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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年10月号

障害のある人の高齢化に伴う現状と課題

成田すみれ

はじめに

世界でもトップクラスの高齢化が進むわが国では、今、障害のある人の長寿、高齢化が顕著となっています。高齢の障害者には、高年齢期に病気等で新たな障害者となった人が多いのですが、最近では、むしろ先天性の身体障害、知的障害、精神障害のある人の高齢化が増えていることが特徴です。従来、原因疾患への対応や医療ケアの未熟さ、病気や健康管理の不十分さ故に、短命と言われてきた障害のある人も、昨今では中高年から高齢、中には70歳代の人も数多く見受けられます。

人類が望んだ長寿という生物学的進化は、一方では私たちに、加齢に伴うさまざまな生活機能の変化をもたらします。これは、性別や人種、そして障害の有無にかかわらず、程度や現れ方の差異はあるものの、確実にだれにでも分け隔てなく、視力や聴力など感覚器、歩行能力など運動機能、物忘れなど精神機能の低下などとして現れます。障害のある人も同様です。従来からの障害に伴う生活や社会活動などの制約や制限が、加齢に伴い拡大し、障害の重度化となって重複します。

ここでは以下、高齢年齢となった障害のある人が、実際地域でどのような暮らしや生活をしているのか、そこでの問題点や課題を考察してみました。

地域で暮らす障害のある人

《精神疾患のある65歳、一人暮らしのA男さん》

20代前半に統合失調症を発症、45歳頃までに3回の入退院を経験、途中多くの職業に就くも長続きせず、その都度病気の再発を繰り返していた。最後の入院後は母親との同居生活を選び、外来通院で病状も安定しており、今に至っている。

5年前に母(84歳)は死亡、公営住宅3階に住み、日常生活に必要な家事等はおおむね自立している。母亡き後の生活は、地域活動支援センター通所(週4回)、訪問介護(週1回)、訪問看護(週1回)利用などで、これまで維持されてきた。しかし、昨年頃から腰痛、ひざ痛により地域活動支援センターに通うことが辛くなってきている。整形外科受診では、年齢的なものと言われ、大きな改善もなかった。

地域活動支援センターは開設時から利用している。ここでは友人もでき、軽作業の役割もあって、生きがいの場となっている。最近、同年代の男性が体力低下を理由に退所したことがショックで、自分も足腰の痛みがあり、疲労感も強く、いつまで施設通所ができるか不安になり、眠れない夜も多い。また、住宅の階段の昇り降り、日常生活での食事、衣類の片付け、寝具の出し入れや乾燥などに負担を感じ始めており、訪問介護サービスを増やすことを希望している。地域活動支援センターは仲間に会えるのが楽しみなので、しばらく通所を続けたいと思っている一方、通所が困難となり、高齢者の施設を利用することは、自分のような病気を持っていてもできるのだろうかとも思い悩んでいる。

《知的障害のある60歳、猫と暮らすM子さん》

知的障害(中等度)、てんかん、交通事故による右片マヒ(5級)。

ここ8年間に父親、母親が相次いで死亡、残された古い家屋での一人暮らし。近所に妹家族が住み、妹や姪などが日常的に食料などを持参して訪問、生活を支えている。

現在、日常生活では、55歳まで通所していた授産施設法人による地域作業所へ週5日(9時から16時まで)通所、訪問介護週3日(夕刻時、身体介護と家事援助)を利用している。このところ加齢に伴い、体調不良や何もしたくないという日が増え、従来のように朝起きて、定時に家を出るという規則性のある生活ができなくなってきた。作業所は、職員や利用者も本人のことをよく理解していて、親身な関わりや慣れ親しんできた作業科目もあるが、春頃から月に10日ほどしか出勤できず、今までの半分の利用状況となっている。

身体的には、内科疾患等合併症もなく、また50歳台からはてんかん発作も落ち着き、このところ受診もしていない。右片マヒはあるものの、日常生活はほぼ自立していたが、今では入浴は浴槽への出入りが困難となりシャワー浴、調理や洗濯は一部自立、掃除は妹とヘルパーが対応している。

買い物が大好きで、一人では不用品の購入や不要な契約などをしてしまうことから、必ず妹らが同行していたが、歩行不安定となり転倒の危険もあって、週末の外出頻度も減ってきている。親との同居時から飼い猫がいて、今は高齢となった猫が大切な家族と思っているが、食事の世話なども以前よりおろそかになってきている。他に短時間の外出でも疲れやすくなっており、歩行時の見守りや階段などでの介助が不可欠。会話中に言葉が出にくくなるなど心身機能が大きく変わってきている。この先も、作業所通所ができるのか、閉じこもりによる生活の悪化を防ぐにはどうすればよいのかなど、妹を交え相談を開始したところである。

生活や暮らしから見えてきたこと

障害のある人が高齢化することでの生活の変化は、個々の障害特性とともに、多様な展開をしますが、ここにはいくつかの共通事項があります。

まずは、加齢に伴う生活機能、特に心身機能の低下は、新たな生活障害を作り出すことです。日常生活での主な身辺動作や活動、社会生活への参加などに、急激な変化ではないものの、少しずつ不自由さや困難性が増え、見守りや介助などの具体的支援が不可欠となり、早い人では40歳前後から高齢症状が出現します。さらに、全体として体力や耐久力、運動機能の低下、病気への耐性などが弱くなり、新たな病気やけがのリスクも高くなることも否めません。また、精神面での変化として、軽い記憶障害のみならず、たとえば高齢者うつ病や認知症などの発症も少なくありません。

A男さんでは、下肢痛からの歩行や外出の制限、そして一人でどうにかできていた日課の継続が辛くなってきたことが、生活面でのさまざまな不安となり、精神的にもストレスから新たに「うつ状態」や、不健康な状態となることも予想されます。

次にこのような生活機能の変化は、障害のある人が、それまで上手に対応、維持してきた生活や、暮らし方の修正・変更を余儀なくすることです。

M子さんでは、身体機能の低下が、明らかに見守りや介護が必須となり、今の生活を変更せざるをえず、改めて、彼女の望む生活を尊重した生活の再構築が要請されています。

いくつかの支援を利用しても独居生活を持続できない、家族介護者の要介護状況での家庭崩壊、個別支援の必要増と施設等集団生活の限界などの諸状況は、これまで家族や支援者らと培ってきた多様な生活形態や生活方法の再構築、作り直しを必要とします。それには障害のある人を巡る環境、具体的には生活支援のための法施策やサービス、人材や施設、年金などの経済的支援、住まいなどの住環境など、有形無形、公民の社会資源が実情に即して用意、提供される仕組みがあることが前提です。

そう考えると、障害のある人々のライフステージに沿った支援体系として、今ある「障害者自立支援法」や、もろもろの障害者支援の施策は有効なものとなっているのでしょうか。40歳以上であることを条件に、障害のある人がそれまで個別具体的に提供されてきた生活支援の手だてを介護保険へ優先化する原則、障害に伴う生活や暮らしの困難性を「要介護の手間」というスケールで判断する方法などは、すでに社会的にも指摘や批判されてきた事項ですが、地域での障害者相談支援などからの実態を知るにつれ、この先の高齢社会のあり方を思うと、今改めて再考する時期に来ていると実感するところです。

終わりに

地域で暮らす障害のある人の生活から、現状や課題と併せて、いくつかの大事な視点が確認できました。長年、障害と向き合いしっかりと自分に見合った生活を築き、歩んできた人々でも、高齢期は生きていくうえでより一層他者の支援が必要となります。また、高齢になっても、その人らしく住み慣れた地域社会で安心して人生の終末期を迎えることと、そのための支援が地域では不可欠です。

老いのあり方は個別性があり、本人が選び決定することができます。そして、これらは障害の有無にかかわらず、私たち共通の老後のあり方の基本でもあるのです。

(なりたすみれ 横浜市総合リハビリテーションセンター)