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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2009年12月号

乳幼児期から就労までの一貫した支援
―湖南市発達支援システム―

藤井茂樹

1 はじめに

平成11年、甲西町(平成16年石部町と合併し現・湖南市、人口約5万6千人)において、町内のすべての障害児・者団体(知的障害・身体障害・精神障害・発達障害等)が障害のある人への一貫した支援体制を求めて、「甲西町障害児・者団体連絡協議会」を結成した。この協議会の最初の活動が、障害のある人への支援体制の実現署名であった。1万3千人の署名を集め当時の町長に要請し、障害児教育の専門家の採用と支援システムの構築を約束されたのである。この専門家が筆者であり、平成12年から2年間かけて発達支援システムを構築した。

2 発達支援システム

このシステムは、教育・福祉・保健・就労・医療の関係機関の横の連携によるサービスと、個別指導計画・個別移行計画による縦の連携によるサービスを提供するものである。横の連携は、支援対象児者に対し関係する諸機関が役割分担しながら、個別のサービス調整会議を基に支援することであり、縦の連携は、個別指導計画を療育段階から保育園、幼稚園、小中学校、就労に至るまで継続して作成、活用する共通支援ツールとしていることである(図1)。

図1 湖南市のライフステージにおける発達支援
図1 湖南市のライフステージにおける発達支援拡大図・テキスト

システム全体を統括する発達支援室が、市長部局に設置されている。この発達支援室が、市役所内の保健・福祉・教育・就労担当者と連動しながら、障害のある人への支援を行っていく。

(1)乳幼児期における支援

乳幼児健診により障害の発見と支援が始まる。3歳半までに5回健診が実施され、保健師・小児科医・発達相談員・保育士等を配置し、子育て機能を充実させている。健診で気づかれた事例は、保健師・療育担当者・発達相談員・ことばの教室担当者・教育委員会指導主事・発達支援室担当者などによる母子サービス調整会議を開催し、処遇検討会を行っている。この場では、不安に感じている母親等にだれが中心に関わり、今後、それぞれの事例をどの場で支援していくかを複数の専門家が話し合うことに意味がある。まず母親を支えることである。共感的理解と寄り添う支援から子どもの支援が始まる。

支援機関は、親子教室、療育教室、ことばの教室が設置され、個別指導計画に基づいた支援を行う。この計画書が次のステージの保育園、幼稚園に引き継がれていく。保育園、幼稚園では、個々の子どもの状況に応じて加配の担当者が配置され、個別指導計画が作成され支援がなされていく。園には、療育教室発達相談員や発達支援室保健師等が巡回相談にまわり、個々の子どもの行動観察や具体的な子どもへの関わりなどのコンサルテーションを行う。

巡回相談では、園の担当者とともに個別指導計画の作成と評価を実施している。

(2)学齢期における支援

小中学校は、国が推進している特別支援教育を充実させながら、市の発達支援システムと連動させた取り組みを行っている。

就学前に作成された個別指導計画は、小学校に引き継がれ、個のニーズに応じた指導・支援が開始される。学校は特別支援教育コーディネーターを中心に、学校全体で取り組む支援体制を構築してきている。障害のある児童生徒だけでなく、不登校や虐待、生徒指導をも含めた指導・支援体制である。

個の支援では、関係機関との連携による支援であり、市役所内の虐待担当者、精神保健担当者、生活保護担当者、障害福祉担当者、児童相談所ケースワーカー、保健所保健師、民生児童委員、教育委員会指導主事と連携している。諸機関と連動した支援の調整は発達支援室が担い、学校を支える体制をとっている(図2)。

図2 相談支援のシステム
図2 相談支援のシステム拡大図・テキスト

(3)就労支援

障害者就労支援検討会を立ち上げ、障害者の就労についてを商工業会、福祉関係機関、行政・教育関係機関が検討を積み重ねた結果、市内の企業が特例子会社を設立するまでに至った。

また、平成21年度障害者就労情報センターを市単独で設置し、2名の就労支援コーディネーターが中心となり、市内や周辺の市町村にある企業をまわり就労情報を提供している。就労支援は引き継がれた個別指導計画を基本に、当事者の希望を踏まえ関係諸機関の連携により進められている。

(4)発達支援ITネットワーク

発達支援に必要な情報交換のために、ITネットワークを運用している。市内公立・市立保育園、幼稚園、公立小学校、中学校、発達支援室、学校教育課、保健センター、ことばの教室、個別療育、子育て支援課、社会福祉課、商工観光課を結んでいる。また、市専門家チームメンバーの小児神経科医や巡回相談員、さらに養護学校とも情報交換ができる仕組みである(図3)。

図3 発達支援ITネットワーク
図3 発達支援ITネットワーク拡大図・テキスト

ITネットワークの特徴は、関係者間の連絡調整や会議録の共有が簡単にできること、保護者の了承のもとに子どもの状況や指導記録が蓄積できることにある。機能は大きく二つあり、一つは参加者にオープンな会議室での各機関へのメッセージ送信と返信、個別指導計画様式等のダウンロード、国の動向等へのリンクや研修に関する情報提供である。もう一つはクロードな会議室での子どもに関する指導情報の蓄積と共有である。また、特別支援学級の子どもたち同士のメッセージ交換や学習発表の場としても活用している。

この発達支援システムは、平成17年6月議会において、「障がいのある人が地域でいきいきと生活できるための自立支援に関する湖南市条例」が制定され、市・市民の責務として位置づけられ取り組まれている。発達支援システムの円滑な運営と保健・福祉・医療・教育・就労の関係機関との連携による障害のある人への効果的な支援を求めたのである。

また、湖南市の隣の甲賀市(人口約10万人)とともに、支援を必要とする一人ひとりのニーズに応じた支援を行うための「ここあいパスポート」を作成し、生涯にわたる継続した支援のためのサポートブックの活用にも取り組んでいる。ここあいパスポートと各ステージごとの個別指導計画をどのようにリンクさせていくかが課題である。

3 システムからの効果

湖南市発達支援システムの運用から、障害のある人や支援が必要な人にとって継続した支援が受けられることになり、将来の見通しが持てるようになった。また、乳幼児期、学齢期、青年期とそれぞれのステージでの個々の支援の充実が図られてきている。障害児保育、特別支援教育が充実し、よりきめ細やかな支援がなされている。保育園・幼稚園・小中学校・療育機関等の各機関は、互いに連携しながら組織全体で取り組んでいる。

連携の一つとして、「繋ぎ」の充実があげられる。個別指導計画を繋ぎのツールとして、発達支援室担当者や教育委員会指導主事がステージごとの担当者とともに繋げていることである。

また、園や学校だけでは取り組むことが困難な事例に対し、市が園や学校を支援する仕組みができあがっているため、それぞれの機関が主体的に取り組んでいる。子ども自身の課題だけではなく、家族の状況に応じた支援を考えると、行政等を巻き込まないと難しい。湖南市の発達支援システムは家族全体を考慮に入れながら、子どもへの対応ができるシステムといえる。

4 課題と今後の展望

これまでの取り組みを振り返ってみると、発達支援システムの活用状況の把握が、不十分である。今後は、それぞれのステージにおける支援状況を、どのような形で評価し支援に反映させていくかである。

市内の保育園、幼稚園、小中学校間においてシステム活用に差がみられ、個々の事例への支援の質的な面での課題があがってきている。就労支援は充実してきているが、経済状況の厳しさから障害のある人の就労は依然として難しく、働く場の開拓とネットワークづくりが課題である。

障害のある人等が自立していくには、生活面と労働面がバランスよく機能しており、当事者の主体性と支援がうまくマッチングしていくことが重要である。今後とも、この発達支援システムを充実させながら、一人ひとりの支援のコーディネートがよりきめ細やかに実施されていくことが求められる。

(ふじいしげき 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所)

【参考文献】

1) 藤井茂樹 「特別支援教育と発達支援システム」『発達障害支援システム学研究』第3巻第1号 31―37、2003

2) 藤井茂樹 「支援のニーズに応じた保健・福祉・教育・就労・医療との連携」『発達』103、vol.26 73―78、2005

3) 藤井茂樹 「滋賀県湖南市発達支援システムの概要と支援体制」『特別支援教育研究』No.590 24―27、2006

4) 藤井茂樹 「早期発見から就労までの発達支援ネットワーク」『発達』119、vol.30 34―40、2009