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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年10月号

利用者一人ひとりの「あなたらしさを応援」します
―名古屋市社協の在宅福祉事業

三浦畄美子

1 名古屋市社協の在宅福祉事業

本会が在宅福祉事業を開始したのは、平成元年です。「誰もが住み慣れた地域で安心して暮らし続けられるまちづくり」という理念の下、高齢者や障害者の自立を援助し、住み慣れた地域の中で安心して暮らすことができるよう、住民参加型のホームヘルプサービスの担い手「なごやかスタッフ」を養成することから始め、行政のヘルパーによって実施されていたホームヘルプサービスの一部を本会が委託を受けて実施することとなりました。

当初は、各区社会福祉協議会の事務職員が、それぞれの区に登録している「なごやかスタッフ」をコーディネートしていましたが、平成7年に常勤の「ケアヘルパー」を各区に配置することとなり、この多くを「なごやかスタッフ」の中から採用し、現在も常勤職員の多くが「なごやかスタッフ」出身者となっています。

平成12年の介護保険制度の開始により、名古屋市内の16区に1か所ずつ介護保険事業所を設置し、それまでの常勤ヘルパーを「サービス提供責任者」、「介護支援専門員」として配置し、「あなたらしさを応援」をキャッチフレーズに、ホームヘルパー派遣事業と介護保険制度の居宅介護支援事業を実施しています。現在の介護支援専門員の多くがホームヘルプ事業に携わった経験があります。

2 居宅介護支援事業の現状

現在本会では、100人の介護支援専門員を、16区の事業所の利用者の数に応じて必要数を配置し、介護保険制度における居宅介護支援事業を実施しています。

平成21年8月現在、本会では約4,000人の方のケアマネジメントを実施しており、介護度別の状況は、表1のように軽度(要支援1・2、要介護1・2)の方が66%を占めています。

表1 要介護度別利用者数(平成21年8月)

  要支援1 要支援2 小計 要介護1 要介護2 要介護3 要介護4 要介護5 小計 合計
利用者数 107 383 490 790 1,323 757 371 194 3,435 3,925
比率 2.7% 9.8% 12.5% 20.1% 33.7% 19.3% 9.5% 4.9% 87.5% 100.0%

年齢別では、表2のように、70歳代以上が88.1%を占めていますが、3年前より2ポイント減少しています。一方、60歳代が3年前よりも1.8ポイント増加し、わずかではありますが、若年化しています。これは、65歳に到達し自立支援法から介護保険制度へ移行したために利用されることになった方の増加の影響もあると考えられます。

表2 年代別利用者数

  40代 50代 60代 70代 80代 90代 100代 合計
平成21年8月 71 331 952 1,492 562 20 3,435
比率 0.2% 2.1% 9.6% 27.7% 43.4% 16.4% 0.6% 100.0%
平成18年8月 15 74 331 1,268 1,911 610 14 4,223
比率 0.4% 1.8% 7.8% 30.0% 45.3% 14.4% 0.3% 100.0%

※要介護者のみ

3 ケアマネジメント

介護保険法では、介護支援専門員は利用者からケアマネジメントの依頼を受け、利用者の日常生活上の能力や、すでに利用しているサービス、介護者の状況、その他環境等の評価を通じて、自立した日常生活を営むことができるよう支援するために解決すべき課題を客観的に抽出するというアセスメントを実施します。その結果に基づいて、利用者や家族の希望やサービス提供体制を勘案して、解決すべき課題に対応するための最も適切なサービスの組み合わせを検討し、それぞれのサービスの目標・達成時期、内容を記載したケアプランの原案を作成します。この原案を元に、サービス担当者会議でサービス事業者等の専門的見地からの意見を求め、調整を図り必要な修正を行い、本人・家族の同意を経てサービス利用開始となります。

このように、介護保険法では審査・判定の結果、要介護度の決定に伴い保険での利用限度が決定され、介護支援専門員が課題解決のためにサービスをコーディネートしていくというプロセスですが、自立支援法では、課題解決に必要なサービスと量があらかじめ支給決定されるというプロセスで、その決定の根拠が利用者一人ひとり違っているため、区役所の窓口で聞き取りをしなければわからないという違いがあります。

自立支援法も介護保険法も、基本は「利用者主体」であり、「利用者の希望する生活の実現のために、課題をどう解決するか」ですが、このようにケアマネジメントの流れは違っています。

4 高齢障害者の支援

65歳に到達して本会を利用されることとなった多くの障害者の方は、従前自立支援法の居宅介護や重度訪問で本会を利用していた方で、保険者から「介護保険になるからケアマネを決めるように」と知らされ、担当のサービス提供責任者を通じて依頼される方が多いようです。

依頼を受けた介護支援専門員は、従前の利用状況を引き継いで、介護保険のサービスをコーディネートしたケアプランを作成します。しかし、たとえば訪問介護を位置付ける際、介護保険では利用が認められにくい長時間利用や、生活援助1.5時間、外出介助などのような制度上の違いを利用者に理解してもらうことは難しいようです。

本会ではサービス提供責任者が介護支援専門員に転任することが多く、障害者のホームヘルプサービスに携わった経験を有した者は多いのですが、すべての介護支援専門員が自立支援法を十分に理解しているとは言えないのが現状で、他事業所の介護支援専門員の方々も同じような状況にあるようです。多くの場合、それまでに関わっていたサービス事業者や地域生活支援センターの相談員、医療機関、施設などと連携、調整し、区役所の担当者に相談し、従前の決定の根拠を明らかにしたうえで、上乗せで自立支援法のサービスを付加するという調整を図っています。

このように、高齢障害者の支援では、幅広い機関と連携を図ることが必要で、介護支援専門員には、広い視野と知識が求められると言えます。

5 今後の展望

本会では、高齢障害者のケアマネジメントが少しずつ増えています。この現状を踏まえ、利用者の「希望する生活」の支援のために、事業所内研修の実施をはじめ、名古屋市介護サービス事業者連絡研究会や区事業者連絡会など、事業者の団体が開催する研修への参加などによって障害者ケアや自立支援法の理解を深めるよう努めています。

制度を理解することと併せて、積極的に取り組んでいるのが「事例検討」です。そのためには利用者の障害の状況やADLだけでなく、生活歴や「思い」を知ることが必要で、介護支援専門員は利用者と接する時、利用者の視点で話を聞き、発せられた言葉の裏側にある真意を汲み取ろうと努力しています。そうして得た介護支援専門員からの情報や、サービス事業者などが得た情報を出し合い、さらに参加者が足りない情報について質問し、事例像を参加者全員で共有します。そこから支援の方向を見定め、支援策を立案していきます。

介護支援専門員は、支援困難なケースを一人で抱え込むことが多くなりがちですが、事例検討することでケアチームが利用者の「希望する生活」の実現に向かって、同じ方向で支援に携わることができます。

また、本会の場合は、同じ事業所のサービス提供責任者を通じた依頼で、65歳以降も引き続きサービス提供することが多いため、支給決定の根拠や従前のサービス利用状況が分かるなど連携がスムーズで、介護支援専門員も相談しやすく安心感を持って支援にあたることができています。今後も、サービス提供責任者と連携し、自立支援法から介護保険法に移行したことで利用者の生活の質が低下することのないよう、両制度をよく理解し、上手に活用することで利用者一人ひとりの「あなたらしさを応援」する支援を実施していけるよう努めていきます。

(みうらるみこ 名古屋市社会福祉協議会在宅福祉部)