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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年10月号

正直言って暗中模索

鈴木栄作

はじめに

麦の郷は、無認可時代のたつのこ共同作業所から数えて32年が経った。障害のある人たち(以下、「仲間たち」と称す)が地域で当たり前に生きていくために、障害の種別を越え、労働支援や生活支援など28事業の社会福祉・公益事業を実施し、仲間たちと共に歩んでいる。その中でくろしお作業所(以下、「くろしお」と称す)は、障害の重い仲間たちの支援を生活介護事業として実施している。たつのこ共同作業所が前身であるので、麦の郷では最も古い事業所である。作業所づくりのきっかけとなった青年Dさんは57歳となり、盲ろうの障害を抱えながら毎日元気に通所している。

くろしおでは、ここ数年前より仲間たちの高齢化そのものの問題や、加齢に伴う障害の重度化や身体機能の低下などの問題に直面し、明確な答えも見つからないまま、暗中模索の実践を繰り返しながら仲間たちと向き合っているのが現状である。くろしおが取り組んできた事例を通して、みなさんと仲間たちの高齢化問題について考えてみたいと思う。

「生涯現役」でいいの?

作業所・日中活動の場は、一体いくつまで仲間が通えるのだろうか。通わせてもいいのだろうか。職員と同じように、60歳定年とすべきなのだろうか。議論にはなるのだが、結論が出ないまま仲間たちは60歳を過ぎた今も元気に通っているのが現実である。

Dさんから「ぼくは60歳でくろしお終わりかな」と、時折問われる。私は、「Dさんがくろしおに通うのが楽しいのであれば、SさんやMさんのように死ぬまでここで仕事していいよ」と答えているが、これが適切かどうかは分からない。

Sさんは、去年3月、福祉ホームで入浴中に倒れて心不全で亡くなった。71歳であった。亡くなるその日まで作業所に通い、タオルを折る作業をしていた。Sさんもたつのこ共同作業所時代からの聴覚障害と知的障害のある仲間であった。若い頃は、ろう学校で学んだ技術で竹串や塔婆づくりをする職人であった。作業所に通ってからも仕事大好きで、手先の器用さを活かし、皮製品の加工や一斗缶を再利用した塵取りづくりに励んでいた。63歳を過ぎた頃から高血圧や白内障・緑内障を患い、体力の衰えを感じたのか、自ら塵取りづくりをやめた。その後も毎日作業所に通って午前中は軽作業をして、午後は日なたぼっこしながらソファーに座って居眠りをするのがSさんの日課だった。

Mさんは今年1月、すい臓癌で亡くなった。68歳であった。軽い知的障害があり、くろしおには一般就労を経て50歳頃から通い始め、良い兄貴分でみんなから親われていた。一人暮らしで身よりもないMさんに、去年6月に突然癌の病が襲いかかる。本人に告知するが、入院を拒み治療を断念。痛みと闘いながら好きな作業所に通う半年であった。年が明け、痛みに耐えきれなくなり入院したが、わずか10日で旅立ち、Mさんらしい最後であった。

Sさん、Mさんに共通して言えることは、作業所(働く場)が「生涯現役」の場であったということである。このことを単に評価していいのだろうか。

老いても作業所なの!

「生涯現役」続行中のYさんは、65歳。くろしおに通う精神障害の仲間である。一般就労中に発病し、40歳頃から麦の郷の支援を受けた。麦の郷内のさまざまな労働支援を経験し、生活訓練を経て一人暮らしも経験した。現在は、製麺(うどん)作業でパック詰めの工程を毎日している。生活は福祉ホームで、介護保険や訪問看護の支援も受けている。加齢による身体機能の低下や障害の重度化はYさんも例外ではなく、5年前の自転車転倒事故での骨折以来、足首の変形による歩行困難な状況や精神疾患に伴う若年性痴呆の疑いなどがある。このため、支援の度合いや内容が日増しに変化しているのが現状である。そんなYさんに、「体がしんどい時は作業所休んで、ホームでゆっくりしなよ」と声をかけても拒否される。休みの日は何をしていいのか分からず、余計不安なのである。

探ろう、老いてからの居場所を

以上の3つの事例から、高齢となった仲間たちにとっても通い続けたい場所は、今のところ作業所であるといえる。作業所には、仲間がいて活動(作業)があり支援があるのと、長年、慣れ親しんだ安心感があるのだと思う。

しかし、仲間たちにとって、今の作業所しか選択肢が無いことも事実である。現在、障害福祉分野での高齢障害者向けの制度は無い。介護保険の日中活動のサービスに障害者(知的・精神)も含めるのが専門性の違いから困難な状況もある。

高齢化する障害者の問題は、とても重い課題であるが、仲間たちが年老いても、地域の中で安心して過ごせる居場所の保障が早急に求められているのも事実である。それが、既存の作業所でよいのか、新たな形態が必要なのかは、私の中ではまだ答えが出せない。今後、Dさんの問いに自信をもって答えられるよう議論を重ねていきたいと思う。

(すずきえいさく 社会福祉法人一麦会麦の郷くろしお作業所)