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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年10月号

盲老人ホームの生活援助

酒井久江

1 全国盲老人福祉施設連絡協議会について

全国盲老人福祉施設連絡協議会(略称、全盲老連)は、昭和43年4月、全国に4施設しかなかった盲老人ホームを組織して、盲老人の幸せのため、ケアの充実をめざして職員の増員、盲老人ホームの増設などの陳情活動と、専門的ケアの向上のため、職員の職種別研修を実施してきた。職員の増員も徐々に認められ、盲老人ホームの数も創設後15年の間に40施設となり、平成9年には48施設になったが、まだ5県に開設されていない。全盲老連は昨年創立40周年を迎えたが、各種の調査研究と研修の成果により、全国の盲養護老人ホームのケアは高い水準を保っていると考える。

平成18年度から、養護老人ホームの法改正により、新型養護老人ホーム制度では、「終の棲家」から、「自立と社会復帰を目指す施設」と位置づけられた。盲老人ホームにとっては、特に大きな岐路に立つこととなったが、改正3年目の今、数々の問題点が浮き彫りにされてきた。

全盲老連加盟施設利用者の介護認定の状況は、平成18年10月の調査で、要介護1~5が全利用者の43.3%、要支援と申請中が37.7%、自立は19.2%であった。自立以外の人数は、平均1.7%、定員を考えると1施設9~19人となる。極端に50~70%ほど抱えている施設もある〔注1〕。このような状況を見ると、「自立と社会復帰」は、盲老人ホームの専門性と必要性を訴えてきた全盲老連の理念を、改めて社会に訴えるとともに、ケアのあり方を真剣に考えるべき時と考える。

2 聖明園曙荘の場合

(1)利用者の状況

現在、聖明園曙荘は入所者100人のうち、99%の人が障害者手帳を保持しており、重複障害をもった人は10%を超え、介護認定を受けている人は15%である。

平均年齢は、男性が77.8歳、女性は80.6歳、全体で79.6歳で、在園年数の平均は9年である〔注2〕

利用者の多くは50歳以上で失明した中途失明者で、高齢だからという理由で障害者としての必要な生活訓練やメンタルケアも受けられずに、失明という精神的な苦悩を克服できず、その苦しみを家族や周囲の人々にも理解されない。そのような状態のまま、自宅で家族に依存し、歩行も日常生活行動もできずに入所したケースが多い。

日常生活援助の上では、個別援助を必要とする人の増加、通院者の増加、精神的援助を必要とする人も認知症の人を含め増加している。これら要援助者への支援、介助は増加の一途をたどり、自立者が求める支援が十分できない状況は、利用者の高い満足度を得ることも難しい状況である。

(2)盲老人ホームにおける「自立支援」とは

盲老人のための設備環境(点字ブロック、誘導鈴、転落防止柵やてすり、遊歩道など)や機器(拡大読書器、点字案内図、点字標記など)を整えた上、専門的援助技術を持った職員が援助することにより、利用者が可能な限り自身の生活が自立できると考えている。

しかし、自立といっても、視力を失うことは、目から得ることができる情報の80%は喪失すると言われており、見えないことによりできないことは実に多く、自立できることは限られる。特に、預貯金の出し入れ、管理、手紙の代読、代筆などプライバシーに関することまで人の手を借りなければできない。盲老人ホームでは個別の支援の充実がいかに重要で、単なる自立ばかりでなく、その人らしい豊かな生活が求められるのである。

(3)日常生活援助の内容

本園では、日常生活の援助は、ケアサポートプラン(全盲老連独自のもの)を策定し、一人ひとりの状態に合わせ計画的に行っている。新入所利用者へのオリエンテーションの反復とプランの評価、見直しなどを繰り返し行いながら、自立への支援を行っている。

介護を必要とする利用者には、外部事業所のサービス利用のための調整と連携を図り、利用者のニーズに即したサービス提供ができるよう、常に見直しを行っている。

認知症の進行や精神的変調が認められる利用者へは、「個々に深く関わる」ことを基本に、各職域との連携を図り、夜間徘徊や夜間時迷い時の事故防止を最優先に、こまめな巡視と普段の観察への職員の努力を怠らないことを常に確認し合っている。また、認知症や心身の機能低下を予防するため、介護予防教室、音楽療法を継続して、大きな成果を上げている。

職員は、全員アイマスクによる歩行訓練、食事、点字の勉強など視覚障害体験を通して、障害への理解を深めている。ボランティアの方々へも、常に専門的援助の指導をさせていただき、利用者の生活への援助と心のふれあいは、豊かな生活への大きな力となっている。

(さかいひさえ 全国盲老人福祉施設連絡協議会常務理事、聖明福祉協会参与)

〔注1〕全盲老連第7回全国盲養護老人ホーム利用者実態調査報告書

〔注2〕社会福祉法人聖明福祉協会平成20年度事業報告