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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年10月号

地域で安心して暮らせる権利の保障が必要

有村律子

精神障害者と一言でいっても病名はいろいろあって、統合失調症、双極性障害1型、双極性障害2型、うつ病、強迫神経症、パニック障害、薬物依存症、アルコール依存症、てんかんも精神保健福祉法の附帯決議に記載されています。このように、精神障害者の範囲は幅が広いです。

厚生労働省は社会的入院者の精神障害者を平成23年までに7万2000人を退院させると言っていましたが、7万人くらいの人は、まだ病院の中に残されています。

社会的入院者は高齢化しています。引き取り手がいなければ一生病院の中です。

高齢化で認知症が出てくる人もいるでしょうし、徘徊もはじまると思います。精神科よりも一般の人と同じように高齢化による体の機能低下で日常生活が困難になっていくこともあると思います。その時に当事者の人権は守れるのか?精神科の医師と看護師は一般病棟より人数が少ないので、人出が足りないからということで、オムツをしたまま何時間もいるとか、拘束されたりしないだろうかと心配です。患者よりも自分たちの仕事を優先することになると、たいへんなことになると思います。

障害者権利条約が昨年5月3日に発効されましたが、日本はまだ批准をしていません。まだまだ国内の法整備がなされていない中で、精神障害者は、嫌だといっても強制的に精神科病院に入れられたり、注射されたり、薬を飲まされたりしてきました。

これは精神保健福祉法や心神喪失者等医療観察法などの法律によって、強制されてきたのです。こうした法律は世界各国に存在します。

精神障害者の人権は法律によって否定されてきたのです。そのうえ日本は、世界で一番精神障害者や知的障害者を精神科病院や施設に閉じ込めている国です。現在、刑務所に入れられている人は約6万5000人。その5倍以上の35万5000人が精神科病院に入れられ、そのうちの半数が1日24時間365日、鍵のかかった病棟に閉じ込められています。

精神障害者とほかの障害者の仲間が努力した結果、障害者権利条約はすべての障害者に障害のない人と差別なく人権を認め、障害を根拠として自由を奪われることを否定しました(14条)。

また、強制医療は人としての完全性、統一性を侵害することであり、「拷問」あるいは「残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つける取り扱い」であると位置づけられ、障害のない人と平等に、人としての完全性、統一性を侵してはならないと定めたのです(15条、17条)。さらに医療においては、ほかの人と平等なインフォームド・コンセントの権利を保障し、リハビリテーション等についても自発的な利用を目指して計画が立てられることになっています(25条、26条)。

権利条約4条は、締約国の義務として、障害者差別となる法律等の修正廃止を求めています。

精神障害をもつがゆえに、法により閉じ込められ医療を強制されてきた歴史に、権利条約によって今、終止符が打たれようとしているのです。

精神保健福祉法や心神喪失者等医療観察法を撤廃するだけでなく、だれもが安心して医療や福祉を利用し、地域で暮らすことを権利として保障する体制が必要です。さらに、そうした権利をだれもが主張できる支援体制もまた求められています(4条、14条、15条、17条、25条、26条)。

権利条約を結んだ国は、特に次のようなことが、きちんと行われるようにしなくてはなりません(19条)。

  1. 障害者が望まない入所施設や病院での生活を強制されないようにすること。
  2. 障害者が地域で自立して暮らすために必要な福祉サービスをきちんと使えるようにすること(そのような福祉サービスを欧米では「パーソナルアシスタンス」と呼んで介助サービスも含まれることが特記されています)。
  3. 障害者が暮らす地域の公共サービスや施設を、障害のない人と同じように快適に使えるようにすること。

しかし、精神障害者の置かれている現実はまだまだ厳しいです。

高齢化すると先ほども書きましたが、病院での生活を余儀なくされそうで心配です。

それから、地域で暮らす精神障害者の人たちにもヘルパーがつくようになりました。しかしそれは65歳までで、それ以降は介護保険になります。

精神障害者は疲れやすくて、薬の副作用ですぐに眠くなったり、のどが渇いたりなどいろいろな副作用があります。手が震えたり、足踏みをしたり、目がつり上がったり、そういう症状が出る当事者の人々は自分の病気のことで精一杯です。ぜひ65歳を過ぎてもヘルパーをつけてほしいと思います。

平成14年4月1日から、ショートステイとホームヘルプサービスとグループホームが市町村で実施されるようになりましたが、グループホームの数はまだまだ少ない状況です。早く地域で安心して暮らせるようにしてほしいです。

私自身ももう孫がいる歳になりました。次男と一緒に住んでいますが、仕事の関係で帰宅が遅かったり、早く帰ったりで、いろいろです。長男は結婚して、同じ市内に住んでいます。奥さんは2番目の子が12月に生まれます。長男夫婦とは月に1回くらいの割合で一緒に食事をしています。それがコミュニケーションです。私はみんなと仲良く暮らすことが一番だと思っています。

(ありむらりつこ 全国精神障害者団体連合会常務理事)