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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年1月号

わがまちの障害福祉計画 宮城県岩沼市

岩沼市長 井口経明氏に聞く
誰もが住みよい健幸先進都市と福祉教育

聞き手:樫本修(宮城県リハビリテーション支援センター所長)


宮城県岩沼市基礎データ

◆人口:44,438人(2009年11月末現在)
◆面積:60.72平方キロメートル
◆障害者手帳所持者(2009年12月1日現在)
身体障害者手帳 1,356人
知的障害者(療育)手帳 258人
精神障害者保健福祉手帳 142人
◆岩沼市の概況:
宮城県の中央部仙台市から約17キロ南にあり、東北本線と常磐線の分岐点、国道4号・6号の合流点、また仙台空港が所在するなど交通の便が大変良い。山、川、海にも面し、気候も温暖で雪も少ないのが特色。民間情報誌が発表した「全都市ランキング(2009年版)」の住みよさランキングでは東北で6位と評価される。かつては「門前町」・「宿場町」として栄え、俳人芭蕉も訪れ、古来詠われていた「武隈の松」を詠んだ句を残している。日本三稲荷の一つ竹駒神社があり年間160万人の参詣者が訪れる。
◆問い合わせ先:
岩沼市健康福祉部社会福祉課福祉係
〒989―2480 岩沼市桜1―6―20
TEL 0223―22―1111(内線357)
FAX 0223―24―0406
http://www.city.iwanuma.miyagi.jp/

▼岩沼市は宮城県の中でも精神障害関係施策が進んでいると聞いて今日伺いました。特に力を入れてこられたいきさつを教えてください。

小島病院という精神科病院の元院長が熱心に尽力されてきたこともあり、この方面では進んでいると思います。まずは、障害のある方が参加できる場、居場所、交流の場が必要と感じ、平成6年度にデイケアを設けたのが始まりです。最初は週1回、7年度から週2回となり、10年度にデイケアを廃止し、現在の小規模作業所「工房あすなろ」を開設しました。

また、平成13年度・14年度に「宮城県精神障害者コミュニティサロンモデル事業」を開始し、宮城県初のコミュニティサロンをスタートしました。引き続き15年度からは市の事業として継続して取り組んでいます。工房あすなろもコミュニティサロンも市直営の事業です。これも全国では珍しいかと思います。

コミュニティサロンでは、居場所の開放、軽運動、調理実習、ピアカウンセリングなどを行い、病気の再発予防を図ります。退院しても居場所がない社会的入院をしている方が、このサロンができて行き場ができたことにより、退院が実現した事例もありました。サロンができる前は、病院に行って過ごしていた方や在宅の精神障害者で日中の居場所が無く自宅に引きこもっている人もこのサロンで過ごすようになりました。

▼「工房あすなろ」と「コミュニティサロン」を市が直営しているのはとてもユニークですね。ボランティアの方たちとの関わりはあるのですか。

デイケア開始と同時に、平成6年度に小島院長の勧めで精神障害者家族会を結成し、こころの健康講座を開始しました。9年度には精神障害者の理解を深めていただくため、市民を対象に第1回メンタルヘルスボランティア養成講座を開講しました。現在までに4期開講され、受講者は78人に上ります。この講座を受講した方々によるボランティアサークル「ぞうさんの会」が誕生し、工房あすなろでの革製品加工・裂き織りの作業の手伝いや作品販売等で支援していただいています。

昨年の10月19日には、家族会結成15周年記念感謝の集いをグリーンピア岩沼で開催しました。私も出席しましたが、ご家族はもちろん、ボランティアなどの関係者60人が集まり、和やかなたのしい時間を過ごしました。

▼先ほど、両施設を見学させてもらいましたが、雰囲気がとても明るいのが印象的でした。ボランティア養成講座を開いて市民の方を巻き込んだ支援体制をとられたのはすばらしいことですね。障害のある人たちの地域生活支援について、市長さんはどのようにお考えですか。

私は障害のある人もない人も、すべての人々が健康でより幸せを実感できる生活が営めるよう健幸先進都市・岩沼の実現を目指したまちづくりを進めています。障害のある方がごく当たり前に暮らせる、人間として尊厳を保ち、バリアのない街を目指しています。重い障害のある方が住みよいかどうかということがその街の判断基準になると思います。福祉が良いということは市(行政)が良いということになります。障害が特別なものではないという意識改革が大切で、これには教育の力が大いに役立ちます。市民全体の幸せを高めるのが福祉であると考えています。

▼岩沼市がいち早く統合教育を推進してきた根底には市長さんのこの考えがあるのでしょうか。少し詳しくお話ください。

子どもの時から障害を区別しない、障害が特別なものではないことを理解できるように、県内ではいち早く統合教育を進めてきました。ごく身近に障害のある人がいることで子どもたちの反応も変わり、身近に接することで当たり前の存在として認識できるようになります。障害を理解するために子どものうちからの教育は大切です。

特別支援学校か普通校にするかは本人たちの判断に任せています。他町の障害のある子どもが岩沼の学校に通いたいという希望があったので、約180万円をかけて学校の改築を行い、小学1年から受け入れたこともあります。岩沼の良さを評価してくれて他所から越して来る方もいらっしゃいます。

指導助手の配置をしたのも宮城県では岩沼が最初です。養護学校教諭の資格者を採用して、知的障害児のために配置したのが始まりです。40人に1人の先生では対応が無理で、1人の障害児に指導助手を配置することで、担任は他の39人に対応できます。これは、1人の子どものためではなくて、すべての子どもの教育指導の保障になります。「小学1年で学校嫌いをなくそう」というスローガンを立てて、現在は小学1年、知的障害児、発達障害児、理数の苦手な子どもの4分野で指導助手を配置しています。

また、これも宮城県では第1号となりますが「親子ふれあい絵本事業」を行っています。1歳8か月の幼児を対象に絵本を2冊配布し、絵本の読み聞かせを通して親子のふれあいを促進するのがねらいです。

私は教育大学の出身なので、教育に対する思い入れは強いほうかもしれません。「福祉教育」と私は言っていますが、それを高めていきたいと考えています。子どものうちから障害のある人が隣りにいることが当たり前の社会、私は子どもを信じ、教育の力を信じているんです。

▼これまでの事業を通して、障害のある人に対する住民の理解は進んできたのでしょうか。

10年前に比べたらかなり理解は進んできています。これには時間がかかることで、行政が先頭に立ち中心になって取り組む必要があります。障害を隠さずに当事者の方が外に出る、障害をもつ親御さんの方も子どもを外に出す努力をされてきました。通所授産施設ひまわりホーム、地域活動支援センターやすらぎの里、自立生活体験学習支援施設トレーニングホームたてした(今月号「列島縦断」コーナーで紹介)は、住宅地の中にあります。先に福祉施設があったことで、その後、周囲が新興住宅地として開発された中でも違和感なく融け込んでいます。工房あすなろとコミュニティサロンは、市役所の目の前の保健センターと旧勤労青少年ホームの中にあります。こういう立地条件も障害のある人の地域移行、住民の理解をすすめる上では大事な観点です。

▼市長さんの進める健幸先進都市の意味するところが分かってきました。最後に、今後の障害者施策について市長さんの抱負を教えてください。

岩沼市でも発達障害ではないかと思われる子どもたちが増えています。乳幼児の検診等で障害が発見された子どもについては、療育等につなぎ臨床心理士等の指導を受けていますが、幼稚園、保育所等に入った時点でその指導が希薄になってしまいます。今年度より、保育所等に入っている障害児に対しても指導を継続し、また、保育士の療育における援助力向上の研修等も併せて行っています。ADHDやLD児に対しても指導助手の配置で対応をしていきます。

南部地区総合福祉施設(仮称)を平成23年4月にオープン予定です。昭和44年に開館した南児童館、54年に併設開館した心身障害児のすぎのこ学園とも施設の老朽化が著しく、改築に合わせて新たな土地に建設するものです。「地域における自立と助け合いを基本とした児童福祉活動の拠点づくり」をコンセプトに、児童館、子育て支援センター、障害児の通園施設、コミュニティサロンと世代間交流を目的に、地域交流複合施設として、だれもが歩いて行ける地域の中心的な場所に造ります。学校の隣に設置することで学校との連携も図る計画です。

概略平面図
概略平面図拡大図・テキスト

障害者の就労支援については、本当は納税者としてチャレンジドになってもらいたいと考えています。チャレンジドというのは、「挑戦する能力を神様からもらった人」という意味があります。障害をもっていてもみんなと同じように税金を払いたいと思っている人も多いと思います。理想はみんなが社会人です。その人にふさわしい仕事の提供、働く方も誇りをもって働き、それを周りが認めることです。それがノーマルな社会の実現につながります。障害のある人が働くことを手助けする意味でも、最低賃金の保障を考えるべきだと私は思います。

行政でも新人職員の福祉的研修が大事で福祉マインドをもって臨む意識改革が求められます。公園、道路を造るにしても最初からそういう視点で計画することを指導しています。そのためには当事者の意見を聞く機会を設けることが大切です。今回の取材も職員にとっては良い勉強になり、良い機会となりました。


(インタビューを終えて)

もともと教育者である井口市長さんは、教育の力を信じ、まさしく教育者の視点で岩沼市のリーダーとして舵を取っておられます。岩沼市役所のすぐ目の前に市直営の工房あすなろとコミュニティサロンがあり、障害当事者の方々が本当に生き生きと集い、活動していました。車で数分の所には、一般住宅街に隣接して通所授産施設ひまわりホーム、地域活動支援センターやすらぎの里等の福祉ゾーンがあります。その目の前には急性期医療から回復期リハビリテーションに力を入れている総合病院があり、まさに医療から福祉への連携が完成されています。現場を見せていただき、井口市長さんにお話いただいた、障害のあるなしに関わらずすべての人々が安心して住むことができる「誰もが住みやすいまち岩沼」であることが実感できました。