞状とメダルを受け取る2人のメンバーの顔も喜びと誇りで光り輝いていた。その時の心境を利用者のMさんは「『豊中愛和会あすなろ麺ゴールド』と言われ壇上に上がって大勢の前でメダルをもらい、会長さんと握手をして『サンキュウ』と言いました。みんなの代表で舞台に3人で上がれたことは忘れません。頑張ってきてよかった」と述べ、その想いは、授賞式に参加した多くの人々に伝わった。

あすなろの今後の展開

モンドセレクション金賞受賞以来、5月3日に時事通信社から全国各紙に記事が配信され、社会的にも大きな反響があり、テレビやラジオ、新聞等の取材が相次いで多くの宣伝の機会を得た。その結果、利用者のモチベーションが高められ、全国各地から注文や企業からの引き合いがあり、多くの方に関心を持ってもらうことができた。

今後は、授産メンバーの安定した収入と工賃アップをめざし、新商品の開発や販路の拡大を行っていきたい。また、今回は製麺班が脚光を浴びたが授産施設あすなろとして、受賞の自信と誇りが利用者全員や職員に浸透し、他の作業班でも質の高い作業の提供により就労をめざし、自立支援の一助になれば良いと考える。

最後に、障害者自立支援法の施行から3年が経過したが、授産施設あすなろは、経過措置のみなし運営をしている。現在、就労移行支援や就労継続支援B型等を検討しているが、今年度中に新事業移行の一定の方向性を決定したい。

(むかえかずあき 社会福祉法人豊中愛和会障がい者施設あすなろ施設長)