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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年10月号

厚木精華園の取り組み
―施設から地域への移行とその支援

末村光介

1 なぜ厚木精華園でグループホームだったのか

厚木精華園は高齢及び医療的サポートを必要とする中高齢者の知的障がい者が、心豊かで充実した生活が施設の内外で過ごせるようにとの目的で、120人定員の入所更生施設として平成6年7月1日に開所しました。設置は神奈川県、運営は社会福祉法人です。

120人の利用者の多くは10年以上の施設生活者で、中には30年近い方もいらっしゃいました。施設としては利用者の皆さんが、このまま歳を取って不自由の多かった暮らしで人生を終わらせるのではなく、せめて「最後にもう一花咲かせることができた」とご本人に感じていただけるような支援を実践したいと考えていました。そういう視点からすると、集団での暮らしではなく、グループホーム(当時)での暮らしがまだ可能と判断できる利用者や、施設を出たいと希望される利用者が存在することに気がつきました。また、在宅生活者の中には、同居して支援をしていた家族が長期入院することになり、在宅生活の継続が困難になったので短期入所の利用や、いずれは一般入所が妥当と判断されるケースも散見されるようになりました。ご本人の状態や希望とは関係ない理由で、ある日突然施設での暮らしを余儀なくされる実態を突きつけられる中で、グループホームでの暮らしへの移行とその支援は、厚木精華園の中では「必然」だったのかもしれません。

厚木精華園では現在、共同生活介護として1事業10ホーム40人の支援を実施していますが、その始まりは平成7年8月にまで遡ります。施設内に「地域生活推進委員会」を設置し、検討を始めました。同年11月、近所の借家を利用し「生活体験ホーム」の運営を開始、利用者が交代で日帰りや短期間の宿泊を体験するようになりました。私たちは、「生活体験ホーム」で過ごす利用者の姿を見て、地域生活移行への確かな手応えを感じながら準備(対象者の選定、物件探し、近隣への説明会、設置申請など)を進めました。当時は今ほどの地域生活推進の潮流はなく、県の所管課からも、高齢知的障害者の入所施設にグループホーム運営はミスマッチであると指摘されたりもしました。

平成9年4月にグループホーム「ゆめホーム」を設置、翌10年4月には「第2ゆめホーム」を設置しました。最初の入居者の4人はほかの施設から2人、在宅から2人でした。

2 ホームでの暮らし

現在、グループホーム入居者の年齢は33歳から79歳、平均年齢は64.1歳。障害程度区分の平均は3.3、車いすや歩行器を使用している方が5人、介護保険で入浴サービスを受けている方も18人います。平日は40人中8人がほかの事業所に通い、3人は厚木精華園で福祉的就労をしています。残りの29人が厚木精華園に通っています。

厚木精華園は、高齢で知的障がいがある方々が利用されており、「高齢者の尊厳」「豊かな老後の生活づくり」を支援理念として日中活動を展開しています。歳をとっても「仕事頑張る!」と思う方には、簡単な作業ですがアルミはがしを準備しています。また、多くの皆さんは高齢化に伴い心身機能の低下が顕著であり、そういう状態の方々に適応したプログラム、介護予防を目的としたプログラムの提供も重要となっています。ホームから通う29人も作業に参加しています。

グループホームの1日の始まりは早く、朝6時前には皆さん起床します。というか、ほとんどの方は日の出とともに目を覚まします。食事後、7時から8時頃にそれぞれ出かけます。厚木精華園へ出勤する方は皆さん送迎車で出かけますが、元気な方は厚木精華園までの約2kmを歩いて通います。昼間はそれぞれの活動場所で過ごし、午後3時から4時頃に帰宅します。その後、夕飯までは休息、入浴、散歩、買物など自由に過ごします。夕食後、気の合った方々が持ち寄りで晩酌をする様子は何とも楽しそうで、職員も仕事でなかったら「一緒に呼ばれたい!」と思うほどです。夜の8時過ぎに近所のスーパーで買物をしている男性の入居者に会うこともあります。「この時間になるとお惣菜が値引きされ、安く買える」と教えてくれました。

グループホームでは、喫煙者にタバコは水の入ったバケツに捨てるようにお願いしています。外部事業所から入浴サービスを受けている方がいる関係で、入浴時間は決めさせてもらっていますが、日々の暮らしで生活上のルールは基本的にありません。

年齢構成

棒グラフ 年齢構成拡大図・テキスト

昼間の活動場所

棒グラフ 昼間の活動場所拡大図・テキスト

3 地域の中で

2つのグループホームとも住宅地にあり、地区の自治会に加入して、自治会行事にはできるだけ参加するようにしています。役員の順番が回ってきますが、担当課の職員が担っています。近くには学校や幼稚園、公園、コンビニ、スーパー、薬局などもあり暮らしやすい環境です。皆さん、思い思いの時間に自分の好きな所に出没して顔見知りも多くなりました。近所の方々も入居者の顔を覚えて挨拶を交わしてくださることも増えました。不定期ですが、自治会役員との情報交換会も行っています。その中で自治会としては、障害者のホームができることについては歓迎もしないが排斥もしないとのことでした。

できて30年ほどの分譲住宅地であれば「一定の距離をおいた近所づきあい」が、今風の感覚だと思います。しかし、入居者の中には「一定の距離で、今風のお付き合い」を理解することが難しい方もいて、時々職員が「ヒヤッ」とすることもありますが、そのヒヤッとに対応するのが職員の仕事です。

4 バックアップ施設の役割

グループホームの支援体制は、管理者が兼務で1人、サービス管理責任者兼務2人、生活支援員専従4人、兼務6人、世話人20人になっています。組織的には厚木精華園の地域サービス課に配属されます。1日4人の宿直は、非常勤職員10数人と管理職を中心とした厚木精華園の職員が配置されます。

バックアップ施設の役割としては、宿直など通常勤務の応援のほか、併設されている診療所による基本的な健康管理や、入居者が体調を崩した時に本人の同意を得た上で短期入所サービスを提供することもあります。ただし、短期入所は稀なことで通常はグループホーム内で対応します。数年前に、施設生活30年になる当時70歳の女性がグループホームでの暮らしを始めました。しばらくは、本人も慣れないせいか所在無げで時折寂しそうな表情をしていたので、私は「寂しくてつまらなかったら精華園に戻ってもいいですよ」と話しかけました。しかしその女性は、発音は不明瞭でしたがはっきりと言いました。「いや、いいよ。ここがいい」付かず離れずの距離感が大事です。

5 今後の展開(課題)

課題はあります。第一は、入居者の高齢化と介護度の増加です。今は常時身体介護が必要な方は少数ですが、今後は確実に増えていきます。医療的ケアの必要性も増します。年齢が入居要件にはなりませんが、加齢は課題です。それを支える職員の確保ができるか?入居者の個々のニーズに応え、細やかな支援が確保できるだけの報酬体系になるのか? 第二に、入居者同士の人間関係の支援は永遠の課題です。こじんまりとした空間ですが、やはり他人同士の暮らしです。摩擦は付き物。部屋替えも簡単にはいきません。第三に、休日を自発的にうまく過ごせない方への支援です。こちらが思うほどは困っていない方もいますが、手持ち無沙汰にしている姿もよく見受けます。

施設紹介文には、「厚木精華園は、知的に障がいがある人の基本的人権を守り、利用者中心の援助に努め、自己選択・自己決定を尊重し、障がいのない人と同じような普通の暮らしのできる施設のノーマライゼーションをめざします。」とあります。さまざまな課題はありますが「普通の暮らし」ということです。

最後に、筆者の強い思いを付け加えるならば「歳を取ったから施設に戻るのではなく、ホームから葬式を!」を実践していきたいと考えます。ホームの規模は今後2~3年かけてもう少し拡大し、定員を50人程度にする予定です。

(すえむらこうすけ 厚木精華園支援部長)