「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年10月号
報告
第32回 総合リハビリテーション研究大会
寺島彰
2009年8月29日(土)、30日(日)の2日間、埼玉県立大学を会場にして第32回総合リハビリテーション研究大会が開催されました。総合リハビリテーション研究大会は、1977年に、医療、教育、職業、社会等、各分野にまたがるリハビリテーション従事者の横の連携と、人的・知的交流を目指した「リハビリテーション交流セミナー」として、リハビリテーション専門職有志らにより開始されました。昨年は広島で第31回大会が開かれ、今年は埼玉が開催県となりました。
大会のテーマは、「リハビリテーションのいま・そして・交流」です。リハビリテーションの現状についてさまざまなレベルおよび領域から報告をいただき、リハビリテーションの意義について検討するための問題提起を行うとともに、リハビリテーション各領域の交流を図ることを目的としました。
プログラムは、表のとおりで、世界およびわが国の最先端の方々に参加をいただき、リハビリテーション・インターナショナル(RI)の考え方、ヨーロッパのリハビリテーションの取り組み、わが国の最先端の状況などを知ることができ、リハビリテーション従事者の交流に向け、さらに知見が広がりました。
8月29日(1日目)
8月30日(2日目) 分科会「リハビリテーションの現状と交流」(9:30~12:00)
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プログラムから分かるように、どの講演、分科会も興味深く、すべてを紹介したいところですが、紙面の都合で、外国からお招きした演者による講演の内容についてご紹介させていただきます。
基調講演1「リハビリテーションと障害者の権利促進への世界的取組みにおけるRIの指導的役割」
ヴィーナス・イラガン(国際リハビリテーション協会(RI)事務総長/RI財団最高経営責任者)
演者は、フィリピン出身で、現職に就く前は、アジアの障害者リーダーとして「アジア太平洋障害者の十年」に関する活動をリードしてきました。RIのリーダーシップについて、次のような内容の講演がありました。
RIは、世界100か国以上の障害当事者、サービス提供者、政府機関、各種専門領域の個人など、1,000を超える会員・加盟団体から構成されています。1922年に米国で設立されて以後、障害種別を越え、専門領域を越え、さまざまな分野の専門的知見を結集した交流の場を提供し、障害者の能力向上、インクルージョン、地域参加を推進してきました。たとえば、ICTA(イクタ:テクノロジーとアクセシビリティに関するRIの専門委員会)が提唱した「国際シンボルマーク」(車いすのマーク)の作成が挙げられます。
また、国連障害者権利条約の成立に向けた交渉に重要な役割を果たしました。さらに、RIは、5か年戦略計画を策定し、4つの目標(リハビリテーションとハビリテーション、権利条約の実施、貧困削減、人権問題への関与)を掲げ、RIネットワークの広範な専門的知見を活用し、障害者の生活向上と権利実現に向けて指導的な役割を果たしていくとのことでした。
特別講演「リハビリテーションの発展と革新ヨーロッパの展望」ドナル・マカナニー(欧州リハビリテーション協会(EPR)上級顧問/ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン障害学センター研究員)
演者は、ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンでリハビリテーションの教鞭をとるとともに、欧州リハビリテーション協会(EPR)等にて上級顧問を務めておられます。教師・教育心理学者で、リハビリテーション分野で25年以上の活動経験を持ち、リハ・グループ(欧州数か国で活動するNGO)で障害者の職業に関するいろいろな研究に携わる(1983~2006)ほか、スタッフの教育研修にも20年以上携わっておられ、研修ニーズの評価や、さまざまな研修課程の開発も行っておられます。
講演の内容は、リハビリテーションの5つの原則、ヨーロッパにおける国連・障害者権利条約の批准状況、国際生活機能分類(ICF)のリハビリテーションサービスへの活用状況、6か国が共同で進めているリハビリテーションサービスの包括的な比較検討作業の成果、リハビリテーションの成果としてエンパワメントと生活の質を評価するための3つの新しいツールの内容と活用状況、ヨーロッパ18か国において過去5年間にわたって行われた障害と雇用の問題に関する5つの国際研究プロジェクトから得られた知見など広範な内容を含んでいました。
そのうち、ICFのリハビリテーションサービスへの活用状況の内容を紹介しますと、ヨーロッパでは、対象者を限定したさまざまな基本セット(Core Set)が開発されているということです。たとえば、ポルトガルでは脳外傷を評価する基本セットを作成したり、ドイツでは言語障害者の自己診断法が開発されているそうです。当日は、精神障害者にICFを適用した例や、身体障害者の活動と参加を測定するためのコアセットが具体的に紹介されました。たとえば、アイルランドでは、身体障害者の社会参加のバリアとなっている一番の要因は気候であるという測定結果であったということでした。また、障害者権利条約の評価にICFを活用する試みも行われる予定であるとのことです。
第32回総合リハビリテーション研究大会の詳細は、(財)日本障害者リハビリテーション協会が発行している「リハビリテーション研究(141号)」に掲載されます。興味のある方はぜひご覧ください。
(てらしまあきら 本大会実行委員長・浦和大学教授)